第7話 TRPGリプレイ

 「新感選九」の二次選考通過作が発表される日になった。

 このスピード感は他の小説賞では絶対にありえない。

 一次選考を通過した作品がどのような過程で二次選考まで絞っているのかわからないが、このスピード感こそ、より多くの応募者を集める秘訣なのだろう。


〔ああ、それね。聞いた話だと、下読みさんが一次選考通過レベルと判断したらすぐに事務局に通知されて、全編集部が欲しいジャンルを手分けして片っ端から選考しているんだそうだ〕

〔伊井田飯さん詳しいですね。それで一次選考から二次選考までがこんなに早いんですか〕

〔そういうこと。ちなみに同じペースで最終選考通過作が発表されるのも同様のシステムだからだよ〕


 なるほど。上に投げるスピードが早いから、自然、選考にかかる時間が短縮されるわけか。

 最初から一次選考通過が何作品と決まっていたら、それに合わせた調整に時間がかかるけど、よいと思えばすぐに上に渡すシステムなら選考は早くなるよな。


〔これだけ選考が早い小説賞って他にないですよね〕

〔それだけ『シンカン』も必死ってことだな。より多くの作品を集めて書籍化を狙える作品を総取りしたいってところだろうね〕


 それだけに今回下読みをしたプロの作家が、読まずに異世界転生ものをすべて落選させたなんて看板に傷をつけられたも同然だよな。


〔そう、それ。最終選考通過作が決まったら、今回も審査員長の総評があるんだけど、そこでどうやら異世界転生全落としをした作家がわかるらしい〕

〔特定はされているわけだから、弁明の機会でも与えるんでしょうか?〕

〔その可能性がないでもないが、通過作の総評だけで終わるかもしれないな〕


 そういうものなのかもしれないな。

 まさか当人が出てきて開き直られたら『シンカン』の立場もなくなってしまいかねないし。


〔それより二次選考だけど、私の二作とわさび餅さんの一作くらいだね、今回残ったのは〕

〔畑中さん落ちちゃったんですか? あれ、面白いと思ったんだけどなあ〕


〔それは私も同感だね。ああいうスタンダードな異世界ファンタジーは一作くらい残してもよかったと思う。今回は主人公最強も一作だけしか残らなかったし〕

〔異世界ファンタジー全般が低調だったのでしょうか?〕


 ここでチャットルームの入室チャイムが鳴った。

 誰かと思ったら。

〔伊井田飯さん、多歌人くんこんにちは〕

〔畑中くんお疲れさま。二次選考残念だったね〕

〔畑中さんの作品、残ると思っていたんですけど〕

 畑中さんがやってきた。


〔俺も二次選考通過できるんじゃないかと期待していたんですけどね。これで何年最終選考に進めていないんだろう〕

〔ドンマイですよ。僕なんて三年間、一次選考すら通過していませんから〕

〔それ、慰めになってないよ、多歌人くん〕

 畑中さんがいてくれると、話が面白くなるんだよな。この話術は見習いたい。


〔でもあの作品はよかったと思うから、スタンダードな異世界ファンタジーの小説賞に出し直したらどうだい?〕

〔そうですね。当落がすぐわかるのが「新感選」のいいところなんで、手近な小説賞を漁ってみます。あ、そうそう、多歌人くん〕


 突然話を振られたけどなにかあったかな?

〔伊井田飯さんから聞かれたんだけど、思いもつかない物語の作り方を探しているんだって?〕

〔はい。僕は異世界転生ものばかり書いているので、もう少し斬新な異世界転生ものが書けないかと思いまして〕

〔そうそれ。ちょっと考え方が面白いなと〕

〔面白いですか?〕


 どういうことだろうか。

 誰にも書けない異世界転生を書きたいだけなんだけどな。


〔普通、異世界転生ばかり書いて、行き詰まったら別のジャンルを書くものだからね〕

〔あ、それならゲーム小説大賞にVRMMOものを書いたんですけど、やっぱりダメでした〕

〔だから異世界転生に専念したいわけか〕


 画面の向こうで畑中さんが考え込んでいるようだ。


〔悪いことは言わないから、他のジャンルも書いてみるべきだな〕

〔どうしてですか?〕

〔異世界転生ばかり書いていると、どこが悪くて落とされたのかわからなくなるんだ。毎回同じような物語を書いているから、差がつかないんだよ〕

 そういうことか。

〔つまり毎回なにかを変えていれば、なにが悪かったのかわかりやすい。だけど毎回同じものを書いているから、なにが悪かったのかさっぱりわからないってことですね〕

〔ビンゴ〕


 でもそうなるとやはり「斬新なアイデアの異世界転生もの」を考えなければならない必然性が高まってしまうだけだ。


〔多歌人くんTRPGって知ってる?〕

〔あ、はい。テーブルで話して役割を演じるゲーム、ですよね?〕

〔そう、それ。それをやってリプレイを書くっていうのはどうかな?〕

 リプレイ小説はそれなりに人気のあるジャンルではあるな。


〔でもそれって小説賞には出せないですよね?〕

〔いや、題材にしたゲームを明記する必要はないんだ。魔法だって自分が考えたものでいい。ただ、多歌人くんが思いつかない物語に触れれば、発想も柔軟になるだろうからね〕


 確かに一理ある。

 ゲームの世界観をそのまま使うのではなく、ゲームの内容だけを使えばいいのか。


〔なにかオススメのゲームってありますか?〕



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