第35話 予定どおりの敗戦

 『シンカン』で新連載が始まってから十日。寄せられるコメントは励ましと失望が入り乱れていた。

 やっぱりダメだったか。

 しかしある意味で手応えを感じてもいた。

 元から失敗するのが目に見えていたのだが、あえて書きあげて連載投稿を開始したからだ。


 タロット・カードだけではどうしても面白い物語にはならない。

 とくに長編ではそれが顕著に現れる。

 短編であればパパッとひらめいたアイデアだけでじゅうぶん読める作品になるのだが、こと長編の物語となると十万字を埋めるだけの物語がタロット・カードにあるとは思えなかった。

 第一作は起承転結のそれぞれをリーディングすることでその弱点を補ってみたのだが、話の脈絡という点では飛びまくっていた。

 その予測不可能な展開自体を褒めてくれる人もいくらかいるのだが、おおかたの読者は「面白くなったと思ったら話が変わってしまう」とこき下ろされた。

 予想はしていたが、ここまで反応が悪いと不吉なものを感じてしまう。


 やはりただの偶然から生まれる物語には限界があるようだ。

 以前畑中さんからTRPGのリプレイを勧められた。

 それも偶然から生まれる物語に見えて、ゲームマスターが周到に用意したシナリオをプレイしているに過ぎない。

 サイコロを使った偶然に見えて、物語自体はきちんと作り込まれているのだ。


 タロット・カードを使った創作法も偶然に見えて、物語自体は練り込まれていないと、サイコロ以上に理解不能な展開に陥ってしまうのである。


 タロット・カードだけではダメだ。

 これが早期にわかったこと自体はよかった。

 ここは二作目をすぐに書いて上昇の伸びしろを早めに示さないと、フォロワーさんが逃げてしまいかねない。


 早速タロット・カードを取り出して、新しい物語の雛形を作り始めた。

 今回はアイデアだけを拝借して、物語の根本部分は自分で構築していく。

 予想外の出来事が生まれるのはタロット・カードの利点だが、屋台骨にまで及ぼしてしまうと奇想天外・支離滅裂にしかならない。


 だから物語そのものはいちばん初めに引いたカードに固定し、そこから物語をきちんと構成していく。

 そこにどのような出来事を起こしていくのか。

 そのイベントはタロット・カードに求める。

 当然第一作のように出来事そのものは劇的だが、あくまでも本筋とリンクしている構成だ。

 だから第一作ほど突飛ではないものの、それなりに派手な作品に仕上がりそうだ。


 「異世界転生」はテンプレートをいかに踏襲するかで評価が分かれる。

 もちろん新しいテンプレートを作る人もいるが、先行者利益を得られるのか理解されずに終わるのか、誰にもわからない。


 思いっきり新しいテンプレートを作ろうと採用したタロット・カードなので、その意味では役割を果たしたといえるだろう。

 しかし大ヒットするテンプレートになったかどうかは『シンカン』に連載投稿した反応が如実に物語っていた。


 だからこそ、今度は自分が考える「異世界転生」の新たな形を模索するのだ。

 ベースにするのは「異世界転生」のテンプレートだ。

 そこへ斬新な展開をプラスしていく。あの笹原雪影すら「面白い」と言わしめる「異世界転生」ものを書く。

 この目標は微塵も揺るがない。

 それが書けるのは第二作以外にないと思っている。


 チャットルームを覗くと伊井田飯さんと畑中さんがいた。ちょっとした気づきを得たので、二人に挨拶をしておこう。


〔伊井田飯さん、畑中さん、こんばんは〕

〔お、多歌人くんこんばんは〕

〔多歌人くん、こんばんは。新作散々だな〕

〔ある程度予定通りで良かったです〕

〔予定通り? あんな出来で?〕

 畑中さんもびっくりしているな。

 伊井田飯さんは初回の感想を聞いたときに話しておいたけど。


〔はい。タロット・カードだけで作ったらどうなるか。見極めたかったんです〕

〔でも、反応はよくなかったよね〕

〔伊井田飯さんにはお話ししていますが、次はタロット・カードの枚数を減らして、頭で考える部分を増やす予定です〕

〔まあタロットなんて飛び道具だからな。よほど訓練しないとまず当たらない〕

〔その弁のとおりですね。学校では何度かタロット占いをやってみたんですけど、やればやるほど物語が浮かんできます。やはり慣れの問題がかなり大きいですね〕


〔じゃあこのままタロット占いを続けていけば、一気に面白い小説が書けるんじゃないの?〕

〔それができるのなら、現役のタロット占い師の方が先に大賞を獲るのが当たり前ですからね。でも今のところそういう話は聞きませんので〕

〔確かに聞かないな。やはり小説に活かすというのが無茶なんじゃないか? 要らん時間を費やしてしまったのかもしれないな〕

 だが気づきはじゅうぶんに得られていた。

 しかしそれをここで明かしてしまうと、真似されかねないから、今ははぐらかしておくか。


〔まあ自分ではそれなりに手応えがありましたから、あとはどう利用するかですよね〕

〔多歌人くん自身手応えがあるというのなら、それでいいんじゃないのかな〕

〔まあ、そうっすね。挑んでみて失敗したとしても、多歌人くんなら無駄にはしないでしょうし〕

〔第二作に期待していてください〕

 その後あいさつをしてチャットルームを後にした。



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