第五十話 三剣鬼(3)
これも全て仕込みだろう。
――こんな茶番、一発で見抜けるようでないと猟人はやってられない。
よっぽど立ち去ろうかと考えていた。
だが、ボリバルが関わっている可能性をぬぐえない以上、そういう訳にもいくまい。
「てい!」
まず先陣を切ったのはグリルパルツァーだ。
細身の剣を抜き放ち、遮二無二にマンゾーニに斬りつけた。
「甘い甘い」
マンゾーニもさる者、巧みに斬撃をすべて受け止める。
「私をいることを忘れないでください!」
ドゥルーズ神父が斬り込んできた。もちろんマンゾーニもそれを察知して飛び退る。
群衆は驚いて距離を取りながらも、はらはらと成り行きを見守っている。
フランツからしたら答えは見えているので、さしたる驚きもなかった。
もちろん三人は殺し合わない。適度なところで止めるだろう。
ドゥルーズは身の丈より遙かに長い剣を優雅に振り回していた。
マンゾーニは普通の――フランツの『薔薇王』やオドラデクが変身する剣と変わらないぐらいの大きさの――剣を使っていた。だが、大きな剣と打ち合っても引けを取らない。
――良い
そこだけは、フランツも思わず気になってしまった。
かちん。かちん。
剣戟の音は軽快に響き渡る。
三剣鬼はぶつかり、離れながら、星の燦めきのような
三十分ばかりも続いただろうか。
フランツはあくびを噛み殺していた。
「やるねえ!」
グリルパルツァーが賞賛した。ドゥルーズとマンゾーニに向かってだ。
――始まったぞ。
フランツからすれば当然の予想だ。このやりとりは事前にきめられているのだから。
「やはり三剣鬼! 互角にして互角! なかなか決着がつかない!」
口上師が煽り立てる。
実際三剣鬼に向けて金貨や紙幣を投げ散らかす人々も多かった。
「早く決着を付けろ!」
そうわめく輩も出て来始めた。
やがていきなりマンゾーニが剣を取り落とした。
とたんにドゥルーズもグリルパルツァーも動くのを止める。
「ここまで白黒が付かないとなると、もう流石に俺が首を差し出すしかないな」
「そんなことを仰いますな。剣の道は最期まで戦い続けて決まるもの。今ここで丸腰になられたあなたを斬るわけにもいきますまい」
そう言ってドゥルーズは剣をしまった。
「二人が剣を振るわねえつうのに、俺一人振るってるっつうのもおかしな話だ」
グリルパルツァーも他の剣鬼に倣った。
割れんばかりの拍手。
抜け駆けをせず、勝ちを譲り合うという立派な精神。
いささか通俗的ではあったが、大衆を満足させるにはそんなものが必要不可欠だ。
厳しいものを今まで見てきていたフランツは本当に鼻白んでいた。
「さあさあ、今回の出し物はこれでおしまい! 皆々さまお疲れさまでございました!」
口上師に追い立てられるかたちで皆は去っていく。
去り際に更に紙幣を投げつけていく者もあった。
一座の者が金を回収していく。
集めてみると思ったよりたくさんの量があるようだった。手の中で札束が出来上がっていたほどだ。
フランツたちは少し後ろに下がったが、連中の様子をなお観察していた。
「しめしめ、今日も儲かったぜ」
途端に厳めしい顔を崩して、マンゾーニが言い始めた。
自分でも金を拾い集めて札束にしていたのだ。
フランツは静かに連中のただ中へ近付いていった。
「ちょっ、なんで行くんですかぁ」
止めようとするオドラデクを振り切って。
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