プラネタリウム

しーちゃん

プラネタリウム

何万キロも離れた星の光が地球に届くまでには何万年もかかる。音は光よりも遅い。

だとしたら、、、


どこを見てもカップルが目に付く。向かい合って座ってアイスを食べる2人。隣同士に座ってドリンクを飲む2人。ニコニコ笑って、手を繋いで、そんな彼らを見ながらカフェでアイスティーを飲む。もう氷も溶けきっている。少しぬるくなった紅茶は私の喉に溶け込むように消えていく。私はよくカフェに行き長い間人を観察する。この人たちは何が良くて好きになったんだろ。そもそも、どうやって出会ったんだろ。そんな事を考えるとループにハマる。昔から人と接するのが苦手だった。だから、人を観察する事にした。でも、よく分からなかった。この人が何を考えているのか、どうしてこんな感情的になれるのか、まるで理解が出来なかった。皆みたいに上手く繕えない。思ってもいない事、お世辞や忖度、そんな事は言えない。おおかた、私には感情という物が欠落しているのだろう。だから、私を素直と言う人もいれば、ひねくれてるという人もいる。賛否両論だ。人は時間を費やし汚れていく。窓の外を見ると夕日に照らされ空は真っ赤に染まっていた。「すみません。お会計お願いします。」と店員に伝える。「少々お待ちください。」茶髪の身長の高いお兄さんがニコニコとしながら返事した。その中あんな人がモテるのだろうと考えながら、レジを待つ。お会計を終え、外に出ると生暖かい風に包まれた。カフェから数分歩けば家なのだが、あえて遠回りし帰る。理由は特にない。強いて言えば、風が心地よかったから。家に着くなりベッドに倒れ込み顔を埋める。耳障りな時計の針が進む音。実家を出て3年。一人暮らしには慣れた。大学になると同時に一人暮らしを始めた。親とは1度も連絡をとっていない。別に嫌いなわけじゃないけど、とりわけ連絡をする用事もない。私の日常は本当につまらないものだと思う。息をして、何となくな時の流れに身をまかせ惰性で生きていく。

次の日もカフェに向かった。いつもと同じ席に目をやるとサラリーマンの男性3人が座って真剣に話している。窓側の席は店内を見渡せるし外の人たちも観察できるからお気に入りだった。しかしカウンター席しか空いていないので、そこに座った。「お水とおしぼり失礼します。ご注文は、、、アイスティーですか?」と言われ顔を上げる。そこには昨日のお兄さんがいた。「あ、すみません。いつもアイスティー頼まれるから、つい。違いました?」そうハニカム彼を見てやっぱりこの人はモテる人だと確信する。「あの、、、」その困った声で我に返る。いつまでも反応しない私に不安になったのか、少し心配そうに顔を覗き込んでくる。「あ、いえ。アイスティーでお願いします。」そう言うとまた笑顔で返事し、去っていった。少ししてからお店の中は人が減っていく。暇になったのか彼がカウンター越しに話しかけてきた。「大学生ですか?」そう聞かれ頷く。「いつもここ来てくれるから、おぼえてしまって、さっきは出しゃばってすみません」彼はまた少しハニカミながら言う。「あ、いえ。大丈夫です。」こんな時可愛く愛想のいい女の子なら会話が弾み恋に発展するのだろ。「名前聞いてもいいですか?」という彼に「これってナンパですか?」と答える私。とても可愛くない返答だ。「どうかな?」と何故か楽しそうな彼。本当に分からない。「高橋星羅です。」「せいらちゃんか、綺麗な名前だね。俺は伊月奏斗って言います。よろしくね」そう言われ呆気に取られる。何故カフェで店員と自己紹介しているのだうか。「星羅ちゃんはさ、プラネタリウムとか好き?」「行ったことないかも。あんまり興味なくてそう言うの。」そう言うと少し驚いた顔をする彼。「え!?ほんと?めっちゃ綺麗だよ?」彼の目はいつもニコニコしている。私とは真逆な人だ。感情豊かで社交的。「今度一緒に行く?」そう言われ、何故か彼と遊ぶことになってしまった。今まで異性どころか、女友達とも出かけるなんてことしたことが無い。少し戸惑った。連絡先を交換し、その日は家に帰った。

