サクラ・ザ・ギャラクティック

@alalalall

ファー・フロム・チェリーブロッサム

これはおまえには想像すら出来ぬ遠い未来における遠い宇宙の話……


人類は宇宙へと旅立ってから幾万、いや幾億年。


人々は未知に飢え、新たな新天地を求めて無限の宇宙に際限なく広がり続けていた。


しかし、星々は過酷な環境でヒトを拒む。数多の有毒ガス、灼熱の大地、極寒の氷河、果てしない荒野……


そこで登場した技術が惑星の環境を作り替える『テラフォーミング』である。有毒ガスを日の出のような空気に、灼熱の大地を心地よい温暖スポットに、極寒の氷河を雄大な河川に、そして……果てしない荒地を桜の花びらが舞う幻想的な聖域へ。


そんなテラフォーミング事業を営む会社のひとつである『サクラダ・モンガイ』のナオスケとハチベエを巻き込んだ大事件が今、始まる……



☆★☆★



『旦那ぁ!大変です!大変です!』


2頭身の首なしファンシー・アニメキャラのようなピンクの宇宙服に身を包んだ小柄な男……ハチベエが惑星ソララスの地面をフワフワと跳ねながら無線で怒鳴りエアロックを叩く。


エアロックはガタつきながら開き、オンボロ簡易基地のがハチベエを迎え入れる。エアロックは己に暴力を振るった来訪者に機嫌を悪くしたようにガタガタと閉じ、渋々空気を注入する。


宇宙船の中は白を基調としたごくごく一般的なインテリア(皆さんにとっては未来的なものだろう)をしていたが、ひとりの異質な男がした。


彼は小袖・袴・羽織といった古代的装いを着て、しかも大小2つの刀を差し、そしてトドメに立派な丁髷を結っている。つまり、古代文明における戦士階級『武士』の格好をしていた。


「ハチベエや、そんなに慌ててどうしたんだい?」

「はぁ……はぁ……ナオスケの旦那、倉庫船が、ぜぇ……」

「ほぉ、ワシら宇宙開拓植樹会社『サクラダ・モンガイ』の心臓部となる桜の苗木が蓄えられている倉庫船に何かあったのかい?」


「だ、大炎上しました!」


「……なにぃッ⁉︎馬鹿なことを言うなハチベエよ!」


ナオスケ(とそれに駆け寄るハチベエ)が惑星ソララス前線簡易基地の窓に張り付いて頭上を眺めると、全長5kmの正六面体型宇宙船——一世一代の買い物(60年ローン)であった5kt倉庫船——が、ごうごうと燃えていた。


それは彗星のように炎を尾にしてナオスケの視界の右から左へ圧倒的な迫力を伴って流れ……しばらくして地面に激突し、ド派手に爆散して大地をぐわんと揺らした。


内部に保管されていた桜の苗木も当然燃えカスとなり、花吹雪ならぬ灰吹雪として周囲を彩っている。雪のようにはらはらと灰が降ってきた。


「旦那ぁ、まるでスノードームの中に居るみたいですねぇ……綺麗だぁ……」


ハチベエはうっとりと灰吹雪を眺める。確かに、満開の桜並木から花びらが舞い散る様子が思い浮かぶような圧巻の光景であった。


「バッキャロウ!こんなときまでうっとりしてんじゃあねぇやい!このハチベエが!」


ナオスケは怒気を露わにしてハチベエの頭をがくんがくん揺らす。ハチベエはぎゃあっという間抜けな声をあげ、ハッと現実に戻った。ただし現実はとても過酷だ。


「で、でも旦那ぁ!どうするんですかい!お客様は天下の宇宙統一戦線維持軍さま!出来ませんでしたじゃあ済ましてくれませんよ!」


ハチベエはと泣く。


それもそのはず、『宇宙統一戦線維持軍』はゴリゴリの過激進出派の軍事組織だ。黒いウワサは星の数ほど聞こえてくる。失敗すれば二度とお星さまを見ることは叶わないだろう。


「明日までにウン万本も苗木を用意するなんて無理ですよォ~!」


そして、近すぎる期限と膨大な必要数。


近場の惑星に急行しても桜なんて生えてません!とハチベエはいっそう泣き叫ぶ。惑星ソララスが存在する宙域は不毛の惑星ばかりで、桜どころか樹木なんて百本も生えていない。自然の欠片も無い。


だからこそ、ナオスケたちが植えに来たワケなのだが……


「ムゥ……」


ナオスケは思案する。この基地にあるのは確認で植えるための100本にも満たぬ試験用苗木……。到底足りない。

周囲の惑星はハチベエの言う通り不毛の地。隅から隅まで探しても100本もあればいい方だろう。


「もうダメだあ……逃げましょうよ旦那〜っ!」


ハチベエが基地の近くに停泊させた宇宙船を指差す。


……その時、ナオスケの脳に雷が走る!


