第47話 二次選考

 受験はおかげさまで第一志望の東都大学の二次試験が終わって結果発表を待っている。

 そしていよいよ「新感選」の二次選考が終わって、通過作が発表されることとなる。


 『シンカン』の「新感選」特設サイトを開きながら、今や遅しと十二時が来るのを待ち構えている。

 スマートフォンからLIMEの着信音が鳴る。高田からだ。

〔健闘を祈る!〕

 親指を立てたスタンプが押されていた。

〔任せとけ!〕

 こちらも親指を立てたスタンプを押して返した。


 『シンカン』のチャットルームに入っておくことにした。

 どうせ感想戦が始まるのだから、皆とともに二次選考通過を見守るのも悪くないだろう。


〔皆様、こんにちは〕

〔あ、多歌人くんこんにちは〕

〔こんにちは〕

〔来たな大穴!〕

〔大穴って、僕は馬ですか?〕


 ちょっとおどけてみたが言わんとしていることはわからないでもない。

 この中で最年少であり、二次選考を通過して最終選考に残れれば笹原雪影さんに一矢報いる形になる。


〔伊井田飯さん、受験ですが、二次試験の解答はすべて書けました。合格は確実だと思います〕

〔おめでとう。これで二次試験合格して、さらに小説の二次選考も通過して書籍化まで行ったら東都の小説家になるのか。二足のわらじはたいへんだろうけど頑張りなさいね〕

〔俺、どこ受けたか聞いてないんすけど〕

〔東都の文一だよ。将来は弁護士とか官僚とか政治家とか。前途有望だね〕

〔それで書籍化まで持っていったら役満じゃないっすか!〕


 そうこうしているうちに、もうじき十二時になる。皆の投稿が少なくなっていく。


〔今年こそ再び書籍化を!〕

〔最終候補まで残って!〕

〔笹原を見返すのは俺だ!〕


 皆が祈りを書き込んでいる。

 僕はあえて書き込まなかった。それだけ緊張感が高まっているのだ。


 十二時を告げるアラームが鳴り、特設サイトにアクセスしてリロードを数回繰り返すと二次選考を通過した最終候補作が表示された。


 今年も最終候補に残るのは二十作程度である。

 先頭に出てきたのは伊井田飯さんのラブコメだ。次がハワード三世さんの異世界転生。わさび餅さんのラブコメも残った。

 そして、僕の「最高の異世界転生」と「異世界で推理もの」はふたつとも残っている。

〔うわ〜! 俺の異世界転生残ってねえ!〕

 その一方で畑中さんの異世界転生ものは落選していた。


〔伊井田飯さんとわさび餅さんのラブコメ、面白かったですもんね。通過おめでとうございます〕

〔多歌人くんは二作とも残ったね。これは最終選考でハワード三世さんと異世界転生枠を争うことになりそうだね〕

〔多歌人さんおめでとうございます。一作でも残れば凄いほうなのに、二作も残るなんて!〕

〔多歌人くんの異世界転生に勝てなかったー!〕


 あれ? 笹原雪影さんの講評の動画がないけど、どうなっているんだ?


〔笹原さんの講評動画へのリンク、ありますか?〕

〔おや? ないね。どこに行ったんだか〕

〔あの、かなり下のほうにテキストリンクが張ってありますけど〕

〔テキストだと! 笹原の野郎、ふざけんな!〕

〔まあまあ、読んでみようじゃないか〕

 僕もテキストリンクをクリックして講評ページへ飛んだ。



〔今回の「新感選」にはひじょうに面白い作品が残りました。皆さんが創意工夫して一皮むけたということでしょう。あいかわらず「異世界転生」が多かったのは癪に障りますが、残った作品はレベルが高かったということです〕

 これ、素直に負けを認めていないか? どう読んでもそう思えるんだけど。


〔多歌人くん、とうとう笹原を見返したようだな! それが俺じゃなくて残念だがな〕

〔いえ、異世界転生では他にハワード三世さんなど四名残っていますから、僕ではないかもしれません〕

〔いやいや、今回に関していえば、お前さんのほうが上だ。ハワード三世さんは王道の異世界転生ものだったからな〕


〔仮に僕だったとして、大賞である最優秀賞が獲れなければ笹原さんを見返したことにはなりませんよ。あの人が審査員長なんですから〕

〔確かにね。私とわさび餅さんのラブコメとは面白さの質が異なる二作だから、ツボにハマると強そうだよね〕

〔確かにハマるかどうかですよね。王道のハワード三世さんも最終選考に残っていますから、あくまでもイロモノとして残っただけかもしれませんし〕


〔まあ最終選考に残れば必ず寸評が付くから、次回につながるよ〕

〔そうですね。僕は次回から多作は難しいので、一作必中のつもりで書かないといけませんから〕

〔なんてったって東都の文一だもんね〕

〔でも合格最低点は文三に負けたらしいんですけどね〕

〔本当かい、それ〕

〔はい、ネットニュースになったのを読んでいますから〕


〔東都文一もネームバリューだけになる日が来たのかなあ〕

〔だからといって落ちた作品が復活するわけでもありませんよ〕

〔それを言うなよー!〕



 おっかなびっくりな一日はこうして終わった。

 そして卒業式を終えて、小説に青春を懸けた高校生活に別れを告げた。


 新学期が始まるとともに、いよいよ最終選考の結果が発表される。


 各賞に選出された作品とは。

 大賞である最優秀賞を射止める作品とは。


 僕の高校生活のすべてを込めた『シンカン』での想い出は、どのような結末を迎えるのだろうか。


 すべての謎が解き明かされる日を迎えた。



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