それから数日たった朝、ケータイの通知音で目が覚めた。『おはよ!今日は駅前の広場で1時くらいに待ち合わせしよ!』その文を読むなりケータイを閉じ支度し、駅に向かう。「あ!やほ!返信ないから来ないかもって思った。」そう笑う彼に私は会釈を軽くする。「お腹空いてない?」そう言われ首を横に振る。「じゃ、早速行こっか。」と私の手を取り歩き始めた。プラネタリウムはお昼だからかそこまで人はいなかった。ゆったりと座っていると言うより寝転がっているに近いほど倒れる椅子。しばらくすると部屋が暗くなり夜空の映像が映し出される。作られた星。偽物の星、つまりはレプリカ。星の説明を聞いてもどれも同じにしか見えない。さそり座とか射手座とかどの星座もその形には見えない。上映が終わると周りの人が口々に言い始める。「綺麗だった」そして、彼も言う。「綺麗だったね。」私だけだ。ここにいる誰とも共有できない。プラネタリウムをでて、カフェに行く。「プラネタリウム楽しくなかった?」彼が優しく問いかけてくる。「あー。いえ。」と歯切れ悪く返事する。『そんな事ないです。楽しかっです。』とどうしても言えない私。「星羅ちゃんって不思議だよね。」と笑う彼。「今何考えてるのか教えてよ」少し真剣な顔になった彼を見つめる。「プラネタリウム、レプリカの星を見て感動とか出来なくて。それで

」その言葉に頷き話を聞く彼。「私の心が荒んでるからなのか、わかんないですけど。」「そんな事ないよ。荒んでるいる時こそ、星は綺麗に見えるよ。」彼の顔は真剣だった。「昔から私感情が豊かでなくて、だから私といても楽しくないと思います。」すると「なんで?」と言い不思議そうな彼。「いや。だから。そもそも、なんで私に、声掛けたんですか?」と聞くと「話してみたいなぁって思ったら、行動してた。ほら、頭で考える前に体が先に動いちゃう事あるでしょ?」全く理解できない。「心や体は脳の司令で動きます。反射神経以外で体が勝手に動くなんて、そんなことはないです。」そう言うと彼は声を出して笑った。「ごめんごめん。そっかそっか。」そういいずっと笑っている。「全部偽物です。」そう呟く。「偽物?」そう彼は笑うのを辞め問いかけてくる。「心とか感情とかは脳の信号だから、愛も思い出も言葉も全部、全部偽物なんです。」俯きながら話す私の頭に暖かい大きな手が触れる。彼は何も言わない。私の家族は、おしどり夫婦と呼ばれ、周りから評判の良い家族。みんな私に言う。「お父さんお母さん、それにお祖母様も素敵な方ね。貴方は幸せね」と。でも、蓋を開けると父は浮気をし、母は散財。祖母は家柄と地位にしか興味が無い。それでも家族である事を止めなかった。嘘で塗り固められた家族。私が笑っていると母はいつも怒る。あなただけ幸せそうでムカつくと。私が怒ると父は怒る。誰の金で生きているんだ。お前が怒れる立場かと。泣いていると祖母は言う。泣いても許されるのは愛してくれる親がいる子のみだと。「誰かの為に生きなくてもいいんじゃないかな?」その言葉で私は思わず顔を上げる。彼はハッと思いついたように言う。「もう1回みにいこ!」「え?」彼は立ち上がって無邪気な子供のように笑っている。プラネタリウムを一日に2回見るなんて思ってもなかった。すると「星ってさ何万キロも離れてて、その光が地球に届く、つまり俺らが見えるようになるまでに何万年もかかるんだよ。すごいと思わない?他の星から見た地球ってどう見えるんだろ?俺らの暮らす光はどこかに届いてるのかな?」彼が何を言いたいのか上手く理解できない。「結果さ、俺らは全部主観でしか見れないんだよ。だから、偽物だと思ったら偽物にか見えなくなるし、本物だと思ったら本物になる訳。誰が君を否定しようと、星羅ちゃんが星羅ちゃん自信を否定しなければ、君には価値があるって事。音は光よりも伝わるスピードが遅いんだからさ」彼の言葉が途中でかき消される。さっき見た夜空たち。同じ説明。なのに何故かさっきとは違う。眩しくて目を閉じてしまいそうなほど星は綺麗に光っていた。「綺麗だった」さっきも聞いた言葉。でも、今なら共感できる。本当に綺麗だった。これは私の感情。隣で少し満足そうな彼。ついつい笑ってしまいそうになる。

光は音よりも伝わるスピードが遅い。だとしたら、心はどれくらいで届くのだろうか。私もいつかちゃんと伝えられるだろうか。何にも掻き消されず、誰かの元にたどり着くだろうか。


私の光が届くまであと、、、


私の声が届くまであと、、、


私の心が届くまであと、、、


彼に届けたい『ありがとう』


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プラネタリウム しーちゃん @Mototochigami

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