第6話

土曜日、朝の八時頃。

地下鉄、T橋駅。

平日の朝は、JR線、近鉄線が止まる駅のため、多くの人が行き交う場所である。だが休日は、ほとんど人はいない。大阪梅田に人が集まるためだろうか。

そんな閑散とした駅の改札口を男女、二人、風野吉郎と山井朋美は、のんびりと話をしながら出た。


相変わらず、朋美さんはカッコいい人だな。

ショートカットが良く似合う。

だが、オレだって・・・・・・、負けてないぜ。


吉郎は左右のズボンのポケットに両手を入れ、体を大きく見せた。

そして、強気な表情をし、隣にいる朋美に気後れしないように歩く。


今日は、彼女のほうから自分にちょっと遊びに行かないかと誘ってくれたのだ。

エッチなことはできなくても、キスぐらいできたら。


吉郎は、朋美との関係に期待を膨らませ、少し興奮していた。


普段の通勤の時間なら、吉郎は、このまま近鉄に乗り、Y市のほうに向かう。一方、朋美はT橋駅のすぐ近くのT病院に向かうので、一緒にいられるのは、地下鉄の中の数分間だけ。だが、今日は違うのだ。


「いや朋美さんが、オレをデートに誘ってくれるとは思わなかったです。オレ今まで、仕事以外、女性とまともに話したことがないのでつまらないかもしれないですけど。一緒懸命、頑張ります」


吉郎は、短く刈り上げした黒髪を撫でながら、丁寧な口調で応えた。吉郎の髪型は、五十代、六十代がしそうな古いファッションの七三分け。服装は、黒いジーパンに上は、紫色のパーカーを着ている。彼の顔は、小顔で身長も175cmぐらいあるのだから、もっとカッコいい服を着れば、似合うと思うだが・・・・・・。


「風野君。デートなんだからもっとオシャレしてもいいんだけど。白いカッターシャツにグレーのズボンでも良く似合うと思うわ。あなた、本当に今日、デートをしにきたの?」


朋美は、あきれたような声を上げてた。吉郎の恰好は、ほとんど普段着と同じである。


「やっぱり、背広のほうが良かったですか。じつは、ちょっと家でも迷ったんです。オレ、服は母に買ってもらってばかりで。これでもマシな服を選んだですが・・・・・・、ダメですか」と真面目な顔で言う。


もーう。これだから、この男は。

私よりも年上のくせに、女性の気持ちがわかっていないというのか。


朋美は、吉郎を見てイラッとする。彼女のほうは、青いカッターシャツに白いタイトなズボンをはいていた。今日のためにネットで検索し、人気があるという服装を選び、コーディネートしたのだ。脇毛も剃ってきた。下着も、化粧だって・・・・・・、完璧なのに。


朋美は、吉郎の服や恰好のセンスのなさに不満を感じたが、仕方がない。今日の午前中だけでも彼と遊んでみて、楽しければまたデートに誘えばいい。

朋美は気持ちをさっさと切り替えた。

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