第4話 通過した仲間たち

 お昼休みの時間に高田と机を並べて弁当を食べている。


「そういえば、お前のお友達。ほとんどが一次選考を通過しているって知っているか」


 えっ、そうなのか?

 自分が落ちたのだけ確認して他人のチェックをしていなかった。


 急いで懐からスマートフォンを取り出して小説投稿サイト『シンカン』の「新感選九」特設ページを開く。

 そしてページをスクロールさせながら一次選考通過作品をチェックしていく。


 あ、ゆかりママさんも飛びサカナくんも通過しているのか。他には……強ポンズさんも。弁当をつつきながら確認できただけでも、ざっくりと10名は通過していた。

 確かに高田の言うとおりフォロワーのほとんどが一次選考を通過している。


「どうよ」

「確かに。なぜ僕の作品は通過しなかったんだろう」

 卵焼きを食べたあと、ふたりして頭をひねってみた。


「お前の得意ジャンルって異世界転生じゃん。それで割りを食っているっていうことはないか」

「どうだろう。わさび餅さんも異世界転生ものが得意で、今回も異世界転生なのに通っているからなあ」

 異世界転生ものでも通過している人はいるのだが、なぜか異世界転生ものの実力者で落ちている人が何名かいるのが気になる。


「文章力の問題ではないだろうな。お前の文章はとても読みやすいからな」

「異世界転生ものでジャンルトップのハワード三世さんも落選しているんだよなあ。やっぱりなにかがおかしいんだと思う」

 牛乳を飲みつつ答えた。

「たとえばどんなことだ?」


 発表当日にチャットで話していた噂話が気になった。

 純文学の作家が選考に参加していたというものだ。


「まあ、確かに純文学のお偉方には異世界転生もののよさはわからないだろうな」

「だろ?」

「だが、よい小説ってやつは、どんなに批判的な読み手も唸らせると思うんだ。お前の作品は批判的なお偉方を唸らせられなかったってことじゃないのか」


 高田の言うことにも一理ある。

 面白い小説は誰が読んでも楽しめるもののはずだ。僕の作品はまだそのレベルに到達していないのかもしれない。

 それでもなにかやりきれない思いが強かった。


「で、次はどんな作品で挑むつもりだ」

「今のところはSF転生ものかなと考えているところ」

「SF転生ねえ。確かにあまり見ない組み合わせではあるけど、それ異世界転生となにが違うんだ」

 やはりSF転生では弱いのかな。ウインナーをかじりながら話を聞いた。


「まあ異世界転生の一角が軒並み倒されているのなら、SF転生で試してみても悪くないんじゃないか。とにかく今の異世界転生はヤバいと思う。近づくべきじゃないのかも」

 やはりただの異世界転生は危なそうだよな。

 また同じ選考さんに当たったら、一瞥もくれず斬り捨てられる可能性が高い。

 ごちそうさまでした、と両手を合わせた。弁当を風呂敷に包んでいく。


「それより、別の小説賞が選考期間に入った頃じゃなかったっけ? あれの手応えはどうなんだ」


 「シンカン・ゲーム小説大賞」のことだろう。


「VRMMOものの一作だけで勝負してみているんだけど、こちらはあまり期待していないんだよな」

「なんで?」

「ゲーム小説って先駆者がとても強いんだよ。それに僕はゲームをしないからレベルとかスキルとかステータスとか経験値とか言われてもまったくピンとこなくてね」


 最近の異世界転生ものでも同じ言葉が当たり前のように使われるようになった。だから多少はそれらの用語を混ぜてはいるものの、それで当たると思うほどお気楽でもなかった。


「前の発表が終わったら次作を考える鷹仁としては、次のSF転生で大賞を獲る手応えはあるのか」

「正直思えないんだよなあ。結局シチュエーションが違うだけで同じ話になるのが目に見えているし」

「物語にも多様性が必要ってことか」


 どんな異世界転生を書いてきても、結局は万難を排してハッピーエンドというのがテンプレートではある。

 それを外して成功した作品は殊のほか少ない。


 異世界転生に関しては、煎じ詰めれば「いかにテンプレートを外さないか」だけが求められる。

 そのうえで文章力があれば読める作品に仕上がるわけだ。

 この作り方自体は間違っていないと思うのだが、テンプレートを外した作品もひとつは試してみたい気がしないでもない。


「高田の言うとおり、とりあえず一作は異世界転生ものにして、もう一作で多様性ってやつを試してみるつもり」


 机を前に戻してカバンからネタ帳を取り出してボールペンで記録していく。

 とりあえず、今の考えもひとつの武器になるかもしれない。

 まずは書き留めておいて、後日使えそうかを選別すればよい。


 しかし「新感選九」での不可解な選考にはなにか裏がありそうな気がしないでもない。

 純文学がライトノベルにとどめを刺しに来たような、薄ら寒いものを感じてしまうのだ。


 小説の世界で、すでに純文学は瀕死の危機だ。

 今はライトノベルの人気シリーズのほうが売上が高く、どこの出版社もライトノベルを取り扱っているくらいだ。

 それに嫉妬した純文学の最後の悪あがきに見えなくもなかった。



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