第2話 あたし、あなたのこと知っているよ?



 狭くて小さい町に住んでいると、その人の顔を見ただけで、どこに住んでいて、誰の子どもで、誰の家系で、誰と親戚で、誰と結婚して、子どもが何歳で何人いて、どこで何をやっているのか把握されることが多い。


 コロナの感染者が町に出たときには、ほんとにすごかった。

 ニュースで数字が出た瞬間。

 情報収集の作戦コードが至るところに張り巡らされ、翌日には、罹患した人がピンポイントであぶり出されている。

 だから何?

 と言えるようになった今ならまだしも、コロナが「奇病でエボラ出血熱状態に感染したら即死ぬ!」みたいなあらぬ情報が錯綜していた時期は、大変だった。

 何せコロナに罹患した人は、みんな

「ホストクラブに行ってきたらしいよ」とか、

「飲み会でコンパニオンさんとヤッテキタんだってよ」とか

 あることないことマコトシヤカニ言い立てられて、大体が作り事なのに、大多数の勢いの方が強いから少数の正論者は、押し負ける目にあわされる。

 そうなると当事者は、噂話の餌食になってどこぞの中学生のイジメのように、転校だ!引っ越しだ!と選択を迫られる。

 田舎って閉鎖的な割には、いざ情報が錯綜するときは一時いっときなのだ。

 家族が全員携帯電話を持つようになるとこんな田舎でも瞬時に欲しい情報が手に入る。

 でもね、携帯電話のない時代からそういう情報は、以外と回りやすかった。

 世に知られる「口コミレビュー」である。

 田舎の口コミは恐ろしいよ?

 例えば、夕方発熱して、救急外来でインフルエンザが発覚する。

 すると翌朝には、「インフルエンザだって?大丈夫?」と第一報の電話が来る。

 それでもまだ遅い方だ。

 早ければ、寝る前に「スポドリ買ってきたから玄関に置いていくね」と見舞いが届く。

 自分から発信しなくても誰かが回覧板形式で回してくれるおかげで黙っていても恩恵を受けることもある。まあ、恩恵と感じる分にはいいかもしれない。

 昨今、これを禁止する習わしが出てきた。

「個人情報漏洩に注意しましょう」というあれである。

「コロナになった人を攻撃するようなまねはやめてそっとしてあげましょう」

 マコトシヤカニ聞こえる。

 学校でも幼稚園でも罹患した人の情報は公開しない。

 学校同士でも幼稚園同士でも情報交換はしないことになった。

 だから数字の上でだけ「○○小学校で8人発生したためクラスターと認定されました」と新聞やテレビで報道されそこで知る事になる。

 すぐ隣りに住んでいても小学校で何年生が罹患したのか知らされることはない。

 例えば、小学校に通うお姉ちゃんが罹患して妹が幼稚園にいたとしよう。

 小学校は、クラスターが発生したから休校になったとする。

 保育施設は、通常通り営業中。

 家庭内に罹患した兄弟がいたことを保育施設は知らないからその妹を受け入れている。

 間髪入れず妹が発症。こうなって初めて姉がコロナに罹患していたという事実を知らされる保育施設。

 最低限必要な情報のやりとりは、あるべきではないかと私は思うのだ。

 知り得た秘密の漏洩を防ぐため守秘義務は当然必要だとは思う。

 だけどね、せめて職務上知っておかなければいけない秘密は共有してもいいのではないかな?

「姉がコロナになりました」近親者は、自宅待機。

 両親、祖父母、高校生の姉、中学生の姉は、休んでいるのになぜ保育施設に在籍している妹だけが通常操業だったのか?それは、

「保育施設は、経済を回すためにできるだけ開けて下さい」

 と上様から御達しを受けているから。

 ちょっと待った!

 それと、感染者家族の受け入れと何が関係するのですか?

 ですよね?良いところに気付きました。

 保育施設に通っている妹は、無症状で感染していない、つまり、

「陰性だからこの子は、いいのですよね?」

 という理屈だったのです。

 まず、上様からの保育施設への御達し(保育施設は、経済を回すためにできるだけ開けて下さい)と、保護者本意の理由を合体させるのをまず止めてもらっても良いですか?

「二つの情報を続けて一文にするのは紛らわしいので止めましょう」

 高校生の小論文を書く時間にならいましたよね?

