第30話 ちゃっかり者

 模試が終わって帰ろうとしたところ、同級生の女子・谷いずみさんから「占ってほしい」と依頼された。

 まあ一大イベントであった模試が終われば、ある程度時間の余裕ができる。

 しかも学年一の美少女と名高い谷さんからの依頼である。こちらから断る理由はないな。


 依頼を引き受けてさっそく机を並べて反対側の席に座らせる。

 ためらいがちに座る仕草も、座ってからの落ち着き方のなさから見ても、単なる恋愛問題ではなさそうだ。


「それでは占いたいことを思い浮かべながらカードを見ていてください」

 タロット・クロスの上にタロット・カードを広げて大きくシャッフルしていく。

「ちなみに恋愛占いではないよね。進学先を占うのでもなさそう」

 谷さんの反応を見るに、やはりこのふたつではなさそうだ。

 ちょっと厄介なリーディングになるかもしれないな。


「言える範囲でかまわないから、どんなことを占ってほしいのか話してもらえるかな?」

 反応がやや鈍く、内容も重々しかった。

「うちの両親が離婚するしないで揉めてて。このまま大学へ進んでいいものかどうか、迷っていて。どうすればいいのかわからないんです……」


 家庭のトラブルか。

 これはへたにリーディングを素直に言わないほうがいいな。

 とりあえず深く占っている印象を与える「ケルト十字」で占うか。

 谷さんにカードを切り分けてもらい、それを受け取っていよいよカードを展開していく。


「今の離婚の話し合いはそんなに長引かないかも。ただ、今は変化に乏しいカードが出ているから、今すぐどうにかなりはしないね。家庭トラブルの原因と現状に関しては内容を聞かなくてもわかると思うから、将来どうなるかだけを見ようか」


 そうしてカードを次々と置いていく。

「谷さんが大学受験に成功するかどうかも、家庭環境が整うかどうかにかかっているね。今は萎縮してしまって勉強に専念できていないんだ。だから今日の模試で第一志望はC判定になるはず。第二志望はB判定をとれているね」

 ここで勉強の重要性を説きたいところだけど、彼女は聞きたがっているのはそれではないはず。

 もう少し家庭環境をしっかり見ないと。


「勉強に関しては高校の図書室や地域の図書館、カフェやファストフード店なんかを利用して、うちではなるべくしないほうがいいね。うちで頑張れば頑張るほどご両親が諍いを始めるから」

 真剣な眼差しがカードに注がれている。


「で、どうすればいいかだけど……、これは『死』のカードが出たね」

「誰かが死ぬんですか?」

「違う違う。タロット・カードの『死』は変化のカードなんだ。出てきたポジションから考えると、だいたい一か月もしないうちに環境が劇的に変わる可能性もあるね」

「死ぬんじゃなければ、どういう変化ですか?」

 まだ探りを入れているようだ。さらに一枚引いてみた。


「離婚するしないは収まるようだね。谷さんが毎日遅くまで勉強している姿を見て、双方に歩み寄りが見られる。今はツラいかもしれないけど、もうちょっと勉強を頑張ってみようか。君の頑張りが家族の接着剤になるからね」


 ラストのカードを置いた。「カップの二」だ。

「喜んでいいよ。最後に出たのはふたりが和解するカードだ。離婚するしないは進んではいるけど、君の頑張りがご両親の目を覚まさせるいい機会になるね」

 どうも反応が薄いな。まだなにか抱えているのかもしれないな。


「じゃあここからはサービス」

 置かれていたカードを回収して再びカットを続けていく。

「サービス?」

「そ。君が他にもなにか抱えているみたいだから、それに対するアドバイスだ。あまり深いリーディングはしないから安心して」


 まずは一枚引いた。「ソードの八」か。

「谷さん、なにか目に見えないものに縛られているようだね。なすがままになっている」

 さらに引く。

「でも、よい知らせを告げるメッセンジャーが現れるみたいだね。その人のいうことには素直に従ったほうがいいみたい」


 谷さんの目が輝いてきているな。

 やはりこのあたりが彼女が本当に占ってほしかったものか。

 最後にもう一枚引いた。

「すごく順調に運ぶみたいだね。誰も犠牲になるのではなく、自然と状況が改善していくカードだ。これで占いはおしまい。あとは谷さんの心がけ次第だね。けっしてうちで勉強しないこと。受験勉強自体は悪くないけど、今はうちで勉強することが両親が揉める原因になっているから。しばらくは図書室と図書館を有効利用してみてね」


「タロット・カードだけでそこまでわかるんですか?」

 谷さんがやや拍子抜けしたようだった。

「私もタロット・カードを勉強しているんだけど、ここまでのリーディングはできないなと。確か夏休み前に高田くんからカードをもらったんだよね。三か月ほどでここまで深いリーディングができるなんて。北野くんって勉強だけじゃなかったんだ」


「勉強もだけど、必要に迫られてっていうのが大きいね。もともと小説を書いていて、展開に行き詰まったなあというときの打開策としてタロットがあるよって教えてもらったんだ」

「じゃあ最初は占うつもりはなかったの?」

「そ。なぜか一回だけ占ってみたら学校で広まっただけだから」


「北野くんはプロの小説家になりたいの?」

「そうだね。僕としてはなりたいかな。勉強も小説のネタになると思って頑張っているところあるし」

「でも今はなかなかプロでいられないって聞いているけど」

「だから安定職に就いて安全装置にするつもり」


「北野くんってしっかり者というよりちゃっかり者なのかも」



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