ささみ

白川津 中々

近所のスーパーが改装工事のため臨時休業となり俺の食事情は途端に暗雲立ち込め最低限文化的な栄養素の摂取にイエローシグナルが灯されたのだった。


我が生活圏内において代替となり得る店舗なし。足を伸ばせば大小チェーンが鎬を削る群雄割拠の一大商業エリアもあるが電車移動必須。気温上昇著しいこの季節においては鮮度低下の不安拭えぬ故、必然選択肢からは外れる。残された道はコンビニエンス。便利さ全振りコスト度外視塩分糖質油マシマシな食品を棚に並べる悪徳業種のみである。俺は神を呪い悪魔に乞うた。おぉ!偉大なるサタンよ!どうぞ良質なる栄養素を我に与えたまえと!


祈りは通じた。「二丁目のブンブン。冷食コーナーにて汝の願いかなわん」脳内で流れる誰だこれボイスにビビり散らかすも藁をも縋る思いで赴いた二丁目ブンブン。店内を入り奥。霜に覆われし冷食コーナー。目に止まるはささみ特用サイズ。賞味期限は来る年三月。丁度一年。完投連戦お手の物なエース球ピッチャー並みの頼もしさ。購入において迷いなく、サンキューサタンと呟きささみを購入。ついでに買ったスイーツ類でグッバイ英世'sの事態になった秘密は墓まで持っていく。


さてささみだ。帰宅しウキウキ気分でささみを調理。ササミのステーキ。悪くない。今日から当面ササミ生活。ひとまず今日は手軽な調理。冷蔵庫の肥やしとなっていたステーキソースも心なしか御満悦。日の目を見ない調味料の処分も終わりワクワク気分で就寝完了。憂慮が消え去り快眠万歳。明日からも頑張ろう。






しかし希望は最初だけだった。



二日目、シンプルテイストに早くも飽き模様で候。煮付けてみたがベリータンパク。美味しいのかい?美味しくないのかい?どっちなんだい?美味しーーーーーーーーーーーーーーーーーくない!なんやこれ。パッサパサやん。パワー!


三日目。

出汁を敷いた皿にササミを並べてチーズをパラリ。冷凍ブロッコリー、冷凍インゲン、冷凍ポティトも添えてオーブントースターでこんがり。この時点で予算オーバー。チーズが皿にこびりつき洗い物もハードワーク化。ついでに酒なんかも買っちゃったりして手間もコストも掛かる本末転倒ぶり。ささみの数は未だに減らない。


四日目。

半狂乱で、はさみを刻み野菜と混ぜて炒める。味付けはマヨ。マヨも野菜もコンビニエンスで調達。費用圧迫。酒が進む。


五日目。

ささみ丼。

こんがりと焼き上げたささみの上に半熟卵を乗せるだけ。加えて味噌汁と副菜二種。英世よ、さようなら。


六日目。

ささみチャーハン。

チャーシュー使いてぇなぁ……


七日目。

半チャーラーメンチャーシュートッピング。単品餃子。


八日目

焼肉。


九日目。

寿司。


十日目

懐石。


十一日目

……







気付けば大赤字。食事の度に崩される貯金。記帳される残高を見る毎に心が死んでいく。

あぁ、どうしてこんな事に。俺はただ、健全な食事がしたかっただけなのに……





冷凍庫のささみが俺を睨む。

罪悪感に苛まれながら、俺は食べログを見ながら明日の夕食の算段を始める。


ささみの賞味期限は来年三月。

俺の貯金は、それまでもつか……


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