第12話 百点満点

 期末試験の答案が返ってきた。

 高田に宣言したように、全科目で百点を獲ったのだ。


「鷹仁、やっとお前の本気が見られたな」

「高田も全科目八十点以上獲っているだろ?」

「まあな、俺も過去最高更新だよ。お前の頑張りに触発されたところが大きいな」


 高田に教えながらも自ら参考書を開いて独自に勉強を積み重ねていた。

 おかげで試験のレベルが低く感じてしまうほどだった。

 たとえれば、小学生に一桁の足し算をさせるくらいの実力差があった。


「お前くらい要領がよければ、きっと大賞が獲れるな」

 そこでだ、と言って高田はカバンを開いて、中からなにかを取り出した。


「これがお前の欲しかったタロット・カードと専門書籍、あとタロット・クロスも買っておいた。お前へのプレゼントだ」

「おい、クロスまでは頼んでいないだろ」

「いいんだよ。ネット通販で調べたら、タロット・カード使うならタロット・クロスもあったほうがいいらしいからな。俺の得点も上げてくれたお礼だ。遠慮なく受け取ってくれ」

 高田の好意に甘えて、僕はタロット一式を譲ってもらった。


 これを使っていよいよ「斬新な物語」への挑戦が始まるのだ。

 だが、最初からは難しいらしい。

 伊井田飯さんの話だと、手軽な占いくらいはできるようにならないと、物語は浮かんでこないのだそうだ。

 そこが難しくて伊井田飯さんはタロットでの物語作りをあきらめたらしい。



 家に帰るとさっそく専門書籍を開いて、タロット・カードの意味などを調べていく。

 この作業は実際にカードを見ながら行なうものらしい。

 絵に描かれたシンボルやポーズ、表情などからカードの意味を汲み取っていくのだ。

 夕食を食べ終わるとパソコンを立ち上げて『シンカン』のチャットルームに入った。


〔伊井田飯さん、こんばんは〕

〔多歌人くんこんばんは〕

〔実はクラスメートからタロット・カードと専門書籍、あとタロット・クロスを買ってもらいまして〕

〔凄いじゃないか。いい友達を持っているなあ〕

〔さすがに全教科百点はたいへんでしたが〕

〔全科目百点?〕

 あっ、経緯は伝えておかないといけないな。

 ここでの会話をチェックしていた高田が百点獲ったら買ってやると言っていたことなんかも。


〔へえ、多歌人くんかなり優秀なんだね。私なんて大学入るのも苦労したっていうのに。このぶんなら志望校現役合格も目指せるんじゃないか?〕

〔はい、だいぶ自信がつきました。いちおう学習塾の夏期講習だけでも受けようとは思っていますけど〕

 それがいい、と返されて少ししてから返答があった。


〔君の友達、実は結果はどうであれ、君にタロット一式を買ってくれたんじゃないかな〕

 どういうことだろうか。


〔だって答案が返ってくる日に一式持ってきてくれたんだろう? それって百点獲れなくても最初から君にプレゼントしようとしていた可能性が高いってこと〕

 なるほど。確かに当日に持ってきていたのは、最初から渡すつもりで注文していなければ不可能だ。


〔で、タロット・カードに触った感想は?〕

 机の上に出しておいたタロット・カードに触れながら答えた。


〔そうですね。トランプよりも大きくて最初戸惑いました。でも、絵にさまざまなシンボルが描かれているので、ある程度大きくないと習得も難しいと思います〕

〔まあ私は挫折してしまったんだけど、ある程度基本的なスプレッドを憶えて、占いをしながら憶えていけばいいんじゃないかな。高校なら占ってほしい女子もたくさんいるだろうから憶えるのも早いはずだ〕

〔勉強の合間にタロット・カードの意味を憶えて、実際に試してみたいと思います。物語を作り始めるのはその後からになりそうですね〕

〔まあ全科目百点なら、憶えるのも早いだろうね。次の「新感選」で出てくる新作が楽しみだよ〕


〔でもまさか本職の占い師さんが『シンカン』で小説を投稿しているなんて知りませんでした〕

〔だよな。私もいろんな人に話を聞いてみて、今回初めて知ったくらいだよ。でも確かに神秘的な作品を書く人だから、話を聞いて納得もしたけどね〕

〔ちなみにどなたなんですか?〕

〔それは守秘義務があるから言えないよ。君もプロになったら守秘義務だけは守るようにね。小説界隈では、語ってはいけないことをペラペラしゃべってクビになった人もいるくらいだから。君は好奇心が強いほうだからこそ、そのあたりはしっかりしなきゃね〕


 そうか。なんにでも興味を持つのが正しいわけでもないんだな。

 守秘義務って社会を生き抜くためには必須の事項なのか。

 なんでもペラペラしゃべってしまう僕の性格を知っている伊井田飯さんだからこその指摘だろう。


〔そう言われると、なかなか話す言葉を選んでしまいますね〕

〔まあ守秘義務の話を聞かされると、初めは皆そうなるから〕

 と笑われてしまった。


〔守秘義務は、これだけは絶対に話しちゃダメと先方と取り決めたものだけを守ればいいから。それ以外はいつもの君でいい。好奇心を持っていろいろと探っていく君の性質は小説書きには必須の取材力がある、ともとれるからね〕

 好奇心旺盛なのは取材力がある証拠、というわけか。


 確かにタロット・カードで物語を作ると言われて「タロット・カードってなに」から始めてどんどん興味が湧いてきたからなあ。

 これが取材力として活きてくるときがやってくるのか。早くプロになりたくて仕方がない。

 やはり書籍化作家の言うことは深みがあるな。



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