第五十三話 秩序の必要性(6)
――俺は、秩序を守らなければならない。
スワスティカの残党はかならず世を惑わす。
それを滅ぼし、秩序を取り戻すために猟人は存在するのだ。
決して、憎しみを晴らしたいというような個人的な感情で動いてはならない。
冷静なる意志のもとで、秩序の代行者として猟人は動くべきだ。
これは、何度も何度も教育のとき頭に叩き込まれたことだった。
――それを、忘れていた。
フランツは驚くほど穏やかに自分の感情を俯瞰し、相手を観察することができるようになった。
――これが、秩序に対する希求か。
フランツは納得していた。
「別に良い、そこまで暑くない」
「えっ、そうなの」
アリエッタは驚いていたが、急激に落ち着いたたものになっていくフランツの顔を見て、じきに安心したようだった。
フランツの元にも肉が運ばれてきた。
ナイフとフォークで切り分ける。
口に運んだ。もう毒がどうとなどは気にならない。
――こいつらは俺の正体に気付いてない。
決意を固めながらもしっかりとステーキの味を楽しんだ。
食事が終わると、四人はすぐに外に出た。
「旅は道連れなんとやらだ。せっかくだしみんなで周りの景色を見ていかないか? アリエッタもラミュは初めてだろ?」
フランツから誘った。もちろん、こともなげに、自然とだ。
「ああ、そうだな。俺もラミュは通ったことがあるだけだ」
バルナボが応じた。
フランツはそれを静かに見詰めた。殺気までだったら、「罠に掛かったか、馬鹿め」などと考えただろう。
いや、今だって心のどこかではそう思っている。
だが、今はそれよりも慈愛のような感情がどこかから湧いてきているのがわかった。
――こいつらは俺が葬らなければならない。
そういう使命感が心の中で支配的になっている。
「フランコ、さっかから静かですね。店の中じゃ顔を赤くしてたのに。笑みさえ浮かんでるし」
オドラデクが囁く。
「さんをつけろ」
フランツはゆっくり言った。
「ええっ、良いじゃないですか! フランコ、おーい、フランコ!」
オドラデクは繰り返したが、フランツはもう答えなかった。
ファキイルはさっきから何も言わず食事も手を付けなかった。その分はオドラデクが貪り喰ってしまったが。
――どう言う風に殺すか。
ある程度森の奥深いところで抜く手も見せずに殺そうとと最初は考えた。
――いや、それはいけない。
これに関しては最初に思ったことが正しかった。
ただ、ことを行うのに憎しみを交えてはいけないと言うだけで。
二人には自分のやったことを白状させ、間違ったことだと知らせた上で殺さなければならない。
脅しも使う必要があるだろう。
――もちろん、救う気はないが。
フランツはあくまで落ち着いて考えを進めた。
早くも足は進んで、森の中に入っていた。
正午の太陽がヒノキに絡んで、木漏れ日の破片を剥ぎ落としている。
バルナボとアリエッタは後ろに、フランツは前に、ファキイルとオドラデクをその後ろに回させた。
逃げる素振りがあったら、即座に捕らえるように命令して。
――殺さず、殺さずにだ。
フランツは二人に囁いたことを繰り返した。
アリエッタとバルナボにはまるで警戒の色がない。
どんどん奥の方まで進んでいく。
「静かね。まさかちょっと入ったところにこんな森があるなんて」
空を見上げながら、アリエッタが言った。
「ヒノキは懐かしいなあ。俺の家の近くにも生えてた」
バルナボが和した。
小川のせせらぎが聞こえてきた。
――ちょうど良いな。
フランツは心を決めた。
「二人とも、訊きたいことがあるんだが」
「何?」
二人は振り返った。
「この景色、
フランツは一息で言った。
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