彼とは職場の同僚という関係だったから、居づらくなったこともあり、仕事を辞めて実家に戻ることにした。
人づてに、彼の方もほどなく仕事を辞めたのだと聞いている。結局、奥さんとは離婚したのだということも。
閉じていたまぶたを開いて、もう一度半壊したツバメの巣を眺める。
野良猫は、私だ。泥棒猫にもなれず、ただ彼の家庭を壊した。
退職した後、奥さんに宛てて、彼との関係を全て、証拠の写真と一緒に匿名で送り付けた。届くかどうか分からなかったけど、私の爪は、確かに彼と奥さんに届いたらしい。
私の中では、結果がどちらに転んでも良かった。ただ、何もしないで、何も乗り越えないで幸せになって欲しくなかっただけだ。
だから私には、幸せを招くというツバメの巣は必要ない。ヒナの鳴き顔も、必要ない。
昨日壁に掛けておいたハシゴを登り、もう誰もいないツバメの巣を弔うため、ユリをあしらった黒いハンカチで幕を下ろしてあげた。
クロユリの花 橘 静樹 @s-tachibana
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