第七章 重圧

第25話 学校でのタロット占い

 次の「新感選十」の応募締め切りまで残り四か月に迫っている。

 そろそろタロット・カードのあらすじを決めなければならない頃だ。


 だから今日もタロット・カードを使って物語を模索している。

 ハッピーエンドを想定すると、どうしてもやり直しが増えてしまうし、ハッピーエンドになりそうでもありきたりな物語が増えてしまう。 


 なにか掴めそうではあるのだが、それがなにかわからない。

 この頃こういう時間が増えている。もう少し生産性のある時間を過ごしたいところだ。

 新しいスプレッドを開発しないかぎり同じ問題がついてまわるのだろう。


 するとスマートフォンのLIMEで通知音が鳴った。

〔鷹仁、昨日はお疲れさん〕

 やはり高田も見ていたのか。

 チャットには入ってこないから気づきにくいが、閲覧者が必ずひとりはいるのだから、おそらく高田も常駐しているのだろう。

 その点では伊井田飯さんの後継者になれそうではあるな。まあ小説は書けないんだけど。


〔俺がタロット・カードなんか買ったばかりに散々な言われようだったな。済まない〕

 「無念だ」とのスタンプが押されていた。

〔いや、使いこなせていない僕が悪かったからね。気にすんなよ〕

 「ドンマイ」のスタンプを押して返した。


〔なあ、明日も学校にタロット・カード持ってきてくれないか?〕

〔どうかしたのか? なにか占ってほしいものがあるとか?〕

 返信にややタイムラグがあった。

 しばらくすると返ってくる。


〔ああ、占ってほしいことがあるらしいんだ。お前に〕

〔その言いぶりだと高田が占って欲しいわけじゃないのか?〕

〔ああ、お前のタロット・カードを目にした女子が「占ってほしい」と言いだしていてな〕

 これはもしかして高田が気にしている女子かもしれないな。

 申し出を受けるとして、恋占いだったらやんわりと断るべきか……。


〔わかった。どちらにしろお前にもらってから毎日タロット・カードを持ち歩いているから、持ち忘れはしないと思う。放課後でよければいつでも占うと伝えておいてくれ〕

〔悪いな、鷹仁〕

〔あと、付け忘れないようにしてほしいんだけど、プロじゃないから当たらないかもしれないよ、とだけ添えといてくれよな〕

〔わかった。恩に着るよ〕

 「任せたぞ」のスタンプが押してあった。

「いつものことよ」

 「OK」のスタンプを押し返した。



 翌日の放課後、教室で俺の机を高田の机とくっつけてその上にタロット・クロスを引いて、シャッフルを繰り返す。

 そこへ高田に案内された女子がやってきた。

 B組の板間絵里さんだ。たしか高田が気にしている女性のひとりだったな。

「板間さんこんにちは。それではそちらに座ってください」

「はい、失礼致します」

 礼儀正しい女子だ。これは高田が気にするのも無理ないかもしれないな。


「初めに言っておくけど、僕はプロじゃないし指導を受けたわけでもないからね。しょせん素人の趣味程度だと割り切ってほしいんだけど、できるかな?」

「はい、高田さんから承っております」

 理解が早くて助かるな。この調子ならリーディングもスムーズに進みそうだ。


「高田。しばらく廊下で待っていてくれないか。いちおう占いはプライベートなことを聞くことになるからさ」

「あ、済まない。気づかなかったよ。それじゃあ板間さん、北野に聞かれたことには素直に答えてね。もしセクハラ発言があったら容赦なく叫んでいいから」

「僕はセクハラはしないんだけどな、高田」

 流し目でジロリとにらんだ。

「わかったって鷹仁。それじゃあ廊下で待ってるよ」

 ふう。これでなんとかリーディングに集中できそうだ。


「板間さんが占いたいのは次に挙げるふたつの中にあるよね。ひとつは受験のこと。志望校に合格できるかどうか。もうひとつは恋愛のこと。好きな人と思いが通じているかどうか」

 反応を見るにどうやら後者のようだ。

「僕はまだタロットを始めて日が浅いから、じゅうぶんに占えるかは正直わからない。でも可能なかぎりきちんと占うつもりだから。ここで聞いたことは他言しない。そこは安心してほしい」

 板間さんは不安そうな表情を幾分和らげた。


「それじゃあ僕の聞くことに素直に答えてください」

「はい」

 まだ少し緊張しているようだ。

「それじゃあ君が占ってみたい悩みである恋愛問題についてだけど──」

 体がぴくんと反応している。やはりそうだったか。やはり探りは入れておくものだな。

「どんな人かは答えなくていいから、頭の中でその人のことを思い浮かべてくれるかな」

「はい」


 スプレッドは単純に「ワンカード」でもいいんだけど、女子が占いに求めているのは物語だから、ここはあえて「ケルト十字」にしよう。

 大袈裟なほうがらしく見えそうだからな。


 シャッフルを終えてカードをカットしていく。このくらいカットすればいいだろう、と思えるまでカットした。

「これから板間さんにカードの山を渡すから、それを三つに分けてほしいんだ。そのくらいはできるよね?」

「どう分ければいいんですか?」

 カットを終えたカードの山を上下逆になるように回して彼女の前に置く。

「まずカードのだいたい三分の一くらいを残して持ち上げてください。そう。そして今持っているカードを左に置いてその山の半分くらいを持ち上げて右に置くんです。そう。ありがとうございます」

 きちんとができたな。こちらから見て右から順に山を回収する。


「ではこれから恋愛の行方を占います」



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