第三話 姫君を喰う話(7)

 キンスキーは最後まで生き残ったわたくしを表面的には丁重に扱いました。


 どう思われているかも知らず。


 メイドを雇い、わたくしの身の回りのお世話をするように命じたのです。


 まるで昔の王女に戻ったようですが、結局どこへも出ることは出来ないし、毎日毎日、キンスキーに抱かれるばかりの日々です。


 嬌声をあげ、演技だけは上手くなりましたが、押し殺してきた憎しみの炎が消えることはありませんでした。


「お前は王女の中で一番美しい。お前が残るのは当然のことだ」


 わたくしが何度美しく生まれたことを呪ったことか。


 二度子供を堕ろしたこともあります。


 キンスキーは醜い自分と美しいわたくしを掛け合わせるのが嫌なのだと呟いていましたが、結局は遺産分割で本妻の子と揉めるのを嫌っただけのことです。


手術が終わった後、麻酔が覚めていくうつらうすらとした意識の中で、何者かが傍にたつのが感じられました。


 メイドでした。いえ、メイドなのですけれど、どこか他人のようにわたくしは感じました。


「キンスキーを殺したいんだね、姫君エルゼ」


 驚くほど、冷たい声でメイドは問いました。 わたくしは朦朧とした中でキンスキーへの殺意を口にしたのでしょう、メイドに聞かれたら大変なことになると、不安な気持ちになりました。


「その願い、叶えてあげるよ。一週間後、はっきり意識を取り戻してもまだその思いが変わらないなら、夜寝る前にボクを呼んで。姫君」


 およそ人間めいたものは感じ取れない声でしたが、わたくしには心強く思えたのです。


 わたくしは頷いていました。


 メイドからキンスキーにこのことが告げられた様子はありませんでした。であれば何を置いても打擲されるはずです。


 一週間後、わたくしは夜ベッドに腰を掛けて、


「キンスキーを殺したい思いは変わりません。わたくしをこのような目に遭わせたあいつが憎い」


「キミが死ぬことになっても?」


 声は闇の中から問い返されてきました。


「もちろん、構いません。こんな暮らしをずっと続けるより、死んだ方がましです」


「よかった。どちらにしろキミは死ななければならない。大罪を犯したヒルデガルトの王族は全て。いや、王族だけじゃない。全ての国の民は死ななきゃいけない。ボクに喰われなきゃならないんだ」


 何を言っているかは分かりませんでしたが、わたくしの願いはキンスキーを殺したい。それだけでした。


「じゃあ、まずキミから頂くね。姫君」


 耳元で声がはっきり聞こえました。


 かくして、わたくしは死んだのです。


 続いて、キンスキーも死にました。


 そして、これから死ぬのはあなたたちです。

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