第10話 刹那の剣閃

冒険者は強い。


それは冒険者の街を過去に何度も攻め落とそうとした三大国が、いまだにそれを成し得ていないことから証明された事実だ。


ゆえに、冒険者の使う魔物の武器は強い。


これは一つ目の事実が引き起こした勘違いだ。

魔物の素材と鋼鉄が打ち合えば、相手を壊すのは鋼鉄の方だ。


ではなぜ、鉄の剣を振る軍隊より魔物の剣を振るう冒険者が強いのか。


答えは簡単だ、魔物の武器は単に打ち合うだけのモノではない、光を纏い打ち放つものだからだ。


魔物は不思議な存在であり、それから作られる道具や武器には不思議な力が宿る。


今少年と向かい合うロイマンが手に持つ剣に黄色い光を纏わせているように、昨日少年が手に入れた魔核が漏らす光のように。


光を纏う剣が刃先の雨粒を払うように横なぎに振るわれ、黄色の光が暗い森に軌跡を描く。

そして、その右に伸びる木の中半なかばに当たると、太い幹がえぐれ激しい音は立てて傾いていく。

ギィィバキバキと音を立てる木は、少年未来を示すようにその横に倒れた。


轟音が雨降る森に響くが、雨風が森を打つ音は尚強くなって戻ってくる。


「これが魔剣だ。その短剣がお前の冒険の信念というのなら打ち合え。」


両者が聞いた轟音は倒木の音か嵐の雷鳴か、荒ぶる大気の振動が鼓膜を伝って互いの鼓動を速める。


ロイマンのパーティーの子男2人はもはや目を伏せ声もあげず、ただ雨風に耐えるように蹲っている。


すぐさま街に走るか、天に命を委ねるか、嵐は人に二択を迫る。


嵐を見つめる少年は静かに短剣に視線を落とし、手を胸にかざす。


少年を見下す大男は速る鼓動を警鐘けいしょうとして、沸き立つ血液をいさめ。

嵐を見つめる少年は速る鼓動を高揚として、荒ぶる血管に鞭を打つ。


そして、目の前の少年はゆっくりと立ち上がり、前を向いたその瞳は相も変わらずに嵐を映す。


それに気付いたロイマンが眉尾びびを釣り上げ黄色い光を強くする。


「いい加減に、その目をやめろぉ!」


一段と速い踏み込みで見る見るうちに距離がつまり、黄色い剣閃が激しい雨粒を掻き消しながら迫る。


対峙する少年は強い光を宿した瞳を見開く。


「おれは、おれは冒険者ダァァァ!」


裂帛の気合、そして、短剣を持つ右手を腰より深く後ろに構え、構えた短剣の柄に左手を添え、まるで居合のように、まるで獣のように屈んだ。


その所作は野山、遺跡を幼いころから駆け回って研ぎ澄ませた牙。


まだ15歳に満たない少年は必殺の力を全身のバネに溜める一連の動きを、驚くほど滑らかに整えた。


天性の感が示す無駄のない動きに従い、剣が交わる決着へと加速する。

暗雲が埋め尽くす嵐の森に黄色い剣閃が放たれ、鋼鉄のナイフがその光を瞬かせる。

鋼鉄の短剣と魔剣が何度も音を奏で、暗い森を彩っていた。


そして、一際強い剣戟が鳴り響き、両者は大きく距離を空けた。

ロイマンは光を魔物の剣に凝縮し、少年は獣のように低く構える。

訪れた静寂は決着が迫っていることを語らずに教えていた。


両者は互いの必殺の一振りを構え、互いに決着へと駆けだした。


勝負は一瞬、鋼鉄のナイフが直刀の魔剣より速く助走を始めた。


研ぎ澄まされた時の中、雨粒の一つ一つを知覚するロイマンの視界が赤色に染まった。


『取った!』


それは両者から零れた刹那の閃き。


そして視界を染めるのは強い赤。


血が心が沸き立てる二人の戦いは視界を染めた赤が終わりを告げた。


ーーーーーー

赤城灯火です。個人的な勘違いだったのですが剣線という言葉は剣筋を表す言葉じゃないようです。剣線はソードライン、おおむねイギリス議会の議会の会場に引かれている境界線のことです。互いの剣が届かない距離を示すもので、無用な争いを避けるためのものです。バトル描写に相応しいのは剣の閃きのほうの剣閃でしょうねぇ~。







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