第11話 時は流れ、時に重ねる
嵐の森を黄色剣閃が彩った。
振り抜いた魔剣が少年を切り裂き、鮮血が視界を染める。
そうなるはずだった。
ザシュ!ザシュ!
背後からから両足の太腿の肉を断つ感覚が脳に伝わる。
遅れて、肉を切ったのが己の魔剣ではなく鋼鉄の剣だと、切られたのが己の足だと思考が追いつく。
「なぜ!なんで!どうして!どうしてお前が後ろにいるんだ!」
視界を焼いていた赤い光が消えていき、ようやく嵐の森を映した。
「おれは冒険者だ!戦いは手段!目的は未知!」
「何を言って?おれに何をした!」
「おれの邪魔をするな!おれは、俺はお前たちを冒険者とは認めない!俺が冒険をする。それを目に焼き付けろ。」
それは会話として成り立っていなかった。
心から叫ぶ少年の、いや、冒険者となったシュトロムの覚悟の叫び。
シュトロムは嵐に向かう。
その先の遺跡を、未知を求めて突き進むまだ小さな体は嵐をもろともせずに走る。
それは走る足を切られたロイマンにとって鮮烈な光として、心に焼き付いた。
「クソッ、、、クソォォォ~~~~!」
ロイマンは自分より小さな背中を見て、叫ぶしか、叫ばずにはいられなかった。
「ずいぶん悔しそうですね。年下の少年に負けたのが悔しいですか、それとも、小さな背中に心躍ったことが、言葉にならないほど悔しいですか?」
「今度は何だ、、、おい!、おい!、、ローマン!ガーマン!お前二人に何をした!」
嵐を煩わしそうにしている全身鎧の騎士の青年は子男二人が血を流して倒れ伏す間に立っていた。
「殺しました。この時代の最前線を目撃するには少々ふさわしくない人種でしたので、あなたはどちらの人種でしょうね?」
ロイマンは剣を支えに必死に立ち上がろうとするが、疲労を溜めた体は震えが止まらなかった。
決して得体のしれない笑みを浮かべる一回り年下の青年に恐怖を覚えているわけではないと、肥大化したプライドが危険伝える感覚を鈍らせる。
「立ち上がらなくて結構。先程の攻防は見ていました。フフッ、伝説の始まりとして申し分のないものでしたね。」
「何をしに来た?」
「無粋ですね。それは彼の行く末を見届けてから決めること。ですが命乞いをしなかったのはよろしい。あなたの命は伸びました。」
ロイマンは全身に力を込めて震えを抑え、何とか膝を突いた。
「何されたか分かりましたか?」
「なんだと?」
「言葉は命を左右します。私はあの少年になぜ負けたか分かりましたかと聞いているのですよ。」
ロイマンは先程の戦闘を思い出す。
勝機を見出し魔剣を振ったロイマンの視界は直後赤色に、赤色の光に包まれ奴を見失った。
あの赤い光は何か?奴は胸に手をかざして立ち上がり、気合を口にし剣を後ろに構えた。
胸にかざした左手を剣に添えて、、
「魔核か、奴は遺跡で魔核を加工した照明具を首から下げてを使っていた。それを短剣で砕き、あふれ出た光でオレの視界を潰した。オレの負けだ。敗北だ。あんなガキに負けた。」
「正解です。歴然たる実力差を機転で埋める。まさに英雄、冒険者として格が違いますね。あなたも能力は悪くないですが、心が成っていない。引導は私が渡しましょう。ゆっくりして構いませんよ。」
青年は鋼鉄の直剣を引き抜き天に掲げて、無慈悲に振り下ろした。
◇
ゴロバチガラン!!
空で渦巻く暗雲はついに雷を落とし始めた。
「あっとっと!あっぶね!」
シュトロムは泥濘んだ地面を嫌い、樹上の枝を飛び移って遺跡に向かっていた。
飛び移ろうとした先の木に落雷が直撃し、慌てて体を玉のように丸めて風になびく茂みへと落ちた。
体にあたる感触は木で編まれた籠を突き破ったようだった。
ピチャと浅い水たまりに落ちた。
「雨が止んでる。どうなってんだここは?」
そこは嵐の暴風や豪雨、雷鳴が遠くに聞こえる妙な広い空間だった。
”ありえない!こんな広い空間が森にあるわけがない!”
おれが何十人寝転んでも埋まらない広さを持つ広い空間があれば、森にぽっかり穴が開くはずだ。
しかし、それはなかった。
おれが落ちたのはただの茂み。
「ここはどこ?」
ーーーーーー
どうも赤城灯火です。雷は地上からも伸びるのはご存知ですか?雷は積乱雲で発生した負電荷と地上の正電荷が互いに伸びて落雷となります。そして、地上の生命を育む栄養素として空気中の窒素を固定する恵みでもあります。つまり、落雷は空と大地で起こす大現象のようです。まさに神成りですねぇ~。
ステンドランプ~冒険は嵐のように~ @akagitouka
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