第十一章 激励

第41話 押してもダメなら引いてみろ

 最高の「異世界転生」もののあらすじを完成させるべく、タロット・カードを引いていく。

 どんな出来事が起これば物語はさらに面白くなるのか。

 正直、なにが最もよい出来事なのか。これはかなりの難題である。


 タロット・カードを引いてはあらすじの雛形に当てはめていき、面白い面白くないを判断していく。

 そうなると作業は遅々として進まなくなる。

 あらすじの雛形自体はじゅうぶん面白くなる余地があるのだが、実際にどんな出来事を起こせば物語や主人公が引き立つのか。これがなかなか見つからない。


 タロット・カードを七十八枚すべてめくってもなんらひらめきが湧いてこなかった。


 スマートフォンからLIMEの着信音が鳴った。おそらく高田だろう。

〔行き詰まっていないか? ちゃんと最高の異世界転生ものは出来たか?〕

 「うーん」と考え込んでいるスタンプが押されていた。

 どこかで覗いているんじゃないだろうな。

 タイミングがまさにバッチリだった。


〔もう少しであらすじがなんとかなりそう。今タロット・カードでつまずいているところ〕

 目を回しているスタンプを押して送り返した。すると程なくして再び着信音が鳴った。

〔押しても駄目なら引いてみなって言うじゃないか。押すべきものだと思い込まないで、たまには引いてみるのもありだと思うぞ〕


 なるほど。言われてみればそのとおりだな。


 タロット・カードを絶対視して出来事を作ろうと思っていたけど、たまにはひっくり返してもいいのではないか。

 タロット・カードはたいがい正位置と逆位置では内容が異なる。

 その異なり方は三通りあり、すべてが正反対になるカード、同じ意味合いを弱めるカード、それほど意味合いが変わらないカードである。


 場に出したすべてのカードを回収して、天地を入れ替えてまためくってみた。そうしたら面白くなりそうなカードが出てきた。


〔難関は突破した!〕

 親指を立てたスタンプを押して送り返した。



 ここからはスピード勝負だ。

 手早くあらすじをまとめて、各シーンに割っていく。

 そしてひとシーンに盛り込むべき時と場所、登場人物とセリフを「ハコ」に書き出していく。

 これができたら順番に並べ、物語の流れがスムーズに通るかどうかを確認する。

 とりあえず前後を移せそうなものを試してみるが、最初に決めた順番どおりに書くのが最も面白くなると判断した。


 クライマックスとエンディングのハコを視野に入れながら、一番目のハコを参照して書き出していく。

 今晩中に書けそうなのは二話程度だが、明日以降はひたすら執筆あるのみだ。


 中間試験の最中ではあるが、今はそちらをかまっている余裕はない。

 箱書きが出来たらあとは一気に書き進めるだけである。


 ◇◇◇


「鷹仁、中間試験の勉強やったか?」

 後ろの席から高田が覗き込んできた。


「いやまったく。昨日から「新感選」の二作目を書き始めたところ」

「それで学年トップだもんな。神様の不公平を感じるよ」

 執筆ノートに文字を走らせながら、彼の声を聞いている。


「勉強は教科書と授業で足りるだろう。他の時間は自由に使ってかまわないよね」

「それよな。今度教科書と授業で足りる勉強の仕方を教えてくれよ。どうせ半年で俺たち卒業するんだからさ」

「そうだな。『新感選』で三作応募できたあとに教えるよ」


「それって期間目いっぱい使うじゃねえか。それじゃあ三学期に入って受験も終わってる頃だろ」

「ノウハウは教えるんだからいいだろ。今は原稿をたくさん書いて、すぐに連載が開始できるように準備する時期だよ」

 呆れ顔をしているのが目に見えるようだが、かまわずノートに文章を書いていく。


「大学に入ったら、どれくらい執筆できるんだろうな」

「わからない。もし第一志望が通ったら、在学中に難関の司法試験や国家公務員試験、TOEICなどが控えているからね。でもどれかだけでもすぐに現役合格すればいいだけの話だから、それほど断筆している期間は長くならないと思ってるけど」

「頭に詰め込むタイプの試験には滅法強いもんな、お前。しかもプログラミング脳でロジックにも定評がある。自信があるのは結構だが、それだけで乗り越えられる問題ばかりじゃないだろ」


「それは逆だね。自信が持てないから憶えられないんだよ。憶えたければたとえ忘れたとしても自信を持つに尽きる。そうすれば、忘れたときすぐに憶え直そうとするから。プライドの問題だね」

「プライドねえ。俺にはそんなものないからなあ。やっぱり鷹仁は凄いわ」

「俺から見ればお前もかなり凄いと思うぞ」

「どんなところがさ」


「どこから仕入れたのかわからない情報や物をたくさんくれるじゃないか。手広くアンテナを張っていないと無理だろ、それって」

「まあ情報は鮮度が命だからな。会話のネタになるからよく集めているよ」

「それって時事問題には絶対の自信があるようなものじゃないか。僕は教科書と授業からしか勉強していないから、時事問題で勝負されたら高田には絶対負ける自信があるよ」


「それってもしかして俺のこと褒めてくれているのか?」

「褒めるというより真実だろうな。時事問題はさっぱりわからないからね」

「無敵の鷹仁にも弱点はあったのか」


「アキレスだろうとペルセウスだろうと、無敵と思われた勇者でも実際に弱点があっただろ」

「そう言われりゃそうだな」


「おっと今の言葉、小説で使えそうだな。とりあえず書き残しておこう」

「その集中力の高さがお前の本当の強みだよな。おい、そろそろ試験が始まるぞ」

「わかった。この一行を書いたら止めるわ」



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