第23話 君だけの青春
タロット・リーディングであらすじを作り、それを短編小説にまとめていく。
こうして少しずつではあるが、リーディングからあらすじを完成させる手順を最適化していくことにした。
まずは『シンカン』で現在開催中の「短編祭」に参加して、いろいろ試してみる。
あらゆるお題に対して、まずは自分が思いついた物語を書き上げて投稿し、次にタロット・カードから物語を作ってそれを投稿していく。
二日に一つのお題が出されるため、ほぼ自転車操業になるのだが、スプレッドの最適化とリーディングの深さを追求できるため、この方法を採用したのだ。
しかし人気を集めるのはいつも自分で思いついた物語のほうだった。
まだまだタロットを活かしきれていないなと判断し、まさに試行錯誤の日々である。
〔多歌人くん、「短編祭」に参加しているよね?〕
〔はい、そうですけど〕
〔ひとつのお題に二篇応募しているみたいだけど、なにか意味があるのかな?〕
伊井田飯さんはお見通しのようだった。
ここで嘘をついても仕方がない。
〔はい、最初に自分が思いついた物語を投稿し、次にタロットで作った物語を書いています〕
〔やっぱりか。先に上げているほうは物語の奥が深いと思うんだ。だけど、後に上げているほうが意外性があるんだよね。そして自分で考えているほうはどんどん面白くなってきている。これもタロット効果かもしれないよ〕
〔そうか。タロットで物語を作ることばかり考えていて気づきませんでした。そんな波及効果があったなんて〕
〔タロット効果かどうかわからないけど、書けば書くほど伸びているから、こと短編に関しては自分の頭で考えたほうがよさそうだね〕
やはりそうか。
評価やフォローも頭で考えた作品のほうが上なんだから、これは厳然たる事実だ。
でもそもそも畑違いと思っていた「短編祭」に参加したわけもあるからなあ。
〔タロット・リーディングに慣れるために始めたことなので、初志貫徹するつもりです。なんとかタロットへの意識を改善して、自然な物語になるまでは短編を書き続けようかと〕
〔それもいいかもね。でも本当に受験勉強しなくてだいじょうぶかい?〕
〔学校の授業はしっかり聞いていますし、教科書も読み込んでいるのでだいじょうぶです。僕自身は小説を書く集中力を養うつもりで勉強しているつもりですから〕
〔言うことが大胆だよね、多歌人くんって。私が高校生の頃は毎日参考書と問題集に喘いでいたくらいなのに〕
〔まあ勉強ができても、小説賞が獲れないんですから意味ないですよ〕
〔本末転倒だよなあ。でも君だけの青春なんだから、思う存分やってみるべきだと思うよ。もう少し見境はつけてほしいところだけど。君の優先順位だと一番が小説賞なのかな?〕
これは少し頭を悩ませる問題ではあるな。
いい大学に受かるのを是とするか、それよりも小説賞を獲るのを是とするか。
これまで漠然としか考えていなかった問題だが、すでに二学期が始まっている以上、避けて通れない問題だ。
〔いちおう二学期初日に行なわれた模試でも東都の文一でA判定が出ています。だから今は小説賞を狙いたいところですね。大学に入ったらなかなか小説を書く時間がとれないかもしれませんから〕
〔東都の文一だとやること多そうだよね。資格もいろいろとりたいところだろうし〕
〔生涯小説を書いていたいんですけど、大学生や就職して数年くらいまでは書けなくなるかもしれません。それなら高校在学のうちに小説賞が獲れれば最高なんですけどね〕
〔君だけの人生なんだから、悔いを残さないようどちらも全力でぶつかりなさいね〕
〔ありがとうございます。とりあえず模試はこれからも続きます。本当にどうしようもなくなったら入試に専念しますが、そうならないように精進します。このくらいの両立ができないと、伊井田飯さんのように仕事と執筆の両立は難しいですからね〕
〔そこまで覚悟を決めているなら、私の言うことはもうないね。私も次の「新感選」で書籍化を目指しているから、直接決戦になるのを期待しているよ。そのためにもタロットが身につくよう頑張ってね〕
〔はい、ありがとうございます〕
〔そうだ。タロット占いができるのなら、自分のことも占ってみたらどうだい? 第一志望に受かるかどうか。小説賞を獲れるかどうか〕
〔まあ自分のことを占うのは難しいと思います。どうしてもバイアスがかかってしまいますから。相手のことを聞きながらなにも考えずにシャッフルするから当たるような気がするんですよね〕
〔そういう意味だと数字で判断する数秘術や、生年月日で判断する四柱推命なんかのほうが自分を占うのには向いているのかな?〕
〔そうですね。タロット占いは感性を刺激して物語を創るツールなので、機械的に決まるような占いとは異なると思います。だから創作に役立たないか、あれこれ試しているんですけど〕
〔まあけしかけた本人が言うのもなんだけど、あまりタロットに縛られないほうがいいんじゃないかな。あくまでも意識を拡張する道具のひとつという位置づけにして、どうしても展開が思い浮かばないときにかぎり使用するように限定するとかさ〕
〔そうですね。短編の質が上がっているのはこれまでの投稿を見ればわかるので、タロットに固執せず、自由に書くのもいいですね。とりあえず次の「新感選」に一作はタロットで作った物語を応募したいんですけどね〕
プレゼントしてくれた高田のためにも、必ず一作はタロットと決めておかないと。
そろそろ書き始めないと間に合わないだろうな。
まだ中途ではあるけど、今のうちからタロットでの物語づくりをスタートさせようか。
時間に余裕があるうちに完成させないと、自分の頭だけで作るものが間に合わない可能性もある。
じきに頃合いを迎えることになるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます