五日目
わたしはベッドから立ちあがって、外に出かける事にした。カーテンを開けると雨は上がっているようだった。
外に出ようとして、気づいた。靴がはけないのだ。わたしの足は普段より一回りほど大きくむくんで、青く色がついていた。
行き場の無くなった言葉は身体の中に沈み込んで、でもどこにも行けずに一番底に沈殿したのだ。青く固まった足は、痛くも辛くも無かった。
しかたなしに、わたしははだしのままで外に出た。
雨上がりの町並みはどこかきらきらと光っていて、その眩しさに目を向けられずに、わたしはうつむいたまま歩いた。
じっと青くかたまった足を見つめながらしばらく歩くと、何人かの人とすれ違っていく。彼らの足も、私と同じようにちょっと膨らんで、はだしだった。
今すれ違ったおじさんは真っ赤な足でうつむいて歩いていった。向こうに見える高校生らしき少女は薄いピンクの足で、やはりうつむいて、じっと足元を見つめている。向こうにも───。
こんなにも、こんなにも言葉をのみこんだ人たちがいるのだ。
わたしは顔をあげる事ができずに、さらにうつむいて町を歩きつづけた。
あてもなく、ずっと歩いていると、わたしの足は急に重みを増していった。一歩一歩が重たくて、まるで根っこでも生えたように、地面から引き剥がしながら歩いた。うまく歩けずに、わたしは足をもつれさせて転んだ。
水溜りに手をついて、じんじんとしびれる足をさすっていると、わたしの目の前に大きな手が差し出された。
彼だった。
わたしの青くかたまった足を見つめて、促すようにもう一度手を差し出した。
わたしは自然に、吸い寄せられるようにその手を取る。私をじっと覗き込む彼の瞳は、少し不思議そうで、だけど真摯にきらきらと輝いていた。
「ありがとう」
手を引かれて立ちあがると、わたしの青く膨らんでかたまった足は、しゅう、と音を立ててしぼんでいった。
膨らんだ足はもう普段の足に戻っていた。沈殿した言葉もどこかに消えて、胸の奥には安らぎが広がっていく。
顔をあげると、白くお日様を照り返して、きらきらと輝いた町並みがわたしの目に飛び込んでくる。
わたしは軽い足取りで、彼の手を引いて歩き出した。
言葉のかたち 島本 葉 @shimapon
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