第43話 お茶でも飲みにいかないか?
「まあ、なんじゃ。そんな次へ次へと急がんでもよかろう。少しはお主が勝ち取った、平凡な生活でも楽しむのじゃ」
この、彼女の包み込むような優しさに、僕は何度救われるのだろうか?
そんな僕は、なんて幸せなのだろうか。
クコのお陰で、これからの戦いは違う心持で向かえるだろう。
だから、今はクコが言った僕が勝ち取った……いや、僕たちが勝ち取った平凡な生活を楽しもう。
僕は、少し吹っ切れた顔をクコに向ける。
「そうだな。たまには近くにある甘味処にでも行ってみるか?」
その言葉を聞くと、クコは幼子の様に目を輝かせた。
「本当か!? 我は、あのなんて言うたかな? 抹茶ぱふえってものが食うてみたいぞ! あっ、あとお汁粉に、みたらし団子に、羊羹も!」
「お前は僕に破産させるきか? あっ、言うの忘れてたけど。お前、父さんと母さんにばれているの隠してただろ!?」
「しっ、知っておるか? みたらし団子は一串に、関東は四個、関西は五個と数が違うんじゃよ。我としては数が多い方がお得でいいが、半分こすると喧嘩になっちゃうの」
「いつも通り、話の逸らし方が下手だな!」
自分の家の前に着くと、そこには私服姿の天川が、小石を軽く蹴りながら立っていた。おそらく、この前約束した小さな楽しみを与えに来てくれたみたいだ。
僕は彼女を見て、ちょっとした平穏感を得た。きっと、こんな気持ちにさせてくれる彼女にも、僕は救われているのだろう。
以前の僕は、今ある現状は自分の胸に隠して、己の力だけで解決していくものだと思っていた。自分にはその責任があると。決して周りを巻き込んではいけないと。
しかし、僕は決して一人で戦って、勝てる様な人間じゃないという事実を知った。
天川、哲、自分の両親、そしてクコ。
色んな人と、可愛らしく頼もしい妖怪が、僕のそばにいてくれるという幸せを知った。
この感謝の気持ちは、偽物だらけの体で、僕の中にある唯一本物の心だ。
周りにいる人の偉大さと自分の未熟さ。これが、この短くも濃密な日々の中で、まだまだ人として半人前である僕が学んだ事だった。
少し大人の階段を登った僕は、天川をきっと食べている途中に、不自然に量が減っているのであろう甘味処に誘ったのである。
こうして、僕の何ものにも代え難い、高校二年の梅雨は過ぎ去っていった。
第一章 右腕 了
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。一応ここで一区切りとなる、第一章終了です。
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琥珀ミライ
体の大半を妖怪に奪われた僕は、狐幼女(仮)と共に 琥珀ミライ @momo31
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