「そうだ!」

「わぁっ」


ナオスケがガタッと立ち上がりハチベエが驚いて椅子から転げ落ちる。


「イチチ……まさか、旦那、妙案を思いついたんで?」

「察しが良いなハチベエよ」


顔に希望が戻るハチベエとクククと笑うナオスケ。ナオスケは指を鳴らして宇宙船の電子手引き書を取り出し、とあるページをバンと叩く。


「あの船には、光年ワープ装置が付いている!これで桜の原生地である『アース』まで急行して苗木を採取し、帰還時もワープ!これで明日までに揃うって寸法よ!」

「ね、燃料は……?」

「この星の大地は微生物の死骸からなる有機物でできておる!好きなだけ取れば良い!」

「さ、採取方法は……?」

「幾百台のマイクロ・タンクも実装されておる!3時間も掛からぬであろう!次元圧縮収納タンクもあるでな!」

「か、完璧だ……!」


備えあれば憂いなし、石橋は叩いて渡れ、ゾンビーの頭は2度撃とう。そんな商売文句に乗せられてまんまと買ってしまった、必要以上に高機能で高価格だった宇宙船がこんな事に役立つとは!


ナオスケとハチベエは姑息極まる悪質宇宙販売員に初めて感謝した。


「ウム!では急ぐぞハチベエ!」


2人はダダダッと駆け出し、準備に奔走する。


光年ワープ装置をアースにセット。地面をシャベルで掘り出し詰めれるだけ燃料ユニットに詰める。格納庫の数百台ものマイクロ・タンクを起動準備。次元圧縮収納タンクの中身を掃除する。


瞬く間に準備は完了し2人は操縦席に座る。光年ワープ装置は秒読みで、あと数十秒で起動し異次元に突入する。ワハハアハハといった談笑する余裕が2人には生まれていた。


「そうだ、ハチベエや」

「なんですかい旦那?」

「お主はどうやって倉庫船を大炎上させたのだ?」

「何もしてませんよ?気づいてたら燃えてたんです」

「またまたぁ……ひとりでに勝手に燃えるような船ではあるまいて。で、本当はどうしたんだ?燃料ユニットにマッチでもいれたのかい?」

「やだなぁ旦那。おらぁはしやすがはしませんよぉ〜!それに、その時おれも旦那も地表にいましたよね?」


ん?とナオスケは首を傾げる。


「それじゃあよ、なんで倉庫船は炎上したんだ?」

「旦那でも、おれでもなけりゃあ……」

「なければ?」


ハチベエは自信満々に人差し指をピンと立てて断言する。


が燃やしたって……ことですよ!」

「じゃあなんだ、ハチベエや。空中に待機するロック済みの倉庫船に拙者達に気付かれず侵入して?毎日更新される64ケタの全言語パスワードを突破して?ベデルギヴス宙域の路線図よりも複雑なUIをかい潜って?最終生体認証も破って、自沈ボタンを押したってのかい?」

「そういうことになりますね」

「そうならよう、そんな芸当をこなせるヤツと言えばさ……」


ナオスケはみるみる内に顔が真っ青に染まっていく。同じく何かを察したハチベエもみるみる内に宇宙服が真っ青に染まっていく。


「「まさか……」」


バツン‼︎


操縦室の明かりが消える。しかし即座に回路が回復してバチチと再び点灯する。


ナオスケとハチベエが足元の影を数えると、


ひい、ふう、


同時に、後ろを、振り返ると、そこには、









「「」」


恐怖の叫びと同じくしてワープ装置が起動し、宇宙船はドゥォンと唸りをあげて異次元に突入した。2人と1忍の地球行き異次元航路が始まった。



☆★☆★



グワォンと機体が唸り、甘ったるい音声が異次元に突入した事を知らせる。


古代恐怖的存在、忍者に遭遇、いや強襲されたナオスケとハチベエはワァワァ叫びながら脱兎の如く走り去り、操縦室から最も遠い格納庫に逃げ込んでいた。幸い、忍者は意外にも異次元慣れしていなかったためか意識を失っていた。


