第24話 感想戦、ふたたび

 チャットルームでは「ハッピーエンド大賞」に応募した作品の感想戦が行なわれることとなった。次が僕の新作の感想を聞く番だ。


〔では多歌人くんの新作についてだけど、あの作品読んだ人はどのくらいいますか?〕

 投票システムが立ち上がってただちに「はい」か「いいえ」のボタンが表示される。

〔十人いるけど読んだのは七人ですね。では面白いと思った方はどのくらいいますか?〕

 リアルタイムで集計されるが、結果は……。


〔厳しい結果ですね。面白いと思った人はゼロ人です。それでは感想を自由にお書きくださいませ〕

〔あの作品は結局なにが言いたいのかよくわからなかった〕

〔もう少し主人公のキャラクターを立てたほうがわわかりやすいし、オチも効いてきたと思います〕

〔意外性という点では評価できるけど、テンプレートを慣れている読み手からは嫌われたかも〕

〔私、テンプレは読まないのですが、本作は良さが見つかりませんでした〕

 やはり手厳しいな。初めてタロット・カードでリーディングした作品だけど、それにしてはボロカスに言われているような気がする。

〔じゃあ作者の多歌人くん、皆の感想を聞いてどう感じましたか?〕

 ここで嘘を書いても意味がないので、素直にコメントしていく。


〔今作はタロット・カードを使ってあらすじを決めました。最近ちょっと作品の画一化を感じていて、どうにか発想を転換できないかと思ったからです。初めての挑戦だったのでうまく物語が組めなかったと思っています。次はもう少しこなれてくるので、質は確実にあがると思います〕

 ここまで書くと瞬時に回答があった。

〔行き詰まるというのは誰にでもあるけど、だからといってタロット・カードで決めてしまうというのも暴論のような気がするんだけど〕

〔確かに。もう少し他の小説を読んでインプットを増やすべきですね。そうすればアイデアは枯渇しないから〕

〔でも今さら太宰とか川端を読んでもネット小説では響かないですよね。そういう作品は多歌人くんも読んでいると思うし〕


〔応募しているのが小説投稿サイトの『シンカン』からだから、『シンカン』のトップランカーの作品を読めばいい。今ウケる作品はそこでわかるから〕

〔それだと同じ作品ばかりにならないかな? 多歌人くんもおそらくテンプレは避けようと思って行き着いたのがタロットだったんだろうし〕

〔でも偶然だけでウケる作品が書けるのなら、小説がパチンコや宝くじになってしまうよ。小説の書き手である以上、自信を持って物語を作らないと〕

〔そもそもタイトルとキャッチコピーも良くなかったと思います。本人が物語の深いところまで理解していないから、適切に決められなかったのではないでしょうか〕

 さすがに皆も手厳しいな。しかし言いたいこともわかる。

 小説を書く作業の大半は自分の頭で物語を考えることであり、タロット・カードに頼るのはその部分の省力化としてはありだろうけど、それで大賞が狙えるかといえば絶対に無理だろう。


〔いちおうタロット・カードをくれた友人のためにも次の「新感選」も一作だけタロット・カードで決めようと思っています。残り一本は自分の頭で考えてあらすじを決めますので、皆様よろしくお願い致します〕

〔そこまで信頼できる友人がいるのはいいことだと思うよ。でも多歌人くんは今年受験なんだから、「新感選」も控えるか一本に絞るかしたほうが絶対にいいよ。これで大賞を逃して入試にも落ちたらシャレにならないでしょう?〕

〔まあまあ、皆様の言いたいことはわかりますが、彼こう見えて模試で志望校A判定を取っているんです。だから学業と執筆は両立できると思います。彼としては大学に受かるよりも「新感選」を獲ることに優先順位を置いているくらいですから〕

 伊井田飯さんがフォローに入ってくれたが、それで流れが変わるわけでもなかった。


〔「新感選」は俺も狙っているから無理なんじゃね? 俺、誰にも負けないし〕

〔次に獲るのは私です! 絶対大賞は譲りませんよ!〕

 場が荒れ始めているので、とりあえず謝っておこう。

〔皆様申し訳ございませんでした。執筆を舐めていたわけではないんです。ただ行き詰まりをどうにかしたくって。ですが必ず一本、自分の頭で考えた作品を書きますので、そちらで勝負してくださったら嬉しいのですが〕


〔それは当たり前の話だよ。お遊びの延長で出来た作品に負けたら、俺の作家人生で最悪の汚点だ〕

〔一作遊ぶのは自由だけど、人生懸けて本気で応募している人がいるのを忘れないでくれ。必ず一作は皆と同じように、しっかりと練りに練ったもので勝負してくれ〕

〔はい、必ず自分でか考えた作品でも勝負致します。皆様の胸をお借りして、当たって砕ける覚悟です〕

〔まあ多歌人くんも砕ける必要はないから、全力で精いっぱいの作品で勝負してくださいね。では次の方の感想戦に移ります〕


 やはりボロカスに言われてしまったな。

 まあ確かにタロット・カードなんて遊びの道具としか捉えていない人も多いからな。

 タロット占いも当てずっぽうに見られるだろうし。

 僕自身、始めるまでは「ただの遊び」としか見ていなかったから、皆の言うことは理解できる。それでもリーディングで得られる物語はもう少し試したい気持ちが大きい。

 「短編祭」でリーディング物語の可能性を探ってみたが、評価は芳しくなかった。やはりタロットは長編向きなのかもしれないな。



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