第五十話 三剣鬼(5)
天井から裸電球が吊されていた。
ずいぶん狭い空間だ。
フランツたちが泊まっている宿屋の半分もない。
男たちはニヤニヤ薄ら笑みを浮かべながら部屋の奥の方を見ていた。
鉄の檻が置かれてあった。
薄暗いが、そこに何かいるらしい。
鼻がむず痒くなるのを感じながら、フランツはそちらを観察した。
檻の中に、黒い塊。
いや、最初はそう見えたが、それは
女だ。
目隠しをし、猿轡を噛まされていた。
つまり顔は一部しか出ていないのだが、それでもフランツはわかった。
人の顔を覚えるのは早い方なのだ。というか、そうでなければ猟人などやっていけない。
あの女は、間違いなく、クリスティーネ・ボリバルだ。その分身だ。
もっと近付いて観察した。
最初、手脚は折り曲げられているのかと思った。
だが、どうも違う。
切断されているのだ。
肘から先、膝から先がなく、包帯でぐるぐると何度も巻き付けられていた。
フランツは口を蔽った。
吐き気を催したのだ。
「おいおい、兄ちゃん。ビビっちゃったのかい。気っ風の良いふりしてずいぶん情けねえなあ」
三剣鬼がはやし立てる。
「なんだ……あれは」
やっと言葉を絞り出した。
「なんだって、わかりきってるじゃねえかよ。クリスティーネ・ボリバルだ。偶然一匹捕まえてな。上手く酒で酔わせて連れてきたのさ。レジスタンスをやってた人間なら、あいつがものを複製する危険な能力の持ち主だってことぐらい周知の事実さぁ。外からはよくわからねえと思うが、舌を抜いてる。目もくり抜いた。これじゃあ耳に頼るしかなく、俺らの言いなりになって色んなものを複製する能力だけ役に立てるって寸法だ」
恐ろしげなことをさも自慢げにマンゾーニは語った。
「幾ら何でも、そんなやり方は酷だ」
フランツは言った。
「そうですよ! さすがに残酷すぎるじゃないですかぁ!」
オドラデクも同調した。
だが、オドラデクは本来残酷なことを自分から楽しむような性分であることをフランツは良く知っている。
単にバランスを考えて、後はフランツからの点数を稼ぐためにここは非難したというだけなのだろう。
「スワスティカが何をしたか、お前らシエラフィータ族はよく知ってるだろ? そんなやつの残党に、しかも人権すら存在しないただの模造品に憐れみ垂れても仕方ねえじゃねえかよ」
マンゾーニは本当に言葉巧みだ。口上師を雇う必要はないと思えるぐらいだ。
実際フランツも若干は説得される部分があった。
悪いことをするやつにはどんな悪いことをしても構わない。
とりわけ、それが差別である場合には。
自分たちシエラフィータ族は長い間トルタニアで差別されてきた。
スワスティカはその雰囲気を利用して、絶滅させよう目論んだ。
そんな悪魔のような連中の残党がどうなろうが知ったことではない。実際フランツだって数多く殺してきた。
例え人道に反するようなやりかたであっても、スワスティカの残党に対する懲罰は許容されるのかもしれない。
「そうだな」
フランツは短く言った。
そうは言いながら後退したが。
「えー!」
ドン引いたようにオドラデクが口を開けていた。
ファキイルは相変わらず何も言わない。
気まずい雰囲気が流れた。
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