第六十三話 メルキオールの惨劇(3)
「ふっふっふ、ズデンカさん、お待たせしました!」
外から大音声で叫ぶ声が聞こえた。
――チッ、あいつが来たか。
ズデンカはジナイーダの手を振り払って外へ出た。
超男性のヴィトルドが上腕二頭筋を見せびらかしたまま空から降りてきていた。
ズデンカたちがパヴィッチに入る前にヴィトルドは飛行すると言い出したのだ。
「人が多いから止めとけ」
と言うズデンカに、
「僕はここの住人ではないから恥を晒しても問題ありませんよ!」
明るく答えて、止めるのも訊かずすっ飛んでいったのだ。
――こりゃ目立つな。
ズデンカは軽蔑を込めた視線を降りたつヴィトルドへ向けた。
「見つかりましたよ!」
対してヴィトルドは得意満面だった。
「何がだ?」
ズデンカは冷ややかに答えた。
「ハウザーとやらの居場所ですよ」
ズデンカは道中で今自分の置かれている状況を軽くヴィトルドに説明していた。
「攻撃されただろ?」
ズデンカはない肝が冷える思いがした。
もしヴィトルドが追尾されていたら、すぐにでもここから抜け出す必要がある。
「げっ、なにこいつ気持ち悪い!」
ズデンカを追いかけて出てきたジナイーダはヴィトルドを指さして叫んでいた。
「これはお嬢さん、お初にお目に掛かります。私、ヴィトルドと申します」
ヴィトルドは一礼した。
ジナイーダはすっかり怯えてしまい、ズデンカの後ろに隠れた。
ヴィトルドの驚異的な強さはさすがに吸血鬼になったばかりのジナイーダでも感じ取る事が出来るのだろう。
もちろん、異常な筋肉量を持つ男性を怖いと感じたのもあるかも知れない。
「怯えてるんだが? 少し慎んでくれんか?」
ズデンカは睨み付けた。
「はっ、はい……」
ヴィトルドは萎縮した。
「こいつは常人とは掛け離れた力を持つ男だ。空を飛べ、何時間も走れ、拳で岩石を砕ける」
ズデンカは説明した。
「こちらのお嬢さんは?」
ヴィトルドは訊いた。
「誰が教えるかよ」
「は……はぁ」
ヴィトルドは困惑していた。
ズデンカの中に一抹の申し訳なさが過ぎったが、こんな得体の知れないやつにジナイーダの名前を教えても、あとあと問題になりかねないと思って教えないことにしたんだ。
「ところで」
ズデンカは言った。
ズデンカは自称反救世主の大蟻喰と虎人間のバルトロメウスの存在をヴィトルドに前もって伝えておいた。目立つ二人なので、容姿を教え、もしどこかで見掛けたら連れて来いとも言って置いたのだ。
「ええ、大蟻喰さんたちも見付けましたよ。とは言え、顔も知らない僕が近づいても問題になるだけかと思い、遠巻きに確認するだけでしたが」
「ったく、なら連れて来いよ」
ズデンカは舌打ちをして歩き出した。
「まっ、待って!」
ジナイーダも追いかけていく。
後ろから大分離れてヴィトルド、メルキオールが尾いてきた。
――しまった。カミーユを残してきた。
ズデンカは後悔した。
とは言え戻る暇はない。
「おい、メルキオール、カミーユを頼む」
ズデンカは鼠の横まで戻っていった。
「おや、なんで僕には任せてくださらないんですか?」
ヴィトルドは首を傾げた。
「お前などに任せられるかよ」
「ふふふ、僕はいいんですね」
メルキオールは笑った。
「お前は鼠だからな」
ズデンカは言った。
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