第六十七話 吸血鬼(4)
「ダーヴェルは千年生き続ける吸血鬼ですからね。そういう輩を殺すのはそれ以上の寿命を生きたものではないと無理と思うのが普通かも知れませんね……例えば犬狼神ファキイルとか」
「実在しているのか?」
ズデンカは驚いた。ファキイルは神話のなかの存在とばかり思っていたのだが。
「はい。しかも、あなたのごく近くに来ているようですね」
メルキオールは言った。やけに情報通だ。長く生きてきただけはあるのだろう。
「なら、力を借りないとだな」
本当に協力が仰げるかは、わからないが、ダーヴェルを倒せるならそれも考えて良いかも知れないとズデンカは思ったのだ。
「でも、フランツ・シュルツと一緒みたいですよ」
フランツ・シュルツ。
スワスティカ
ルナの古い友人らしいが、ルナがかつてビビッシェ・ベーハイムと名乗ってたくさんの同胞を殺害した事実を知ればどうだろうか。既に知っているかも知れないので出来れば会いたくない対象だった。
ダーヴェルを殺せるかも知れない神話のなかの存在が、今もっとも会いたくない相手と組んでいるとは。
――面倒だな。つうか……。
「何でそこまで知ってる?」
「ふふ。まあ僕も僕なりに情報源があるのですよ。連中、あちらこちらで目立っていますから話が広がるのも早かったんです」
メルキオールは尻尾を動かした。
「本当かはよくわからんが、教えてくれるのは助かる。じゃあどうやってあたしはダーヴェルに勝てばいいんだ?」
「今のズデンカさんなら倒せますよ。あのハウザーを殺したんです。できない訳がない」
メルキオールは明るく断言した。
「まぐれで勝っただけだ。それもお前に弱点を教えて貰えたからだ」
ズデンカの自己評価は飽くまで低かった。
「いえいえ、そんなことはないです。ズデンカさんの実力で勝ったんですよ」
メルキオールはズデンカを持ち上げる。
「んな訳ねえだろよ」
ズデンカはすっかり照れくさくなった。
「褒めてもなんもでねえぞ」
二人は歩みを進めた。瓦礫は少なくなり人の数も増していく。出来るだけ密集していない場所を選んで選んで歩いた。
もし戦闘になった場合、巻き込んでしまうからだ。避けられないにしても、できるだけ避けたい。
「ズデンカさん、なんかどうも雰囲気が焦臭くなってきましたよ」
前に前に行っていたヴィトルドが猛ダッシュで引き返してきた。
「お前ごときでもわかるのか」
ズデンカは見下げ果てたような顔で言った。
「はい。何か物凄い血の臭いがするような気がします」
ヴィトルドも超男性を名乗るだけあって、人並み以上の嗅覚はあるようだ。
「僕はさすがに嗅げません。お二人とも凄いですね」
気安く褒めまくるメルキオール。
「お前は吸血鬼を殺せるか?」
ズデンカはヴィトルドに訊いた。
「もちろん、できますとも!」
ヴィトルドは大声で答えた。
「二度も負けてるじゃねえか」
ズデンカは冷やかした。
「確かにあの時は油断しました。でも、三度目はありません」
「じゃあお手並み拝見といこうじゃねえか。お前が先に死ににいけよ」
ズデンカは腕を組んで言った。
少し舌鋒に毒を込みすぎたかと後から後悔したが。
「了解です!」
ヴィトルドは空へ飛び上がった。
あまりに人が多すぎるので、移動にはこちらの方が効率的だと判断したのだろう。
実際、誰も気に掛ける人はいなかった。皆疲れ切った目で下を向いて歩いている。
――早くしなけりゃ、こいつらだって死んじまう。
ズデンカは焦った。
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