第38話 SF逆転生

 「新感選」へ応募する二作目の構想を練っている頃、模試の結果が届いた。


 受けたときはタロット占いに意識を持っていかれていたので、A判定から落ちるのではないかと怖い気持ちもあったのだ。

 高校で結果を受け取ると、今回もなんとかA判定を獲れた。

 点数自体も以前より高いくらいだったのでひと安心だ。

 これで「新感選」に集中できる。


「よお鷹仁、今回なんとかA判定獲れたぞ! 死ぬ気で勉強したわ」

「高田もお疲れさま。俺も今回はかなりおっかなかったけどね。なんとかA判定を維持できた」

「お前でも模試が怖く感じたのか?」

「ちょっとタロット占いに集中しすぎて、学校で習ったことを確実に記憶していたか自信がなかったんだよ」


「それならいっそタロット占い師になったらどうだ? 学歴不問だろ、占い師なんて」

「僕って小説家に向いていないのかな? タロットや小説をやってはいるけど、学業で萎縮しちゃって。小説を書いているときも不安だったんだ」


 高田がニヤリと笑った。

「俺はな、よく知っているんだ。小説のためにタロットを始めて、占い師レベルになれた男のことをな。そこまで頑張れたのなら、小説に本腰を入れればきっと小説家になれるだろう。心配すんな」

 励ましの言葉を聞いて少し心に余裕が生まれた。


 確かにタロットは小説家になるために始めたのであって、占い師になるためのものではなかった。

 それなら初志貫徹。

 小説家を目指すために始めたのであれば、小説にすべて活かすべきである。


 今まではタロット・カードに振り回されていたが、捉え方を変えてみることにした。

 小説を書いて迷うところにタロット・カードを使ってみる。

 具体的には大きな物語の形と、そこで起こる出来事の雛形をタロットに任せるのである。


 これまでタロットで受験合格を占ってきた生徒たちが報告のために集まってきた。

 皆着実に成績を上げ、A判定やB判定が続出している。

 ここまで上がれば、学習意欲も湧いてきてさらに受験に身が入るだろう。


「小説家を目指さないのなら、進学塾の講師に向いているよな、お前は」


 高田から言われてみれば確かにそのとおりだ。

 生徒にやる気を出させて学力を向上させていく。

 塾講師も悪くないかもしれない。


 第一志望である東都の文一に入ったら無理だろうけど、第二志望に入ったら塾講師のアルバイトでもしてみるか。

 まあ小説家になる前提ではないのが痛いけど。

 やはり東都の文一で小説家という看板のほうが無二の存在にふさわしいかもしれない。


 ◇◇◇


 学校から帰ってきて、ネタ帳を開いた。

 そろそろなにを書くのか決めなければならない。

 今回もA判定だったから、心置きなく創作に集中できる。


 二作目は結局「SF逆転生」ものに決めた。

 SFジャンルには「SF転生」ものはあるのだが、「SF逆転生」ものは分類するなら現代ファンタジーになる。

 しかもそれほど数は多くない。

 だからといって「現代ファンタジー」に出すつもりはない。

 あくまでも「笹原も認める異世界転生」を標榜するには「異世界ファンタジー」に応募しなければ意味がないのだ。


 そこで前半を「SF逆転生」にして、後半はさらに異世界へ転移するという二段階の仕組みを取り入れることにした。

 問題は十万字を少し超えるくらいで物語が収まるかどうかだ。

 何万字で異世界へ転移することになるのか。

 そのあたりの計算もしながら執筆しなければならない。


 そこへさらにタロット・カードで出来事が決まっていくのだ。

 執筆する前に計算が立つような物語ではありえない。

 へたをすれば文字数がオーバーで徒労に終わる可能性すらある。

 それでも挑戦し甲斐のある物語のように見えた。


 そこまで決めたら『シンカン』のチャットルームに入った。


〔伊井田飯さんこんばんは〕

〔多歌人くん、こんはんは〕

〔二作目の構想が出来あがりました〕

〔笹原さんを見返せるものが見つかったみたいだね〕

〔はい。これなら「異世界転生」の可能性を見せつけられると思います〕


〔ちなみに今回三作応募するんだよね? 二作目をすぐに書き始めないと時間がないんじゃないかな〕

 確かに伊井田飯さんの言うとおりである。

 今までどおり一作にひと月をかけていたのでは間に合わない。

 なにせ三作目の途中で受験が入るからだ。


〔そうですね。受験さえうまく乗り切れればなんとかなるとは思います。もし受験で後悔すると更新が滞ってしまうかも〕

〔これは是が非でも後悔せずに受かってもらわないといけないね。目標が高いだけあって、やり甲斐は相当あると思うけどね。君が今しようとしていることは、他の誰にも真似できない。君だから挑戦できるんだ。そのことを噛み締めながら執筆に励むんだよ〕

〔伊井田飯さんありがとうございます。絶対に乗り越えてみせますよ〕

〔その意気だ〕


〔そういえば、わさび餅さんは最近いらしていますか?〕

〔いや、来ていないけど。どうして?〕

〔今年も異世界転生ものに挑むのか聞いてみたかったんです。前回があれでしたから〕

〔確かに気になるよね。それとなく聞いてみたけど、今回の審査員長も笹原さんだから、別のジャンルで挑むみたいだよ〕


〔こうなるとジャンル一の実力者であるハワード三世さんが気になりますね〕

〔あの人なら、きっと矜持を持って異世界転生で挑んでくると思うけど〕

〔となれば、最大の競争相手はハワード三世さんになるんですね〕

〔強敵だとは思うけど、皆悔いの残らない戦いをしたいところだね〕


〔で、伊井田飯さん自身はなにを応募するんですか?〕

〔いつもと同じでラブコメ二本と、現代ドラマ一本だね〕

〔競争が激しそうですね。でも前回二本通過していましたから心配は無用かな〕

〔そ。腐っても書籍化作家だってことは忘れないように〕


 このぶんだと、ジャンル最大の競争相手はハワード三世さんで、大賞への最大の競争相手は伊井田飯さんになりそうだな。

 このふたりに勝てなければ大賞はつかめない。

 気を引き締めて二本目の執筆を開始した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る