第27話 急げ!
そろそろ「新感選十」へ応募する作品のあらすじを考え始めなければならない時期に入ってきた。
二作応募するためにも、そろそろタロット・カードのあらすじを決めなければならない。
今回も笹原雪影さんが一次選考に関与して「異世界転生」を全落としするかもしれなかった。そして総評でまた「あんなもの」呼ばわりでこき下ろすのが目に見えている。
元々タロット・カードであらすじを考えようとした端緒は笹原さんの存在なのだ。
絶対に笹原さんでさえも落とせないような「異世界転生」を書く。
そのために「誰もが考えつかないような物語」が必要だった。
そしてチャットで伊井田飯さんに聞き込みをしてもらってたどり着いたのがタロット・カード。
最初は半信半疑だったものの、次第にカードに魅せられてリーディングへのめり込んでいった。
しかしいくらカードを並べても、抜群の「異世界転生」もののあらすじは浮かんでこなかったのだ。
今回このまま「異世界転生」ものを書いても、また笹原雪影さんに
もちろんそういう打算から始めたのは確かだ。
しかし少しずつ頭が柔らかくなってきたような気もするのだ。
物語の仕組みそのものが理解できるようになってきたのだろうか。
もしそうであれば、タロット・カードに固執する必要はないのかもしれない。
だが、せっかく始めたことなので「新感選十」に応募する作品のひとつはリーディングからあらすじを立てたいところだ。
それがどこまで通用するのかは正直わからない。
でも、これまで努力の集大成として形に残しておきたい。
それが手に入れてくれた高田や教えてくれた伊井田飯さんへの恩返しにもなるだろう。
これら諸々がプレッシャーとなってタロット・カードでのリーディングへ微妙な影響を及ぼしているようである。
笹原雪影許すまじ。
その一念は揺るがない。
しかしただ笹原雪影さんを見返すだけでよいのだろうか。
他の応募者を上回る作品を書かなければ、たとえ笹原雪影さんを倒せても、悲願は達成できないはずだ。
では頂点を目指せるあらすじはリーディングから生まれるのだろうか。
高田に言ったように、タロットでハッピーエンドが成立するカードは限られている。
その数少ないパターンの中から異世界転生に向いたハッピーエンドを抽出できたとして、それが面白い作品につながるのであれば、タロット占い師の作者はすでにプロとして活躍しているはずである。
プロがやってもダメなものをアマチュアがやって成功するなんて虫がよすぎないか。でもそれ以外の取っかかりがない以上、今はタロット・カードに運命を託すしかない。
先にハッピーエンド向きのカードを選んでおき、そこに主人公のカードや立ちはだかる存在、物語の展開などのカードを引いたほうがよいのだろうか。
少なくともそのほうが手間がないのは確かである。
偶然ハッピーエンド向きのカードを引くまで延々と続けるのは時間の無駄ではないか。
そうであれば、最初からハッピーエンド向きのカードを固定してその派生形つまりバリエーションで勝負するのが手っ取り早いだろう。
たとえば「異世界転生」で「恋人たち」のカードを下敷きにすればどうなるか。誘惑に負けそうになりながらも、最終的には神が二人を祝福して結ばれる。
恋愛要素が加わった「異世界転生」ものが書けるはずである。
反面「世界」はすべてが成就するカードだ。
とくに障害らしいものはなく、順風満帆に物事が運んで、すべてが丸く収まるあらすじになる。
山がないので今ひとつ盛り上がりには欠けるかもしれない。
「主人公最強」「チート」タイプの物語とは相性はよいだろう。
どんなことが起こっても、すべて蹴散らして我が道を行く。
そして必ず勝利を掴むのである。
あまり「主人公最強」ものの「異世界転生」は書かないのだが、選択肢としては当然ありうるわけだ。
「星」は願い事が叶うカードである。
さまざまな試練が待ち受けているかもしれないが、一番星はすべてを見ていてくれる。
願をかけて一所懸命に行動すれば、いつか必ず叶う物語。
どんな苦難が訪れても、希望があふれるあらすじになりそうだ。
「ワンドの四」は祝福のカードだ。
どんなことがあっても、最終的に大勢から祝福を授かる。
魂の変遷の物語として考えることもできるだろう。
どんな苦難も乗り越えて、主人公は大勢から祝福されるのだ。
ひと昔前のロボットアニメのようだが、これもひとつのハッピーエンドなのだろう。
これ以外にもあるのだが、総じてハッピーエンドのカードは少ないのだ。
だからこれらを先に引いてから、他のカードを引いたほうが作りやすいのは確かだろう。
ただ、それは予想外の傑作に仕上がるものだろうか。
「人生は小説よりも奇なり」とも言われるが、タロット・カードが指し示すあらすじは、他の小説よりも奇想天外たりうるのか。
あまりに奇抜過ぎると逆にリアリティーをなくしてしまう。
それが人生よりも小説がこじんまりとしてしまう欠点ではないのか。
そう考えていたところ、スマートフォンでLIMEの着信音が鳴った。
〔至急連絡を乞う〕
「急げ!」のスタンプが押されていた高田からのメッセージである。
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