第六十三話 メルキオールの惨劇(5)
「ズデンカさん、そいつ誰ですか?」
ヴィトルドが部屋の中に入って来た。
「そっちこそ何者だよ? このオスが」
それをジロジロと軽蔑するように眺め回しながら大蟻喰が訊き返しだ。
「おっ、オス呼ばわりですと! クッ……殴ってやりたいところだが……とりあえず、レディ? にそのような真似は出来ない……騎士道的に、いや、大いなる力には大いなる責任が伴うのだから……ぶつぶつ」
ヴィトルドは困惑するように独り言を呟き始めた。
「こいつはヴィトルドだ。こっちは大蟻喰。どちらもろくでもないやつだ」
ズデンカは紹介した。
「なんだよ」
「なんだと」
二人の顔が向いてくる。
「お前らはろくでなしだ。あたしもろくでなしだ。それでいいだろ。まともだったらこんな部屋に集まっていない」
「そいつは傑作だ」
大蟻食がニヤリと唇を歪めた。
「よっと、お世話になりますよ」
バルトロメウスが部屋のなかに入って来た。ズデンカはこの物静かで痩せてた青年のことをまだ詳しくは知らない。
――男があまり入ってくんなよ。
と口に出してしまいそうになって、それだと大蟻喰に追随するようでまずいと悟り、ズデンカは黙った。
場の雰囲気が悪くなってはいけない。
最後に申し訳なさそうにメルキオールとジナイーダが入ってきた。
ジナイーダは明らかに怯えている。大蟻喰に何か言われたのだろうか。
突如現れた得体の知れない連中が狭い部屋を占拠しているのだから、当然だろう。
「カミーユ、ちょっと待っててくれ」
「はっ、はい」
ズデンカはそう言って立ち上がり、ジナイーダの元に近付いた。
「やっぱりジナイーダさんのお相手はあなたが一番適役だ。僕でも警戒してましてね」
メルキオールが言った。
「そりゃそうだ。あたしの娘だからな。絶対に守ってやらないといけない」
ズデンカは答えた。
「キュン!」
ジナイーダは全身をぶるりと震わせてズデンカを見た。その瞳には異様な光が宿っている。
ズデンカはただ単に吸血鬼としての事実と責任を告げただけのつもりだったが、ここまでジナイーダの激しい反応を引き出すとは驚いた。
「ズデンカ、そんなにまで……」
ズデンカは答えずジナイーダを抱き寄せた。それぐらいしかこの寂しい魂にしてやることができないのだと思いながら。
「ところで、疑問なんだけど」
バルトロメウスが手を上げて言った。
「これだけ集めて本当に戦力になるの? 足手まといじゃなく」
なかなか鋭い質問だった。外見は気弱そうなのに、その舌鋒は滅法鋭いようだ。
「前線部隊と後方部隊をわける。丈夫な奴が戦う」
ズデンカは言った。戦争で戦った経験はなかったがそれらしい言葉を使うことにしたのだ。
「あたし、大蟻喰、ヴィトルド、バルトロメウスは前線。メルキオール、カミーユ、ジナイーダは後方だ」
「そもそもズデンカさん? だっけ。アナタはそんなに強いの? 前の戦いの時も何も出来なかったよね」
バルトロメウスは飽くまで穏やかな口調で棘のあることを言ってくる。
「あたしは変わった……もうあの時みたく何も出来なくはない」
「でも未知数な訳だ。そんな人に賭けられると思う?」
バルトロメウスは引かない。
「それは……」
ズデンカは言い澱んだ。
「ズデ公はボクには劣るけど、まあ殴り役ぐらいにはなるんじゃない?」
珍しく大蟻喰が助け船を出した。
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