第44話 難題突破
伊井田飯さんから聞いた「異世界で推理小説」が成立するのかどうか。可能性を考えてみる。
まず伊井田飯さん自身が言っていたことだが「魔法があると犯罪を立証するのが難しい」という大前提がある。
スマートフォンからLIMEの着信音が流れてきた。高田からだ。
〔三作目、うまくいってるか?〕
〔今悩んでいるところ。ちなみに異世界推理モノ〕
〔うわ、それ激ムズじゃないか〕
読み専でも難しいとわかるよなあ。
〔たとえばさ。テレポーテーションの魔法が使えたら、どこにでも現れて何処かへ去れるだろ〕
〔するとテレポーテーションの魔法が存在しない世界でないと「推理もの」は作れないと思っていいな〕
〔もしその魔法がこの世にひとりしか使えないものであれば、その人物が犯人だ、という筋書きは作れると思う〕
〔テレキネシスつまり念動力が使えれば、触れずに殺すことだってできるから、凶器に指紋は残らないしその場にいなくても殺せるよね〕
〔それだと超能力は軒並みダメだな〕
であれば、その異世界は「剣と魔法のファンタジー」ではあるがテレポーテーションもテレキネシスも使えない世界として定義しなければならない。
〔ところがそうとばかりもいえないんだ〕
透視能力があれば犯人が体に凶器を隠し持っていてもすぐにわかる。
これは推理側には有利な魔法である。
テレパシーも犯人がなにを考えているのかが読み取れるわけだから推理側に有利といえるだろう。
こう考えると推理小説に向く能力と向かない能力があるのだ。
そのあたりを切り分けておかないと、異世界で推理小説は成り立たない。
〔なるほどな、透視とテレパシーは推理側に有利だな〕
可能性があるとするならば、世に魔法使いは存在すれど、一般人は使えない。
特殊な訓練を受けた魔術師だけが使える、と仮定する。
これだけで不可能殺人を行なう人物は限られてくる。
〔たとえば「過去を見通す能力」があれば、たとえどんなに強固な密室殺人でも犯人がどのようなトリックを用いたのかひと目で判明してしまう。これだと犯人がすぐ捕まって、面白い推理小説にはならないよね〕
だからこれは封じるしかないな。
推理を面白くするには、限られた人には犯行が可能になっているようにするべきだろう。
罪を犯す動機があるのが複数人必要になる。
「異世界で推理小説」を成立させる最も有効な手段は倒叙ミステリーだ。
〔倒叙ミステリーであれば、先に犯行シーンを読み手に見せて、探偵役が真犯人にズバリ切り込んでいくという方法がとれるから、いくらでも書きようはあるかもしれないな〕
しかし、なぜ探偵が真犯人に気づいたのかを示さなければただのご都合主義になってしまう。
〔それにおそらく「異世界で推理小説」を成立させるために倒叙ミステリーを組み込むのは誰もがやっていそうな点が気になるね。苦労して書いても凡百になってしまう可能性が高くなってしまうから〕
ここは正統派ミステリーで探偵が真犯人を突き詰めていくほうが難しいぶん評価は高まるだろう。
となればやはり、魔法でなにができてできないのかを決めていく必要がある。
〔じゃあ魔法を強くせずに、あくまでも火をおこしたり雨を降らせたり程度の「魔法」と呼ぶのも不相応な技程度まで落としてみるか〕
〔いや、それじゃ異世界である必要はないよ〕
いろんな魔法がありながらも、推理ひとつで犯人を探り当てる探偵の存在意義がいかほどのものか。
〔そもそも警察という捜査機関が存在している異世界というのは珍しいよな〕
しかし日本が生み出した異世界ファンタジーというのであれば、警察組織が存在する異世界も当然あるだろう。
〔警察組織には著名な魔術師が所属していて、「過去を見通す魔法」で犯行現場を見ることだってできるはず。にもかかわらず検挙率がそれほど高くない理由を考えないと〕
魔術師の数よりも犯罪件数が多ければ、すべての現場で「過去を見通す魔法」を使っていられない。
または「過去を見通す魔法」で得た情報は「証拠とはならない」という司法判断があるのかもしれない。
〔「過去を見通す魔法」があるのなら、それをかい潜ったり偽物の過去を見せたりする魔法があっても不思議ではないよな〕
欺く手段が確立しているのであれば、検挙率が高くない理由とならないか。
〔欺く手段と暴く手段のイタチごっこになっていたら。そこに探偵が関与する余地が出てくると思う〕
つまり魔術師同士の騙し合いから真実を見つけ出すのが、異世界の探偵だとすれば、警察側の魔術師と探偵が組むことで、犯人を追い詰めることだってできるはずだ。
たとえば魔法の残りカスを感じ取る魔術師と、推理する探偵のコンビで真犯人を追い詰める。
これなら魔術師が「できるできない」を判断できるので、探偵の活躍も描けるのではないか。
というより、そうしなければ異世界で推理ものは存在しえないような気がする。
探偵の推理力はずば抜けているが魔法は使えない。
警察所属の魔術師は魔法を感じ取る才能はあるのだが推理力が今ひとつ。
この凸凹コンビが組み合わされば「異世界で推理小説」は成立しうるのである。
あとはこの異世界にどんな魔法があるのかをあらかじめ決めておく必要があるな。
一作だけの小説ならそれほど難しくはないが、続きものにしようと思えばかなりの魔法の仕分けが必要になってくる。
それこそTRPGの「魔法ルールブック」を作るようなものである。
本作とその周辺に絞って魔法の可否を分別するのが落としどころだろうか。
〔高田、ありがとうな。これで「異世界で推理小説」の道が開けたよ〕
あとはあらすじを作るだけだ。
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