第43話 異世界に探偵はいるのか
十一月、なんとかして二作目が完成した。
自分が考える「最強の異世界転生」ものは書けたはずだ。
今はこれ以上の作品は思いつかない。
ただちに『シンカン』で連載投稿を開始し、反響を見守ることになる。
だが、すぐに三作目のあらすじを考えなければならない。
「新感選」の応募は一月いっぱいまでであり、受験勉強も考えれば今から三作目を書き始めても早すぎるというほどではなかった。
『シンカン』のチャットルームには今日も伊井田飯さんが常駐している。
書籍化作家でもあるので、いくらかでも印税が入ってくるとは言え、毎日チャットルームにいるかなり奇特な方だ。
〔伊井田飯さんこんばんは〕
〔多歌人くんこんばんは。新作早速読ませてもらっているよ〕
〔ちょっと奇抜すぎたかなと思わないでもないのですが、今自分が考えられる「最高の異世界転生」にはなっているかなという手応えはあります〕
〔未来から現代に転生しているけど、これは現代ファンタジーではないんだよね?〕
〔大枠で捉えて異世界転生になっています。元からあった「SF逆転生」のアイデアをさらに掘り下げてみて、未来から異世界へ転生するものを最初に考えたのですが、それだと別に未来人である必要がないんですよね。そこで真ん中に現代を噛ませてあるんです〕
〔なるほどねえ。いちおう異世界ファンタジーのジャンルに入っているけど、開始早々は未来から現代に来ただけなんだね。ってことは、長じてから程なくして異世界へ転生するのかい?〕
〔いえ、転移することにしました。二回も転生させるとさすがにやりすぎかなと思いまして〕
そうなのだ。
当初考えていたアイデアでも現実世界から異世界へは「転移」だったのだ。
二回も「転生」するのはあまりにもできすぎた話である。
それなら「転生」したときに「転移」のスキルを獲得した、としたほうが筋が通るだろう。
〔いい判断じゃないかな。単に異世界へ転生するのってなにかご都合主義な面があるものなんだけど。転生した人が転移の能力を獲得して自らの意志で異世界へ行くのであれば二回転生よりは考えた構成だと思うよ。これは先の展開がなかなか読めないから面白くなりそうだね〕
〔ありがとうございます〕
伊井田飯さんは自信を持たせるためによい点を挙げてくれるので頼りになる。
ひとりで「小説賞」へ応募するよりも支えになってくれる人がいるだけで腰を据えて執筆や連載ができる。
〔たしか多歌人くんは今回の「新感選」に三本応募する予定なんだよね?〕
〔はい。できればあと一作、今から作ろうと思っています〕
〔受験が目の前に迫っているけどだいじょうぶかい?〕
〔そちらはだいじょうぶです。問題はありません。それに今三作書かなければ、来年どうなるかわからないので〕
〔東都の文一だったっけ。取れる資格はすぐにでもってところなのかな〕
〔とりあえず司法試験と国家公務員試験は受験資格を得たらすぐに取っておくつもりです。TOEICももっと点数が欲しいところですから〕
〔多歌人くんに法律の知識が加わったら推理小説あたりで一気に化けそうだよね〕
〔推理小説ですか?〕
〔ああ、君の文体はひじょうに感情が抑制的だからね。司法試験で資格を取れば、刑事なり民事なりを主眼に据えた推理小説あたりが見事にハマりそうなんだ〕
〔それじゃあ今から推理ものでも書きましょうか? といってもこれから書けるのは一作だけだしなあ。三作目を推理小説にしたらどうなるんだろう〕
〔今の推理小説は奇抜なトリックなんてまず思い浮かばないからね。それが成立しそうなのは魔法のある異世界でないと。そこで事件が発生して謎を解き明かしたら、相当奇抜なトリックだった。というのはありうるかもしれないからな〕
〔いろいろな異世界転生は書いてきましたけど、確かに異世界探偵っていうネタはあまり見ませんね〕
〔なんでもできる魔法があると、推理以上のこともできてしまうし、最悪犯人が死んだあとに人を殺すのだってできるかもしれない〕
異世界で推理ものか。
伊井田飯さんの言っているように、成立させるには少しハードルが高いかもしれない。
ある程度限定的な異世界でなければ成立しない。
〔まあ異世界で推理小説が書けないのは、その異世界でなにができてできないのか。それが読み手にはいっさいわからないところにあるんだ。現実であれば、読み手もなにができてできないのかは感覚でわかるんだけどね〕
確かに密室殺人が行なわれたとして、魔法なら内側から鍵をかけてテレポーテーションで脱出したり、遠隔から魔法で凶器を操作して殺すことだってできるだろう。
魔法があるというだけで密室殺人すら成立しない世界なのだから、挑戦する人はいても必ずどこかで破綻するはずだ。
〔でもアイデアとしては面白そうですね。異世界で推理小説ですか〕
〔失敗する可能性のほうが高いから、あまりオススメはできないんだけどね〕
〔いえ、だからこそ挑戦のし甲斐があるかもしれません。どうせすでに二発撃ち込んでいますので、三発目は難しいものを書くのもありですね〕
〔ちなみに「なんでもできる」をどう回避するのか。そこを考えておかないとすぐ破綻するからね〕
〔はい、できそうにないと思ったらすぐに方針を切り替えます。なので異世界で推理小説はあくまでも候補のひとつにすぎない位置づけです〕
でも、難しくて面白そうだという思いでワクワクしてくる。
もちろん成立しそうになければすぐに別の物語にするべく、いつでも方向性を切り替えられるようにしておこう。
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