第五十話 三剣鬼(4)

「おやおや、お客さんがまだ残っていらっしゃったようですねえ。残念ですがもうサービスタイムは終了。これからは大人の時間ですよ」


 ドゥルーズが再び剣を抜いて歩いてきた。


「はっきり言う。お前らは元スワスティカのクリスティーネ・ボリバルの分身と関わりがあるだろう?」


 フランツは鋭く尋問した。


「クリス……はぁ? あ! アレのことを言ってるのかぁ?」


 最初は首を傾げていたグリルパルツァーだったが、やがて何か得心がいったかのように手を叩いた。


「こいつに話すことじゃねえ!」


 マンゾーニが割り込んできた。


「お前らはスワスティカの協力者か? もし、そうなら」


 フランツは剣の柄に手を掛けた。


「へっへえ、剣で俺らと渡り合おうっていうのかよ? ちゃんちゃらおかしいなぁ」


 マンゾーニは嘲笑う。


「坊ちゃんのくるようなところじゃありませんよ」


 口上師まで顔を出してきた。一座の者たちがフランツを押さえ付けようとする。


 流石にフランツも訓練は詰んでいる。たちまち体術で胴を払って薙ぎ倒した。


「なかなかやるじゃねえかよ。剣だけじゃねえのか」


「俺はスワスティカ猟人だ」


 フランツは立場を明かした。さすがに子の後に及んで隠しておくことも出来なくなったからだ。


「ああ。知ってるさ。トルタニア各地でスワスティカの連中を狩りまくってるとか言う蛇蠍のような連中だろ? なら、俺たちには何も用はないはずだ。俺たちはスワスティカなんぞ大嫌いだからな。先の大戦では抵抗運動レジスタンスの一員として戦ったぞ。もちろん三人一緒にな。こいつらとはもう二十年も前から腐れ縁でよ、あっちこっちで金を稼いでるんだよ」


 結局マンゾーニは滔々と自分語りを開始した。


「それでもクリスティーネ・ボリバルの分身がどこにいるか知っているんだろ? 教えろ」


 フランツは怒り気味に言った。


「あんなものでいいなら教えてやるよ。最初は無視ろうと思っていたが、お前のその目付きに気魄、確かにスワスティカ猟人で間違いない。俺たちがどんなに善行をなし、同時に金稼ぎにも運用できているのか教えてやるよ」


 マンゾーニはそう言って勝手に歩き出した。


 他の連中もぞろぞろ尾いていく。フランツも後を追った。


「あーらら、まためんどくさそうな場所に自分から飛び込んでいくんですかぁ」


 呆れたようにオドラデクは言っていたが、すぐにファキイルを誘って二人で歩いてきた。


広場の北側には飲食店や居酒屋がひしめき合って、物凄い酒いきれが満ちあふれていた。 男たちは平気でその中に入っていく。酒を好まないフランツは鼻を摘まみそうになったが我慢した。


 滑りそうなぐらい汚物で汚れた石の階段が、居酒屋の地下へと向かって続いていた。


「ここだ」


 マンゾーニ立ちはすたすたと降りた。


 フランツは注意を傾けて滑らないようにした。後の二人を振り返ったがこちらも苦戦しているようだ。


「待って、置いてきぼりにしないでくださいってば!」


「仕方ない」


 フランツはその手を掴んで、更にファキイルの手を掴んだ。


 三人で慎重に一歩一歩踏みしめて地下へと降りていく。


「ふふん。フランツさんの手、つめたぁ~い!」


 オドラデクが嬌声を放った。


「離すぞ」


 フランツは薄気味悪かった。


「フランツさんのい・け・ず・ぅ♥」


 そうこうするうちに薄明かりが見えてきた。

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