第36話 複雑なリーディング

 登校すると、以前タロット占いをした谷いずみさんから、ある男子生徒との関係がどうなるのかを占ってほしいという。

 放課後でよければと快諾した。


 家庭環境もよくなったためか最近表情が明るい。

 勉強もしっかり復習するようになったと聞いていたが、学力も伸びているのだろう。志望校へ向けて集中しているようだ。


 ◇◇◇


 放課後で教室に誰もいなくなると、谷さんがやってきた。

「今回は恋占いでいいんだよね?」

 タロット・カードをシャッフルしながら内容を聞いてみた。

「うーん。恋占いっていうより、友達として仲良くなれるかって感じかな」

「へえ。女子は恋占いが多かったから意外だな」

「それ、かなりの偏見だと思うわよ」

 カードをまとめてカットを繰り返す。


「タロット占いも、恋占いだけに使われるイメージがあるけど、応用はけっこう幅広いんだ」

「私が前にやってもらったのは家庭の事情と受験のことだったわ」

「そう。タロット・カードの強みはどんな問いかけに関しても物語で見られるところにあるんだ」

「ちなみに仲良くなりたい人って女子かな?」

「男子ね」


「それって、やっぱり恋占いじゃないのかな?」

「ううん。恋愛感情はないのよ。ただ面倒がられたり重荷になったりしていないかを確認したくって」

 カードの山を谷さんの前に置いて三つに切ってもらい、それを組み直す。早速「ケルト十字」スプレッドに従ってカードを配置していく。


「それじゃあその男子が谷さんをどう見ているかを見てみますか」

「お手柔らかに」

 まずカードを六枚配置してリーディングする。

「過去はあまり接点がなかったみたいだね。で現在は関与しているのが伺えるか。でもその先は明るい未来が見えている。少なくとも嫌われているわけではないみたいだね」

「嫌われてはいないようならよかったわ」


「恋愛感情はないみたいだね。結婚するほどでもない。でも仲はよいと出ているから、男女の付き合いというより、親友みたいな感じになりそうだね」

「男女の関係で親友なんて存在するのかしら」

「僕は存在すると思うよ。ネット上だけど女性の親友がかなりいるからね」

「へえ、ネットには女友達がたくさんいるんだ。北野くんって女っけ気ないと思っていたんだけど、最近は放課後なんかによく女子といるわよね」


「あれは今日の谷さんと同じで、タロット占いをしてほしいって人だね」

「占いのできる男子と付き合えば占いし放題だと思うんだけどな」

「そういう打算で付き合うと、その要素がなくなったら一気に気持ちが冷めるんじゃないかな」

 残り四枚のカードをすべて出してから、話を続ける。


「男子としても、そういう打算が目についたら気持ちが引いてしまうと思うんだよね」

「でも北野くんは天才だから、そういう付き合いをされそうならすぐに気づいて関係を絶ちそうよね」

「残念ながら僕は天才じゃないな。天才っていうのは裏での苦労を隠してでも表面を取り繕うような人たちだから」


「タロット占いができるようになったのも天才だからじゃないの?」

「これは小説を書くときのサポートになればと思って始めたことだから」

「っていうことは文芸部に入っているのかしら」

「いや、ネットの小説投稿サイトで活動しているんだ。小説賞にもそこから応募しているからね」

「へえ、小説賞ってネットでもやっているんだ。でも北野くんならすぐに小説賞も獲れるんじゃないの」


「それがからっきしだね。それこそ僕が天才でない理由。今まで大きな小説賞に三回参加したけど一回も一次選考すら通過していないんだ」

「ネットとはいえ小説賞は狭き門、というわけね」

「紙に印刷して編集部へ送るよりも手軽に応募できるから、参加者数自体が多いんだよ。だから競争率が高いんだ」

「でも、質がよければ大賞も獲れるんじゃないの?」

「その質が足りていないんだよね」


「意外ね。北野くんならすぐに大賞獲ってそうなのに」

「だから僕は天才じゃないってこと。で、谷さんと占いたい男子との関係だけど、近いうちにちょっとした試練がありそうだね。これはたぶん中間試験か模試だろうな」

「勉強でなにかあるってこと?」

「そういうことだね。それさえ乗り切れば後は順風満帆だから、当面は試練のクリアを目標にしてみようか」

「わかったわ。家族がまとまってくれたから、勉強もスムーズに進むのよね。さすがに北野くん並みの成績は無理だけど、志望校は変えずにA判定が取れるくらい頑張ってみるわ」


 カードを回収して「ワンカード」で一枚出した。

「そうだね。A判定さえ取れればある程度心に余裕も生まれるからね。そして谷さんは次の模試でA判定取れると思うよ」

「本当にそうなったらいいんだけど。両親も安堵するだろうし」

 まあ谷さんの場合は、ストレスがかかっていて勉強がうまく身につかなかっただけだと思うんだよな。

 屈指の進学校の海悠に入っているくらいだから、元から勉強はある程度できていたはず。

 ということは家庭環境が怪しくなってきたのは、入試の結果が出たあとってことになるのかな。


 さらに「ワンカード」で一枚出した。

「もし谷さんにやる気があるんだったら、今の志望校よりちょっと上の公立を狙ってもいいかもね。頑張ったぶんがそのまま報われるようだからね」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る