第9話 その剣は
空を覆う分厚い暗雲がせき止めていた雨粒をぽつぽつと零し、そこかしこに水たまりを作る雨になる頃。
ザザッ、ピシャ、ザザッ、バシャ!
嵐の最前線を深緑の外套を被った少年が水たまりと茂みを蹴散らし走る。
雨粒を弾き、生い茂る木々を掻い潜り道なき道を行く少年は、体に吹きつける不気味な風が体を絡め引き寄せる鎖のように感じていた。
やがて零れる雨粒は木々の葉を打ちつけるようになり、引き寄せる力が一段と強くなる。
しかし、踏み出す一歩がほんの少し遅れた少年は木の根に足を引き留められた。
「ばだふらぁ~!くそ、雨が結構強くなってきた。だがこのペースならもうすぐ着くはずだ。」
「幸運だけは持ち合わせているようだが。お前が嵐の目という成人に成りたてのガキか?」
「は?誰だよ。」
泥を拭い顔をあげると冒険者がまるで剣を振り抜いたような体制で木の幹の、丁度おれの頭の高さほど部分を打ち付けていた。
「その泥にまみれた顔、昨日よりもクレイボーイの名前にお似合いだ。」
「だから誰だって聞いてんだよ。いやまぁ、誰でもいいか。おれは誰よりも先に遺跡に行くんだからな!」
「おれはそこら辺の石ころ同然か?クソ生意気な、こんな雨の中遺跡に向かう奴なんて誰一人としていない。だから俺はな、お前みたいに嵐に突っ込もうとする馬鹿が気に食わないんだ。次は首がつながってると思うな。」
その男はカマキリの鎌のような剣を上段に構えた。
そして、後ろからは草木を掻き分ける2つの音が近づいてきた。
「兄者!もう帰ろう!ここはあぶね~。」
「そうだぜ兄者!もうこんなところにいるのはおいらたちだけだよ~!」
音のする方からは、これも聞き覚えのある間の抜けた声が聞こえてきた。
「思い出した。お前ら、昨日遺跡で魔物と戦ってたやつらか。」
「「兄者!そんなガキはほっといて早く街に戻ろう!」」
「おれらを思い出したか、俺がお前を忘れず、お前が俺を忘れていたとはつくづく気に食わん。」
泣きわめくような声を向けられる目の前の男は、視線はおれに、剣は降ろさず構え続けた。
「帰りたければ帰れ、おれはこのガキより先に街に戻ることはない。」
「「兄者~!」」
「何となく、お前は遺跡に向かうような気がしてた。昨日、遺跡で俺の横を通るお前の目には何かが映っていた。」
おれは素早く起き上がり外套の下の鋼鉄のナイフを引き抜き、迫る剣を迎え撃つ。
ガキン!
魔物の剣と鋼鉄のナイフが勢いよく交差し、魔物の剣が少しの欠片を散らす。
「お前なんだ?なんでガキが鋼鉄の武器を持っている。」
「嘘だろ?!鉄だと!あいつ貴族に媚でも売ったのか!」
「とんだ儲けもんだぞ!ガーマン、おいつを抑えるぞ。」
小男二人が雨がさらに強くなる中、鋼鉄の武骨な短剣に欲を出す。
「この短剣はおれが受け継いだ冒険の信念だ。誰にも渡さねぇ!。」
交差する魔物の剣を押し返し、鋼鉄が魔物をさらに少し削る。
押し返された男が体を仰け反らせ、動きの少なかった顔を大きく歪ませた。
「お前ら帰れ!このガキはおれが切る!殺すのはやめだ!おれの前で一生泥を啜らせる!気に食わん!なんだその目は!嵐の向こうに何を見ている!」
男が再び上段から切りかかり、短剣で受けた少年はたまらず後ろに吹き飛び泥にまみれた水たまりに這いつくばる。
しかし、鉄は男の魔剣を確かに削って粉を舞わせる。
男の視線は、泥をかぶりながらも嵐を見つめる少年の目を見て、刃の削れた魔物の剣へと動き、小さな手に握られた刃こぼれのない鋼鉄の短剣へ向け、最後に背後で唸る嵐を見やる。
「これが最後だ。おれの名はロイマン。ガキ、今すぐ街へ帰れ。」
顔を大きく歪めた男が放った言葉はそれだけ。
少年より二回り大きく、これまで多くの魔物を狩り、少年の何倍ものゴールドを稼いできた男、ロイマンが、魔物の剣に黄色の光を纏う。
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どうも赤城灯火です。上空に漂う雲は水蒸気です。水蒸気というからには重さは存在し、雲によってはその総重量は1tを超えるようです。ではなぜ雲が落ちずに漂うかご存じですか?ズバリ!水蒸気を支える力は上昇気流です。暖かい空気が昇る力が数千キログラムを超える重さを支える力になるなんてすごいですよねぇ~。
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