第7話
昼の三時ごろ。
朋美は、地下鉄に乗り、下宿がある千里中央に帰っていく。
大阪梅田の高層ビルがまるで名残惜しそうに別れを告げ、多くのマンションが出迎えてくる。
そんな景色を朋美は、ぼーっと眺め、今日のデートを思い返していた。
吉郎の印象。
デートを始める前の吉郎は、確かにいい印象は受けなかった。服は普段着に近いし、髪型もなんとなく、現代の若者らしくない。どちらかというと田舎者が都会に出てきたような雰囲気があった。
顔も結構いいし、体も筋肉質、身長も高いのだから、もっとピシッとしてよ。
あなたは、一応、私が気に入った男なのだから。
と朋美は心の中で思ってはいた。
だが、実際、デートを始めると、吉郎は、見た目よりも中身がある男性だと思う。
公園やカフェで趣味、休日の過ごし方などを話してみたが、実に面白い。
吉郎は、見た通り真面目で趣味も少なかったが、聞き上手というのか、いろいろ朋美の悩みを聞いてくれる。また、朋美が吉郎の気に入らないところを指摘しても、怒らず、笑って次は直してみるよと応えてくれる。
そして、吉郎は知的でありながら、自慢話をしないところがよかった。彼には、エリート臭いところがないのだ。朋美は、彼が非常勤で働いていると聞いたとき、バカな大学を出て仕事がない人か、もしくは高卒の人かなと思っていた。だが吉郎は、朋美よりもいい大学出身であり、教養も高い。また、大学卒業後、なかなか正規の仕事に就けなく、苦労しているだけあり、人間的に出来ていた。
デートの終わり際に、吉郎が自分の印象を聞いてくるところも、彼らしいと思う。
言い方もストレートだが、「朋美さんから見て、オレはどのあたりが良くて、どのあたりがダメだと思います?」と笑いながら聞いてきた。
「んー、そうね。まだ、風野君のことをあまり知らないから、なんとも言えないけど。良いところは、見た目とその知的なところかなあ。見た目は、最初、目つきが鋭く、怖い印象があるけど、カッコいいし。知的なところは、やはり分別があるというのか、女性の嫌なことは言わないし、しないところ。上司でもいるのよねぇ。そんなに親しくもないのに、ベタベタしてくる人や馴れ馴れしい言葉をかけてくる人」
朋美も、吉郎の顔を見て、ニッと笑いながら応えた。吉郎は、慌てて、朋美から距離を取る。さっきまで吉郎が、自分の手を繋ぎたいような表情をしているのをわかっていたのだ。
「そうですか。朋美さんは、キスしたり、ハグされたりするのは好きじゃないのかあ。でも、朋美さん、彼氏いるんでしょう。彼氏とはその・・・・・・」
「まあ、することはするけど。どちらかというと、彼氏がセックスしたいからするっていう感じかなあ。・・・・・・風野君は、私とエッチしたい?」
朋美は、そういうと吉郎の手を掴んであげる。
「オレ、だって男ですから。当然でしょう」と吉郎も少し、顔を赤くして応えた。吉郎だって、お金さえあれば、ソープに行ったり、デリヘルを呼んだりして、女性を抱きたい。しかし・・・・・・、彼曰く、今まで生きてきてそんな遊ぶようなお金は、もっていない。インターネットで女性のヌードやアダルト動画を見て、毎日、自分を慰めてきたのだと。
朋美は、吉郎が大きなため息をつきながら、そんな話をするのを聞き、吉郎がどれぐらい真面目な男かということを感じる。
彼女の周りにも、いろんな男性がいるが、どいつも、女性と遊ばなくても、ギャンブルをしたり、酒、ゴルフなどの自分の趣味にお金を使う。しかし、吉郎の趣味は、読書と家で筋トレ。海外旅行はもちろん、国内旅行ですらほとんどしないそうだ。稼いだ収入は、ほとんど貯蓄で、たまにファミレスで外食する程度。
こういう男性もいるのか、と朋美はあらためて思った。
それは、低学歴で学がないからとか、高収入の人だから、とか関係ない。男性とは、遊び人が多いものだと朋美は思っていたのだ。
しょうがないわね。
私の彼氏、幸一とは全く違うタイプだけど、中身はあるかも。
朋美は、吉郎を人影の少ない、ビルの間に引っ張っていく。そして彼女は、周りに人影がないことを確認し、
「私も結構、あなたのことを気に入ったわ。でも、今日はキスだけで我慢して」
彼女は、そういうと吉郎の顔に唇を近づけた。
軽いキスで終わらせよう。
そう朋美は思っていた。
だが、吉郎は我慢できないようだった。
朋美の背中に手を回し、彼女を引き寄せると、自分の舌を朋美の口の中に強引に入れてきた。
ぐちゃ。ぐちゃ。
朋美の舌と吉郎の舌が絡み合う。
ディープキス。
三分近く、しばらく無言でお互いの舌を出し入れしたり、唾液の交換をしたりする。
そして、吉郎は、夢中で朋美の唾液をむさぼり、ようやく彼女を解放した。
はあっ、はあっ。
朋美は、少し息切れをしながら、吉郎から少し距離を取った。
幸一とは、タイプが違うが、吉郎も男性らしい荒々しさを感じる。
さらに吉郎のほうは、もうキスだけでは満足できないのだろう、ズボンの下からでもわかるほど、下半身が膨らんでいた。
「ダメよ。お願いだから、今日はこれで終わりにしてね」
朋美は、吉郎の膨らみを手で指し、あきれたような顔をしてきっぱりと断った。だが、吉郎の勃起は生理現象だ。なかなか収まらないらしく、彼は慌て下半身を手で押さえ隠す。
「ごめん。どうもオレ、女性と関わったことが少ないんで。朋美さん、またデートしてくれますか?」
「そうね。あなたのこれから次第かな。ただ、今のあなたのことは、嫌いじゃないわ」
そういうと、朋美は再び、吉郎に顔を近づけて、軽く唇を押し付ける。吉郎もようやく冷静になれたらしく、目をつむり、朋美のキスを迎え入れた。朋美からは、何とも言えない成熟した大人の匂いと彼女が自分を気に入っていることを吉郎は、嬉しく感じるのだった。
風野吉郎の生活 山川 友秋 @yamakawa0419
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