「忍者が再起動するのも時間の問題だ……」

「旦那ぁ、忍者、忍者がおれらをぉ……」


ナオスケは深刻な顔で俯き、ハチベエはメソメソと泣いている。無理もない、忍者は古代恐怖的存在。忍者に対抗できうる古代の秘術は長い時の中で失われてしまったのだ……。皆さんの立場に置き換えると、夜道で血濡れた剣を持つ50人のツタンカーメンに囲まれるようなものである。


(退治はまず無理。そして、逃亡もこの異次元内では叶わないであろう……)


ナオスケはいっそう深刻な顔になる。現代において忍者は確認されていない。即ち、会った人間すべてが殺されたということだ。ハチベエはガクガクとうずくまりコンテナの陰に隠れている。隠遁の達人である忍者は見逃さないであろう。


まさに、絶望。生き延びる道は無いのかもしれない……。忍者に出会ったのが運のツキなのだ。


ハァ、とナオスケはため息を吐きこれまでの人生を振り返る。さまざまな事があった。後悔はあるし、やりたい事だってまだまだある。何より、最後の仕事をこなす事ができなくなるのが悔しかった。


哀れなハチベエは宇宙服を真っ黒にしてガクガクブルブルとコンテナの陰で震えている。臆病だと笑うことはできない。


(倉庫船を燃やされるとは……)


ハチベエに早く聞いていれば……そんな後悔の念がナオスケを襲う。その時に聞いていれば別の船でも借りて逃げれたかもしれないのに。


……


ナオスケは首を傾げる。何か変だ、というより、なぜ忍者が逃げられる余地を残していたのかを疑問に思った。自分達を殺すなら、もっと良いタイミングはいくらでもあった筈だ。そして何より……


なぜ、倉庫船を燃やした?


忍者は殺戮以外行わない。復讐に燃えるツタンカーメンが無人の工事現場を荒らさないように。わざわざ目立つような行動は取らないはずだ。忍者の恨みを買った覚えも無い。


たしかに、違法に倉庫船を燃やす事が可能な存在は忍者ぐらいしかいない。恨みも買った方は覚えていない事が多い。


だが……しかし……自分達はまだ……


「そうか……!そうだったのか!」


ナオスケは喜叫する。ハチベエがビクッと跳ね、こちらを見る。


「ハチベエ、分かったぞ!」

「な、何がですかい?もう死ぬしかないのに……何が分かったって……」

「拙者たちは、生きられるぞ!」

「えっ……⁉︎」


ハチベエの宇宙服の色がピンクに戻る。現れた希望に心が救われたのだ。


「ハチベエよ……拙者たちはまだ、生きているではないか!」


ハチベエはハッとする。


「そうだ……忍者が殺し損ねる筈がない……ということは……アイツはって……ことですかァ‼︎」

「その通りだハチベエ‼︎」

「なるほど……本物の忍者じゃないなら……」

「勝機はある‼︎」


ナオスケはニカッと笑い、腰の刀をバンと叩いた。


☆★☆★


黒装束の酔いが収まる。HUDを再起動し、意識をハッキリとさせる。


刀と手裏剣を見る。使い古されたそれは鏡面加工された面頬メンポを映している。


操縦室のドアを開ける。無機質な廊下が伸びている。足跡も無い、音も酔っていて聞こえなかった。2人は一体どこに行ったのか。


カァン、カァン、カァン。


……何と、廊下の突き当たりでピンク色の首無し2頭身宇宙服がこれ見よがしにフライパンをで叩いているではないか。


人をからかうようなその絵面は黒装束の焦点を向けさせるのに十分であった。


☆★☆★


(来たっ!)


ハチベエはフライパンの叩く間隔を短くして、忍者もどきが食い付いたのをナオスケに合図する。


「この、忍者の風下にもおけない悪質変質者が!来やがれってんだ!」


忍者もどきは人とは思えない速度で廊下を駆け抜けてくる。ハチベエはキュッと心臓が縮まるような恐怖を味わうが格納庫へと逃げ込む。


(旦那、あとは頼みましたぜ!)


