第四章 躊躇

第13話 初めてのリーディング

 自宅で入試へ向けた勉強を始めるとともに、空き時間でタロット・カードを憶えようとしていた。

 専門書籍を読むと、一枚のカードにはかなりの情報が詰め込まれているらしい。そしてカードを丸暗記するよりも、絵柄がなにを表しているのかを憶えたほうがよいと書かれていた。


 確かに背景が黄色いカードと背景が白いカードでは意味しているものが異なるようだし、数は少ないが背景が黒いカードはなにやら不吉なものを感じてしまう。


 夜空はすべて黒かというとそういうわけではなく、「星」や「月」も「太陽」と同じく青い背景である。

 夜は青い背景が一般的で、黒い背景は絶望にも似た心理的な闇を意味しているようだった。


 実際にカードを見ながら、どのシンボルがどのような意味を持っているのかを確認していく。

 一枚一枚に込められたシンボルを解き明かしていくだけでも、タロット・カードは本当に奥が深い。

 これを憶えれば占いもできるようになるし、物語を紡ぐこともできるようになるだろう。


 占いは専用のスプレッドつまり配置が決まっていて、それも憶えておけばすぐできるようになりそうだ。

 だが、物語を紡ぐ方法がいまひとつつかめない。おそらくいずれかのスプレッドを使うのだろうが、どれがそれなのかがいまいちつかめない。

 いちばん近しいと思われるのが「ケルト十字」だ。占う人と相談内容、そして過去と未来を結んで解決法を探していくスプレッドである。

 しかしこれではコントロールできるだけの物語は紡げそうにない。


 ただ、これだけ多様なスプレッドがあるということは、オリジナルのスプレッドも作れるということでもあり、占いでタロット・カードに慣れたらオリジナルのスプレッドを開発するのもよいだろう。


 カードに慣れるためにも、占いで積極的に使っていくのがよさそうだ。


 高田が追加してくれたタロット・クロスはひじょうに役に立っている。

 裏地が滑り止めになっているし、クロスの上でカードを混ぜ合わせるのも容易になる。

 なによりカードが汚れないというのが最大の魅力である。

 せっかく手に入れたカードをすぐ汚してしまっては高田に申し訳が立たない。


 シャッフルし、カットを繰り返してカードを順に並べていく。毎回同じカードを引かないように注意したいところだが、こればかりは運任せである。

 最初に占うならやはり高田だろう。

 明日が一学期末であり、そのときにでも占ってみるとするか。


 あとはどれだけスプレッドから物語を読み解いていけるのか。その精度を高めなければならない。

 こればかりは実践の中でしか培われない能力かもしれなかった。


 だからこそ、たくさん占う機会が欲しいところだ。

 とりあえず毎朝その日の運勢を占うことにし、寝る前に見る夢をリーディングしていくことにした。

 これでタロット・カードに慣れていけばいいだろう。



 翌日の終業式で、タロット・カードをカバンに入れて登校した。

 そして高田に終業式後に教室に残ってくれるよう頼んでおいた。

 なにをするかは告げていないのだが、だいたいの見当がついているのが高田の凄さだ。

 テストもヤマを張る能力には長けているのだが、だからこそ基礎を疎かにしやすい面があった。


 体育館での終業式を終え、生徒は各教室にて通知表を受け取った。

 そして夏休みの注意事項が言い渡され、次々と帰っていく。


 高田とふたりで教室に残り、さっそく高田を占ってみることにした。

「高田は将来なにになりたいんだっけ?」

「そうだなあ、面白おかしく暮らせればそれでいい気もするんだよな」

「それじゃあ占いにならないだろ」


「じゃあとりあえず大学に受かるかどうかってのはどうだ?」

「高田の場合は志望校次第じゃないのかな。高望みしなければ受かる大学はかなりあると思うよ」

「それじゃあタロットを使わずカウンセリングしているだけだろ、鷹仁」

 それもそうだ。

 じゃあとりあえず第一志望と第二志望、どちらが受かるか落ちるのか。

 それだけでもリーディングしてみるか。


「それじゃあ第一志望と第二志望の大学と学部を思い浮かべてくれないか。まずは第一志望から」

 そう言うと「択一」のスプレッドでまず第一志望のカードを配置していく。

「次は第二志望の大学と学部の番ね」

 隣に第二志望のカードを配置する。そしてそれぞれの理由となるカードを配置してスプレッドは完成。


「じゃあ第一志望から見るか?」

「ああ、私立の理学部な」

 カードをめくると「星」が出た。なるほど。理由のカードは「ワンドの四」か。

「第二志望も見たほうがいいか?」

「おいおい、第一志望が受からなかったら第二志望に受かるかどうかくらいは教えろよ」

 それもそうか。じゃあ第二志望もめくってみよう。

「第二志望は私立の文系な」

 出たカードは「ソードのペイジ」で、理由のカードは「カップの八」だ。


「じゃあ第二志望から言うぞ」

「ああ、ここまできたらばっさり切ってくれ」

「そのつもりだ。まず私立の文系はソードのペイジで挫折すると出ている。理由はあきらめてしまうからだ」

「うわー。これで第一志望がダメだったら留年するかもしれないじゃないか」


「で、第一志望の私立の理学部だけど……。こちらは星で願いが叶う、理由は努力が報われるから」

「ってことは……第一志望合格するのか、俺!」

 よっしゃー、と浮かれているようなのでいちおう注意しておこう。


「まだ早いよ。まだリーディングの途中だから」

「はい、すみません」

 高田はおとなしく席に戻った。

「あくまでも“努力が報われる”だからな。これから理学部に向けてどれだけ真剣に勉強するかにかかっているんだ。気を緩めずに全力で勉強して、第一志望にぶつかっていくように。そうすれば結果がついてくるから」

「つまりこれからも勉強に気を抜くなってことか」

「そういうことだね。どうせ受かるんだからと努力を放棄すると合格は叶わないからな」



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