第八章 転機
第29話 経験の差
板間さんから話が広まったのか、高校では“よく当たる”タロット占い師として有名になってしまったようだ。
登校したときから教室で好奇心のある眼差しを浴びている。やはり危惧していたとおりになりそうだ。
一限の前にクラスの女子ふたりが近寄ってきて「占って」と頼まれてしまった。タロット・カードの習熟にプラスとなりそうなので、とりあえず「放課後」引き受けることにした。
◇◇◇
放課後になり、人けのない教室に女子ふたりがやってきた。
ふたりから頼まれたのは、やはり恋愛問題だった。
今日はふたりを揃って見ることになったのだが、正直女子ふたりの連帯感が強すぎた。かなり強い圧を感じて、鼻白んでしまう。
気を取り直して、ひとりずつそれらしく見える「ケルト十字」で占っていく。
最初の女子・木田さんは想い人がいるので、彼との仲が進展するかどうかを尋ねられた。
「この過去と現在から想定される未来は、勇敢さを表すカードだね。積極的になろうということか。で、このまま進んでいくと最終的に間柄が縮まるようだね。時間軸にもよるんだけど、高校中は難しいかもしれない。でも勇気を持って付き合いを切らさずに続けられれば、正式にお付き合いもできるだろうし、結婚も視野に入ってくるかな。そこまでいくにはある程度の寛容さも必要だね。彼そのうち浮気すると思うよ。それを大きな心で受け止めてあげたら、それが決定打になるかもしれないね」
最初に占った木田さんはさらに食いついてきた。
「それじゃあ高校のうちに距離は詰まらないんですか?」
「もし彼と結ばれたいのなら、今は押しを強めるよりもフォローに徹するべきだね。彼、相当難しい状況にあるから。たとえば彼と受験勉強をするなんてのもいいかも」
「それで距離が詰まるとか?」
「そうだね。受験勉強を一緒にすることで連帯感が生まれるから、やるとやらないとではやったほうが断然いいよ」
「ありがとうございます!」
「優美よかったじゃん! じゃあ次は私の番ね」
壇さんが名乗り出た。下準備をするためにも、いったんカードをリセットするため、反時計回りにシャッフルしながら情報を聞き出していく。
彼女はまだ告白していない人がいて、告白して結ばれるかどうかを知りたいらしい。
ちなみに彼は年下だそうだ。これは彼との温度差が問題になりそうだな。
「願い事を頭の中に思い浮かべてください」
そうしてシャッフルを時計回りにかき混ぜていく。
それをひとところに集めてカットしていって、ひとつの山を作って上下を入れ替えてタロット・クロスの中央に置いた。
「じゃあこのカードの山を三つに分けてください」
壇さんが分けたものを回収して、カードを十枚配置していく。
「今はその彼に恋人はいないみたいだけど、気になって付き合っている女性はいるみたい。ただそれが壇さんではなさそうだね」
「脈なしってことですか?」
「もう少しリーディングしようか。それでこれからの課題として、沈黙が求められるね。つまりこちらから告白したら失敗する暗示。ちなみに彼は今、浮気していてそれがバレそうになっているらしい」
「二股ですか?」
「何股かは別に占わないと詳しくはわからないけど、少なくとも本命の子以外とも付き合っているようだね」
「信じられない。うぶな表情がかわいいんだけど。けっこう腹黒なのかな?」
「とりあえず壇さんとは接点がないからうまくいかないはず。ここからちょっとおまけしておくね」
といっていったん場に出ていたカードをすべて回収し、再度シャッフルして一枚引いた。
「その彼、近々浮気がバレるみたいだね。ちょっとした修羅場になるから近づかないほうがいいよ」
再度カットして一枚引く。
「壇さんは社会に出てから意中の相手と巡り合って結婚するみたいだから、それまでは遊びと思って割り切ったほうがいいね。そのほうが楽しめると思うよ」
◇◇◇
ふたりは満足げな表情で帰っていった。
僕もそのあとに続いて学校を後にする。
まあ他人が喜ぶ瞬間を見るのは悪い気はしないな。ただ少し疲れるのが玉にキズか。
家に着き、まず今日のノートを開いて勉強の復習をすることにした。
勉強の意識の中にタロット・カードがちらついているからな。
ある程度復習が済んだら、タロット・カードで「新感選」用のあらすじを考え始めた。
タロット・カードを眺めていると、なぜか昨日までよりも物語が浮かんで見えるようになっていた。
これが他人を占ったことによる経験の差なのか。
いくつかスプレッドを試してみたが、やはり映像が飛び出してくるような印象を受ける。
もしかして頭がタロット脳になったのではないか。
勉強にのみ使っていた脳がもし他のことに切り替わってしまったら、受験に響くのではないだろうか。
明日には次の模試が控えている。
ここでA判定を逃すようなら、タロット占いはいったん封印したほうがいいだろう。
とりあえず浮かんできた小説のあらすじを書き留めておき、今日はもう寝ることにした。
◇◇◇
翌日、今度は入試に合格するかどうかを占ってほしいという依頼が舞い込んだ。
模試の前に見てほしいと言われて、一限の前で賑わっている教室の一角で占うことになった。
あまり時間をかけられないので「ワンカード」でリーディングする。
「だいじょうぶ。入試で第一志望に合格するよ。次いでだから今日の模試の結果だけどB判定になりそうだね。ここからしっかりと勉強に励めば必ず第一志望には合格できるから安心して。模試のひとつで一喜一憂しないこと」
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