☆★☆★


太古の神話的剣豪、宮本ムサシは来たる大宇宙開拓時代に向けて幻の輪書でこう言った。


『忍者は全て殺した。そちらにいるのは全て紛い物』


ナオスケはフフフと笑う。まさか、比喩的な意味でなく文字通りの意味であったとは。己が刀の刃に走る波紋を指でなぞる。刀とは武士の分御霊。己の全生命を託すのに相応しい。


ハチベエからの合図、フライパンの高速連打が響く。威勢のいい挑発が聞こえる。ハチベエが格納庫内に逃げ込み、あとからシュタタタと走る異常なほど間隔の短い足音。


耳を澄ます。音を体で感じる。異次元特有の奇怪音も心地よい。足音が近づく。


忍者もどきが格納庫に入るまで……


3、2、1……


☆★☆★


「ゼロォォォォッ!」


赤熱超振動改造ヒート・スーパーヴァィブレーション・アップグレードを施された古代アーティファクト『村正』を携えてナオスケがコンテナの陰から切り掛かる!


忍者もどきは死角からの攻撃に反応が遅れる!ナオスケはそのまま村正を振り下ろす!刃が忍者もどきに食い込む!



が、刃が肉まで通らない!忍者装束は強化外骨格だった!ナオスケはそのまま溶断せんと村正の刃を押し当てる!忍者もどきは人とは思えぬ体捌きで溶断を回避!しかし忍者装束の傷付いた箇所から煙が上る!


フゥ、とナオスケは距離を取った忍者もどきを見据え呼吸をする。


(やはり、忍者ではない!)


確信する。恐るべき身体機能をもっているが、それは強化外骨格の効果によるもので、体術や立ち回りはナオスケと同等。


両者はジリジリと円を描くように間合いを測る。


「ちぇあァッ!」


ナオスケが仕掛けた!思い切った前傾姿勢で刀を刺突の型に構えて突撃!忍者もどき、ジャンプし中空へ回避!即座に村正が振り上げられる!ブゥゥンという超振動ブレード特有のをあげて忍者もどきの足を捉えた!


甲高い衝突音が響く!村正に欠けは無し!忍者装束の足甲が破砕され、内部の電子回路がバチチとショートしボンと弾けた!煙が忍者装束内部に充満していく!


忍者もどきはくるりと回りナオスケから距離を取る。ナオスケは刀を構え直す。


両者は睨み合い、機会を待つ。


……すると、忍者装束内部の煙が頭部まで上り詰めてきた。忍者もどきの視界は封じられた!


(好機!)


ナオスケは駆け出す!この隙に脳天をかち割るつもりだ!


忍者もどきはぎこちなく何とか面頬メンポを下ろして排煙する。しかし時すでに遅く、迫り来る村正が忍者もどきの頭をかち割った!赤熱し振動する刃が黒装束の頭部殻を破砕して頭蓋骨を叩き割る!


……が、忍者もどきは止まらなかった。黒装束が唸りをあげて腕が振るわれ、ナオスケが弾き飛ばされる。


(バカな!)


弾き飛ばされたナオスケはなんとか受け身を取り、忍者もどきに向き直る。忍者もどきの面頬は排煙のため外され、素顔が露わになっていた。


(確かに、頭蓋骨を粉々にしたはず……!)


「……ッ⁉︎」


ナオスケは絶句した。忍者装束の内部にいたのは……いや、あったのは……だった。


死してなお解放されず、忍者装束によって骨と成り果てても動かされ続けてきたのだ。


忍者装束は排煙し終え、面頬を装着し直す。再び、殺意のツイン・モノアイが点灯する。


「なんと、哀れな……」


村正は納刀された。鞘が冷却機構を働かせ、蒸気を噴出する。


代わりに抜かれるはナオスケが履くもう一振りの宇宙そらよりもあおい刀。


その刀は重厚な村正と異なり薄く細く、今にも折れそうであった。刀身には幾何学回路ユークリッド・サーキットが刻まれ、淡く輝いている。


忍者装束は刀をジッと見つめ、駆け出した。


ナオスケは迫り来る忍者装束を見て、蒼い刀を


忍者装束はターゲットが闘志を放棄したと検知し好機と判断して加速する。恐ろしいストロークとスピードで動かされる両足は瞬く間に距離を詰める。あと5歩で必殺の間合いである。忍者刀が振るわれ、ナオスケの命を奪うであろう。


