第二十七話 剣を鍛える話(9)
「フランツさん、何か欲しいものがあるんじゃあ、ないですかぁ?」
オドラデクはいきなり顔を近づけてきた。
図星だった。
もちろん、前までの会話を全部聞いた上でオドラデクは言っているのだが。
――剣だ。
なんとしても新しい剣が欲しい。
「ぼくとしたらぁ、別に構わないんですよぉ。その方が楽になりますしぃ」
オドラデクはフランツを肩に挟んで抱き寄せてくる。
まだ女の姿だが、さすがのフランツも全く気にならなくなっていた。
「それはまぁな」
フランツは言葉を濁した。
オディロンの前で欲しいと言い張っては、足元を見られる気がするからだ。
ある程度まで金は出せるが、不必要な浪費になりそうなら諦めるしかない。
「その剣、フランツに持たせてはどうだ?」
ファキイルがいきなり言った。
フランツは思わずあたふたしてしまった。
どうやって言い出そうかと考えあぐねていたところに、思ってもみない者からその言葉が発されたからだ。
「なぜだ」
無愛想にオディロンは訊いた。
「フランツが我を連れてお前の家に泊まらなかったら、お前は剣を完成させることが出来なかったのだからな」
「確かに……それはそうだが……」
オディロンの表情に惑いの色が見えた。
「難しいか。ならそれでもいい」
ファキイルは無関心そうだった。犬の身体になっているため、その表情を読みとるのはより難しいのだが。
「こいつ……いや、この方が、俺の作った剣を持つだけの力量があるかよくわからない。俺は金はいらない。だが、良く知りもしない奴に大事な作品を渡したくない」
オディロンは剣を撫でながら、フランツを不審そうに見た。
――なるほど。
「力を試せ、ということか」
「あー、めんどくさぁ! 止めましょ止めましょ」
オドラデクは肩を解き、階段に向かって歩き始めた。
「どうすればいいのだ」
フランツは訊いた。
「我とお前が戦えばいい。その剣で」
くるりと身を捻り、少女の姿に戻ってオドラデクを指差し、ファキイルは言った。
「なぜわかった。俺はお前に戦うところを見せていないはずだ」
「なんとなくわかった」
ファキイルは短く答えた。
フランツはそれを不安に思ったが、それ以上に不安なのは。
――俺は、こいつと戦えるのか。
今まで神(と言われる存在)と刃を交わしたことはない。しかも、戦ってオディロンが満足いく結果を残せるかどうかも疑問だった。
――まさか、殺される心配はないはず、だろ?
一切殺意を見せないファキイルにすっかり心を許してしまっていたが、実際手合わせをすると話は別だ。勢い余って殺されるかも知れない。
本来なら、剣と自分の命を天秤に掛けるような馬鹿なことはしないフランツだったが。
――剣が、力が欲しい。
心からそう強く願っていた。
「相手をしよう。どう言う方式で戦う?」
フランツは言った。
「我の身に少しでも刃を中てることが出来たら勝ちとしよう」
「わかった」
「なら話が早い」
ファキイルも階段へ向けて歩き出した。
――室内よりも外の方がいいからな。
フランツも納得して後に続いた。
「はー、フランツさん。全くあなたって人はぁ」
上の階に出ると呆れ顔でオドラデクがで迎えた。これも残してきた糸で見通しなのだろう。
「どうしても剣が欲しいのだ」
フランツは我を通した。
「死んでも知りませんからね」
オドラデクは半笑いで言った。
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