第十二章 飛翔
第45話 異世界転生では小説賞は獲れない
十二月も迫ってきて、海悠高校でも期末試験が近づいてきた。
しかし僕は「異世界で推理小説」のあらすじを書くため、今日もネタ帳にアイデアを書き出していた。
「鷹仁、お前まだ小説を書いているのか? 期末が終わるといよいよ大学入試も迫ってくるってときに」
「まあ大賞さえ獲ればどこの大学にいても関係ないからな」
ノートにアイデアを書き加える手を止めなかった。
「お前も言ってたじゃねえか。小説を書けるのは今くらいだからって。大学に受かったら小説どころじゃないんだろ? ならもういいんじゃねえの」
「よくないね。今回三作出すつもりでいて、それがここまでずれ込んでしまった。完全に僕の計算ミスだ」
「でも二作目の異世界転生ものの連載は好調なんだろ? それならもう頑張らなくてもいいと思うんだが」
ページをめくって続きを書いていく。
「異世界転生もので大賞を獲れたとしても、来年は応募できない可能性が高いからね。だから今年のうちに三作書いて応募しておくんだ。再来年以降のためにいくらかでも爪痕を残しておこうと思ってね」
「それって二作目では大賞が獲れないと言っているようなものなんだけどなあ」
「正直獲れないと思うよ」
その問いに即答した。
「へ、獲れないの? あれだけ面白いのに」
「おそらくね。過去最高レベルの異世界転生だとは思っているけど、今年も審査員長はあの笹原雪影さんだからな。最終選考に残ったとしてもまず大賞は獲れない」
我ながら妙に冷静な情勢判断だよなとは思う。
しかし楽観せずに考えると結局はそうなるのだ。
「じゃあどうすんだよ。お前が苦心して書いた異世界転生ものなのに意味がなかったとでもいうのか」
「いや、意味はあるんだ。最終選考まで異世界転生が残った。これだけで笹原雪影を焦らせることができる」
「焦らせただけじゃ意味ないだろ」
「そ、意味はない。けど」
「けど?」
「今書こうとしている三作目がうまくいけば、もっと笹原雪影さんを焦らせられる。焦った状態で選択を迫られるんだ。最高傑作の異世界転生を選ぶのか、今やっている三作目を選ぶのか」
「正直、言っている意味がわからん」
「つまり三作目も二作目レベルの作品に仕上げるんだ。そうすれば笹原雪影さんはどちらかを選ばなければならなくなる。そこまで追い込まなければ異世界転生への偏見は改めないだろうからね」
「笹原の蒙を啓こうってわけか」
「そういうこと。だから三作目が絶対に必要なんだ。来年応募できなくなるかもというのも本当の話。東都の文一に受かりでもしたら、司法試験と国家公務員試験だけで手いっぱいになりかねないからね」
「そうなったら同期の出世頭になりそうだよな」
「いや、起業するヤツが必ず出てくるだろ。一国一城の主ってやつ」
「確かにいるだろうなあ。まだITは夢を追える分野だしな」
「そういうこと。だから今トップ集団で走っていて、最高の場所に入れたとしても、それで人生のトップランナーにはなれないってこと」
「本当、人生ってわからねえなあ」
「そ。未来が決まっている人なんて、ここには誰ひとりとしていないんだよ。皆可能性の中で生きているからね」
「そういえばお前、高校に入って恋愛のひとつくらいしなかったのか?」
「していないな。勉強と小説を書くのに忙しくてそんなこと思いもしなかったよ」
「タロット占いまでやったのにな」
「あれも小説を書くためのデバイスでありツールだからな」
「たくさんの女子の悩みを占ってきた割に、報われないことこのうえないな」
「お前はどうなんだよ。入試前だから難しいとは思うけど、女子とお付き合いできたか?」
「いんや。高校生活そんなに甘くなかったよ。まあ海悠は曲がりなりにも国内屈指の進学校だから、恋愛するより有名大学へ入りましょうって感じだからな」
「まあ、入試が終われば声くらいかかるだろ、お前なら」
高田がそれを聞いて驚いている。
「いや、お前が無理なのに俺にチャンスはまわってこねえよ」
「さて、それはどうかな?」
「お前、まさか俺の恋愛についてタロット占いしたんじゃないだろうな」
「したよ」
「したのか! で結果はどうよ」
「入試が終われば女子が寄ってくるだろうって出たな」
「それが本当なら、大学入学と彼女ができるのほぼ同時になりそうだ」
「でも卒業式までは短いからな」
「短くてもいいんだよ。青春ってやつはできるうちにやっておくもんだ」
「僕の青春は小説賞に応募している今がいちばん充実しているな。恋愛とは無縁だったけど、小説賞で夢を追っているだけでもじゅうぶん満足がいくからね」
「絶対後悔するぞ、お前。恋愛は早く経験しておいたほうが、創作にも絶対に役立つって」
「大学に入ってからでも遅くはないかな、と考えているけどね」
「もったいないな。その無欲さ」
「欲はあるさ。小説賞を獲るという欲がな」
「人間関係を欲張らないってことだよ。俺以上の親友なんていないだろ?」
「親友はひとりいればいいんだよ。そのひとりと縁が切れなければ最高の親友だと思うんだけどな」
「東都に入っても俺のこと忘れんじゃねえぞ」
「それなら『シンカン』のチャットルームくらい顔を出せって」
「いやいや、あそこは創作者のたまり場であって、読み専がいていい空間じゃないよ」
「でも覗いてはいるんだろ?」
「そりゃそうだがな」
「まあLIMEでつながっていればなんとかなるだろう」
ずいぶん細い糸でつながっている親友なんだよな。
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