第8話 風の先はきっと嵐

冒険者の歴史はまだ浅い。

その起源は今から45年遡る。


世は彼を”始まりの冒険者ポラリス”と呼んだ。

彼の本当の名と史実は、短くとも濃密な歴史の波に消え、伝説となって世に流れた。


世の中で語られる伝説のほとんどが彼の軌跡。

彼の時代から現在までの45年で多くの国が滅びたが、伝説は国が滅ぼうと絶えることなく受け継がれた。


しかしポラリスの冒険と言葉は、大陸に栄える三大国の3つの王都と三大国が交わる冒険者の街にのみ、史実として受け継がれている。


『余が生まれしは嵐の目。産声うぶごえゆきていかづち響く。涙鳴るいめいゆきて雨と風。心打しんうち鳴りて嵐吹く。中立なかだつ余が見る天の星、世が見る空はこれに倣う。』


これは彼が残した言葉の一つ。

彼が生まれ落ちたのは天地を揺るがす大嵐の日、その嵐で唯一安全である中心であった。

その様はまるで声と涙が雷鳴と暴風雨を呼ぶ天の主のようであった。

その疾走はいつだって嵐の方へ、彼が立つのはいつだって嵐の中。

月日が経って彼だけが立つ嵐の中で、彼だけが晴れ渡る空の星を見て、世界は彼の声を聞くのみ。


これは、そんな唯我独尊を歌ったものだ。


嵐は時代の特異点であり、その余波はいつだって世間を混ぜ返す。


ゆえに史実を知る者は、いつか来る嵐を恐れ、待ちわび、より大きくより鋭くと嵐に備えてきた。


冒険者の街に君臨する彼らもその一人。


「明けない夜、懐かしい空だ、15年前の傷が疼くぞ。嵐を呼ぶ災いの子はどこにいるのだろうなジジィ。」


「若!そんな悠長に構えてる場合でないないですぞ。すぐに嵐の子を探し出して潰さねば!」


ここは冒険者の街の中心、北に向かってせりあがる丘の上、星たちの中心を指す”北星塔”がそびえ傾いている。

空を一望する塔の最上階の一室に伝説の言葉を知る者たちがいる。


法のない冒険者の街にも秩序があり、秩序ある所に導く者は存在する。


”始まりの冒険者ポラリス”北極星を指すその塔を聖地と謳い、最も強い冒険者が塔に座す。


「ジジィの妄信は見苦しいぞ。あと、おれの名はハルバネラ=クウェンサーだ。エセ従者口調は耳に悪い、直れ。」

「儂はまだ53歳ぞ、ジジィではない。誰がこの街の金の動きを教えてやってると思っとる。」 

「口調も頭も老けすぎなんだよ。街に来た鎧どもみてぇに光やがって殺すぞ。」

「儂の毛根をこれ以上殺すな!」

「ツルッパゲの毛根をこれ以上どう殺すんだよハゲジジィ!」

「大体儂を殺すならさっさとあの鎧どもを殺せばよいのじゃ。」


彼らは曲がりなりにもこの街の元締めにあたる。

貴族の来訪はいち早く察知し、冒険者に監視を命じることは当然であった。


より正確に言うならば命令ではなく仕事の斡旋や推薦というべきだが、断るならば武力行使となるのがこの街に根付く自然の摂理だ。


「ジジィは本当に頭が残念だ。奴らの狙いが気にならないのか?即殺はもったいなすぎるだろ。」

「誰の毛根が残念というか!!これは、、寂しいのだ。って何を言わせる!わしの頭はどうでも良い!余計なリスクを抱え込んでどうするというに!」

「カリカリおどおど頭捻るからハゲんだよ。この世は弱肉強食、真っ向勝負でいいんだよ。三大国だろうと嵐だろうとな。だから、頭の寂しい奴らが勝手にコソコソ動くのだけは気に食わねぇ。」

「若ぁ。今日は嵐なり、遺跡への侵入を禁止しておる。動かせる手は多いぞよ。」

「毛は少ねぇのにな。」


そうして一段とうるさくなった部屋に座すハバネラは立ち上がり、空を一望するのに遮るもののないデッキへと進む。


「黙れジジィ、雑魚は目と耳に徹しろ、おれが動く。嵐の風はぬるくねぇ。勝手に死なれたら俺まで禿げちまう。」

「若はこの街の君臨者ですぞ。誰よりも前線に行くなど、、」

「禿げたかジジィ、だからだろうが。俺が1番強ぇ。これが1番速ぇ!」


一般的な成人男性の倍ほどの体躯の大男が、街を見渡すデッキに突き刺さる大剣を引き抜き担いだ。

その刀身は星空を宿したように暗く輝ていた。


今、冒険者最大の戦力が動き出し嵐は力を増していく。


ーーーーー

どうも赤城灯火です!雲のない宇宙にも嵐は存在するそうです。太陽フレアで飛んできたエネルギーと粒子が惑星の磁気を乱して大変なことになるのです。見えない力は恐ろしいですねぇ〜。いつか超能力というやつも磁気やら放射線やらで説明できたら、みんな魔法使いになれちゃいそうですね。

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