第五十四話 裏切り者(5)

「じゃあ、ズデンカが犯人を見付けてよ」


 ジナイーダがいきなり言い出した。


「なんであたしが」


 ズデンカは驚いた。


「わたしじゃ犯人の見当がまるで付かないから。あんたならできるでしょ」


「あたしはお前らのことを何も知らん」


「今知ったじゃない」


 ジナイーダはズデンカを見詰めた。


「そもそも、食い物があったとして、それを管理してるやつがいるはずだろ? そいつが犯人か、そいつが眼を離した隙に盗んだやつがいるか、どっちかだ」


 苦し紛れにズデンカは推理する。


「でもどっちとも言えないんだ。あたしらは食べ物の入っている籠を何歩かごとに隣の相手に渡していくことにしている。先頭までいったら後尾うしろに戻ってまた繰り返すんだ」


 とジナイーダは手に持っていた籠を見せた。確かに中は空っぽだ。


「空になったことに気付かないのか」


「わたしが気付くまで布が被されてあったんだよ。食べ物に泥とか砂が入り込まないようにね。だから外目には何か入っているように見えたって訳。でもやけに軽くなったなって布をとってみたら何もは言ってないじゃないか!」


 ジナイーダは喚き立てる。


「なるほど」


 ズデンカは納得した。


 だが話に納得しただけで、犯人がわかったわけではない。


 そうこうするうちにマレーナとアグネスが追い付いてきた。


「何を話してるんだい?」


 とアグネス。


「この中に一人、裏切り者がいる。あたしらの食べ物をぜんぶ隠しちゃったんだよ」 


「何だって!」


 アグネスは叫んだ。


 ジナイーダは空の籠を見せる。


「誰が盗んだんだい! 早く名乗り出ないと……!」


「あれあれ、大変なことになってるね」


 ひょいとマレーナが首を差し入れてくる。


「ちょっとマレーナ。あんたぜんぜん私を籠を持とうとしないでしょ! どこ行ってたんだよ?」


 ジナイーダは突っかかった。


――どうやらこの二人、仲が悪いらしい。


 ズデンカは考えた。


「ズデンカさんとお話。後はちょっと疲れてね」


 黒い髪をさらりと掻き分けるマレーナ。


「ズデンカはとっくにこっちに来てるよ。さあ、犯人を見付けて!」


 ジナイーダはズデンカに向き直る。


「ズデンカさん、賢そうだもんねえ。ジナイーダも頼りたくなるよね」


 マレーナは煽る。


「いや、そんなんじゃなくて」


「はぁ……」


 ズデンカはため息を吐いた。


「まずお前らのことを少しづつ訊きたい。アグネスとジナイーダとマレーナはいいぞ。十分どんな奴かよくわかった。残る連中だ」


 ズデンカは他の頭巾を眺めた。


 あと三人。


「お前らの誰かが盗んだのか?」


 ズデンカの声に反応して一人が頭巾を脱いだ。金髪の少女だった。マレーナとジナイーダよりも幼く思えた。


「私じゃないです」


「お前の名前は?」


「リル……です」


 声は震えている。


「本当に盗っていないんだな?」


 ズデンカは厳しく言った。


「はっ、はい」


 リルは怯え始めていた。


 いくら怯えていても、こいつも人を騙すのだろう。むしろ臆病なぐらいが騙しやすいという場合もある。


――こいつが犯人かも知れない。


 ズデンカは臭うものを感じた。


 だが、まずは他の二人に話を訊くことにした。

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