1歩。


ナオスケは目をつむる。


2歩。


幾何学回路の輝きが増す。


3歩。


忍者刀が構えられる。


4歩。


ナオスケは大きく息を吸う


5


「ハチベエぇぇっ!!!!」


忍者装束が5歩目を踏む寸前、怒声が響く!その声は格納庫から廊下を通り、そしての下に届く!


「合点承知いいぃッ!!!!」


ハチベエは操縦桿を思いきり引っ張る!すると、忍者装束の景色が急転し、目の前からナオスケが消えた!



わずかに床から足が離れていた忍者装束は元の位置に取り残され、床に足をしっかり着けたナオスケだけがぐるりと回った!


人工重力は変わらない。ナオスケがしっかりと立つ床に向けてあらゆるモノは落ちる。それは忍者装束も例外ではない!床だった場所、天井から床へまっすぐ落ちる。


そして……真下にはナオスケが


ナオスケは刀を両手で真上、落ちてくる忍者装束へ向け、祝詞コマンドを絶叫する!幾何学的回路が蒼熱する!





蓄電超刃核抜刀オン伝導率千二〇〇割アボキャ機械浄滅回路駆動開始ベイロシャノウ電圧印加マカボダラ電圧追印加マニ電圧超印加ハンドマ電圧限界印加ジンバラ電龍収束ハラバリタヤ……短絡ウン!!!!!!!!!!」



稲妻が、昇った‼





電龍は忍者装束の全身を喰い散らかし、回路という回路が爆ぜ……


忍者装束は、爆発四散した。



☆★☆★



地球。


山肌いっぱいを覆う桜が見える。ナオスケとハチベエは墓を掘る。忍者装束の中に囚われていた彼、もしくは彼女の墓だ。ふたりは何も言わない。この山一面の満開の桜が、死してなお闘い続けた魂を癒すと信じているから。


墓と分かるようにひとつの桜の苗木を植える。いつの日か、どんな桜よりも鮮烈に咲くだろう。


そうしてナオスケとハチベエはその場を後にし、採取を開始した。



☆★☆★



出発直前、ハチベエがタブレットを持ってナオスケに慌てた様子で駆け寄る。


「旦那、旦那!これを!」

「ム?なんだハチベエよ。拙者たちは一刻も早く惑星ソララスに戻り納品をせねば……」

「惑星ソララスが、壊滅しました!」

「何ぃッ⁉」


ハチベエの持つタブレットには炎上し爆発する惑星ソララスの開拓基地本部が配信サイトにて映されていた。



ザザザ、と音声が接続される。映像にが現れる。


『我らは忍者ニンジャー。暗黒ゆえに』


中心のひときわ大きい忍者装束が言う。


『人々はほどなく知る。この世には何も無いと。本質は無であると。テラフォーミングも所詮まやかしであると。』


忍者装束は喋る。


『ゆえに我らは人を過去に戻す。宇宙人類すべてを虐殺し、残人類を無知蒙昧に導く』


忍者装束はかく語り。


『真実など、忘れ去られた方が良い』


忍者装束曰く。


『我らは忍者ニンジャー。暗黒ゆえに』



音声が切れ、程なくして映像も切断される。


緊急ニュースが続々と流れる。あらゆる開拓惑星が謎の黒装束を纏う集団に襲われている。


ハチベエはナオスケの顔を見つめる。


「旦那……行くんスよね」

「勿論」


ナオスケは腰に差した刀を叩く。


「お天道様からいくら離れようと……いや、離れているからこそ通さねばならぬというものがある」


ざぁっと風が吹き、桜花びらが舞い散る。


「人を人たらしめ、善きものが善きものとして認められる道である」


ナオスケは羽織を翻し、ハチベエに言う。


「奴らに満開の桜を見せてやろう」


そして宇宙そらを見上げ、まだ見ぬ愚か者に向けて語る。


「どれだけ時や距離が遠くなろうと、世界は美しいのだ」


【終】

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