第十章 発見

第37話 最高の異世界転生とは

 『シンカン』のチャットルームに入ると、伊井田飯さんとわさび餅さんが会話しているのが見えた。

 久しぶりにわさび餅さんと話せると思って入室する。


〔伊井田飯さん、わさび餅さん、こんばんは〕

〔お、多歌人くんこんばんは〕

〔多歌人さん、こんばんは。新作読んでいますよ〕


〔あの作品ですか。ちょっと恥ずかしいんですよね。自分で執筆して投稿しておいて言うのもなんですが〕

〔気に入っていないんですか?〕

〔というより失敗したなと思っています〕


〔確かに今までの多歌人さんの作品とは違いますよね。なにかあがいているような印象を受けたんですけど〕

〔そのとおりです。とにかく試したいものがあって、とりあえず第一作は今までやってみたかった書き方をしたんです。それで書いたらやっぱりダメでした〕

〔すべてタロットで書いたんだって〕


〔それじゃあ物語をコントロールできなくなって、空中分解してしまわないですか?〕

〔それをまとめられたんだから、間違いなくセンスはあるんだよね、多歌人くんって〕

 伊井田飯さんがフォローしてくれたが、確かにわさび餅さんの言うとおりコントロールできなかったんだよな。

 なんとか形にはしたけど。

 それだけリーディングに余裕が生まれているってことでもあるんだけど。


〔今第二作を考えているところです。おそらく過去一番の「異世界転生」ものになると思います〕

〔ハワード三世さんとジャンルの覇を競うところまでいけたら面白いよね〕

〔私も異世界転生を書いているけど、ハワード三世さんには敵わないなあ。あの人、まさに異世界転生の生き字引のような人だから〕


〔前回笹原さんに読まれずに落とされたって有名でしたからね。今年はどんな弾で来るのか楽しみにしています〕

〔多歌人くんも読まれずに落とされたと思っているんだよね〕

〔はい。だから今度は笹原さんが読んでも絶対に落とされない異世界転生を目指しています〕


〔それを目指した一作目があの様子だと、二作目は相当頑張らないと〕

〔そうですね。それも加味して絶対に落とされない「異世界転生」ものを考えているところです〕

〔私も今回は笹原さんに当たるかもしれないから、対策を練らないとダメなのかなあ〕

〔まあ審査員長とはいえ、笹原さんだけが選んでいるわけでもないし。どこまでにらんで小説を書くかという「野心」によっても目標は違うと思うよ〕


〔僕は絶対大賞を獲りたいので、打倒笹原さんって思っています〕

〔あまりマイナスな感情で小説を書かないほうが、よい作品に仕上がると思いますけど〕

〔僕にとっては「超」前向きなんですけどね。笹原さんだけじゃなく応募する全員に負けないつもりで書きますので〕


〔それじゃあ二作目を楽しみに待っていますね〕

〔はい、ご期待に添える作品を書いてみせます。今日はここらで失礼致しますね〕

〔じゃあね多歌人くん〕

〔多歌人さんお疲れさまでした〕



 チャットから落ちると、すぐにネタ帳を開いて二作目に使えそうなアイデアを拾い上げてみる。

 「誰にも負けない異世界転生」は口で言うだけなら容易いのだが、いざ形にするとなればどのような物語がふさわしいのかわからない。

 とりあえず定番を押さえにいくか、ひっくり返してみるか。

 最初のボタンすらかけ違う可能性すらあるのだ。


 どうせやるのなら定番をひっくり返して「誰も書いたことのない異世界転生」を目指すべきだろう。

 ひっくり返すのだとすれば「おっさんがトラックに轢かれて異世界転生」という古くさいテンプレートをいかに崩すかがそもそも論となるだろう。


 たとえば「異世界の美少女が突然亡くなって、気づいた現実世界の人に転生していた」というもの。

 これ自体は類例があるからそのままでは使えないけど、異世界から異世界への転生であってもよいはずだ。

 また「SF転生」ものを試してみても面白いかもしれない。

 前の作品はそれなりに面白かったと思うけど、そこにきちんとリーディングで培われた物語づくりの経験があればさらに面白くできる自信があった。


 今度は「SF世界から現実世界へ転生してきた」という話も面白そうだ。

 なんでも切れるレーザーサーベルを持って現実世界へ転生すれば、レーザーサーベルを狙って海外軍需産業や防衛省の技官あたりが刺客を放ってきても不思議ではない。

 実質は「現実世界転生」ものということになって「現代ファンタジー」に分類されるかもしれないが、元となるSF世界が現実世界に介入してくるような流れにすれば、これもやはり「異世界転生」と呼んでいいだろう。


 「SF転生」の逆バージョンを主としてタロット・カードからイベントのアイデアを取り入れる。

 そうして出来あがった物語をまとめあげて一作に詰め込むのだ。

 前の作品や今回の「新感選」第一作よりもまとまりのある作品になりそうなので、今から手応えを感じている。


 いったんこの方向で行こうと決まったら、すべてがそこに収束するのだ。


 第二作は必ず「最高の異世界転生」にしたいので、ここからさらに大きなひとひねりを加えて意外性を出していきたいところである。



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