第五十四話 裏切り者(6)
だが、まずは他の二人に話を訊くことにした。
「お前はどうだ?」
「……」
相手は黙っていた。
ズデンカは鋭く舌打ちした。
それでも返事は帰ってこない。
ズデンカは頭巾を引き剥いだ。マレーナのように黒いが縮れた髪を持つターコイズ色の瞳の少女が現れた。
怯えもせずズデンカを見詰めている。
「ひっ、ひいい」
リルが代わりに怯えた。
「アゴタだ。生まれつき――少なくともママに拾われたときから耳が聞こえない」
ジナイーダが説明した。
「そりゃ仕方ないな」
ズデンカは諦めた。ズデンカも手話を多少は覚えているのだが、上手く使えるか心許ない。
最後の一人がアグネスの実の娘と噂のメイベルだ。
「お前が盗ったのか?」
「違います」
頭巾を脱ぐと二十ばかりの栗毛の娘だった。白髪のアグネスが六十代と考えると、遅く産まれた子供ということは疑いない。
――一番年長のマレーナはこいつが生まれた頃のことを知っているだろうな。
と、ズデンカは思ったが黙っておいた。
「本当か?」
「嘘は言ってません」
アグネスはシンプルに答えた。肝が据わっているのか少しも動じていない。
「じゃあ、誰が盗ったんだよ」
ズデンカは頭を抱えた。
「ああ、まだるっこしい! マレーナでしょ」
ジナイーダが叫んだ。
「いやいや、なんで離れてるわたしが盗れるの?」
「さっき平原で一緒に歩いてたでしょ。その時にとったんだよ」
「はぁ? なんで自分だけ犯人じゃないみたいな口振りってどういうこと? ジナイーダが一番怪しいんじゃない」
マレーナは周りに呼びかけた。聞こえないアゴタは別として、リルとメイベルは頷いていた。
どうやら、ジナイーダは人気がないらしい。 何事もツケツケと言う性格なので仕方ないだろう。自分も似ていると思うズデンカは身につまされるものがあった。
「そっ、なんで私が! 私はただ、皆のことを考えて!」
ジナイーダは顔を真っ赤にしていた。
――まあこいつが犯人ではないな。
ズデンカはまっさきに除外した。自分で盗んで自分で盗まれた言い出すのは不自然だ。
――よっぽど目的か何かなければな。
だが、現在慌てまくっているジナイーダがそこまで慎重な性格とも思われない。
――おそらく騙しにはもっとも向いてない性格だ。マレーナのやつが油断ならないのとは真逆だな。そのせいで仲間からの評価も低いのだろう。
ではマレーナ犯人説はどうだろう。こちらもあまり肯定的に推すことは出来ない。
マレーナは気さくそうに見えて一番用心深い性格に思われる。
一瞬にしてジナイーダを窮地に陥れたほどなのだから。
盗むとしても、本当に一つか二つだけ、すぐにはバレない分を盗むに違いない。わざわざ全部盗んで騒ぎを起こすなどというヘマはしないだろう。
――よっぽど目的か何かなければな。
だが、わざわざそんなことをしてマレーナに何の益があるのだろう。
「なら、リル、メイベル、アゴタの三人のどれか一人だ」
消去法。
臆病者のリル。耳が聞こえないアゴタ、無口だが度胸のあるメイベル。
あまり会話が出来ていない状況なので、三人が嘘を吐いている可能性も十分に考えられる。例えばリルは本当に臆病なのか。アゴタは耳が聞こえるのではないか。
ズデンカはリルを睨んだ。
「ひっ、ひぃ!」
リルは竦みあがった。
だがズデンカはその眼球が微かに目配せを送っているのを見逃さなかった。
その先はアゴタだ。
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