 ところが都合のいい解釈をしたいが為に何でか無理矢理情報をつなげようとする傾向が保護者サイドには強い。

 今回、何もなかったからだけど、もしコロナをその保育施設で発症した子が現れて、運悪くそれが数人に罹患したら、たちまちクラスターと言うことになる。

 もっと言うと、運悪く保育士がそこで感染したら、クラスターの原因は保育士の罹患によるとなぜか情報がねじ曲げられる恐れも出てしまう。

 保育施設は、学校と違って義務教育ではない。

 給料なんか高校生のバイトより安い。

 せめてもう少し労ってあげて欲しい。

 可哀想だよ?

 あれ?何の話ししていたっけ?

 ん?

 あ、そうそう、だからね。

 言わなくてもいい人には情報を流さないことは、必然だけれど、せめて仕事上必要な横のつながりとは、秘密の共有もしなければいけないのではないのかな?

 と言う話をしたかったのです。

 そうはいっても、

「いやいや、必要ないです。そもそも守秘義務を守ると言うことは、誰にも言わないと言うことだから、必要とは言え、情報の共有と言った時点で守秘義務違反になります」

 と、かつて働いていた保育施設で言われたことがある。

 そんなことを言っていたら守れる子どもも守れないよ?

 だって、児童相談所や警察と連携しなければいけない子も近年多くなってきて、情報共有は実際行われているのだから。

 関係機関が情報を共有し合ってこそ、守れる命があると思うのだ。

 それとコロナをまぜこぜにするなって?

 いや、コロナだって、そうだよ?

 前述したお子様のご家族のように、家庭内に感染者がいるのにそれを隠して保育施設を利用していたのだよ?

 そして数日しないうちにその子が発症した。

 幸い周りに感染した子はいなかったけれど、コチトラ、スワッと血の気がひく話だよね?

 ご事情があったのだろうから保護者様を責めるつもりは、ない。

 だけど、横のつながりの情報共有はあるべきだったと言いたい。


 ~By the way~いきなり話しを変えるけど


 昨日ね、もと同僚の出産祝いに行ってきた。

 庭先に車を停めさせてもらって、中に入ろうとしたら、ご親戚が先にお祝いに来ていたようで玄関から数人出てくるところだった。

 私は、小声で「こんにちは」と声をかけた。

 すると

「あら?どなたかしら?なんだか聞いたことのある声ね?」

 とご親戚だろうと思っていた人の中の一人に声をかけられた。

 ご近所住まいの方かな?と思って、

「私は、隣の地区からきました」

 と言って、マスクを少しずらして顔を見せた。

 すると

「あらかもめちゃんじゃない?」

 と言われた。

 え?

「ほら、私、○○の母です」

 ○○とは、中学の同級生男子の名前だった。

 え?こんなところで○○の名前を言われるなんて?

「うちの○○の息子、結婚したのよ?」

 え~っ?確か、うちの息子と同じ年のはず?

「そうなのよ、うちの24歳の孫、あなたの息子さんと同級生でしょ?」

 はい!その通りです。

「遊びに来るようにいってちょうだいね?」

 どうも、ありがとうございます。

 こんな会話をして、玄関に向かった。

 元同僚が笑いながら、

「かもめ先生、顔広いですね。どこにでも知り合いがいる。

 ○○県の人なんですよ?」

 と言った。

 嘘だよ?だって、○○ってうちの地区に住んでいるもの。

「え~、やだ。あの人、今日○○県からお祝いに来てくれたうちの親戚ですよ?」

 違うってば(笑)それは、あなたの勘違いでしょ?お姑さんからちゃんと聞いてよ?やだなあ。

 元同僚は、家の中に入って今度は旦那ちゃんに、

「かもめ先生ったらね~」

 と玄関での出来事を話し始めた。旦那ちゃんまで面白そうに、

「かもめ先生って面白いですね。あの方は、○○の人なんですよ」

 と言うではないか!

 え~っ!だって、あの方の話、聞いたでしょ?符牒が合いすぎるでしょ?


 ① 私の名前を呼んだ。

 ② 同級生の名前を言った。

 ③ 同級生の息子が私の息子の同級生だと言い当てた。

 ④ 息子が24歳だと言い当てた。

 ⑤ 同級生の息子は、確かに結婚した。


「たまたまそうだったかもしれないけど、かもめ先生が合わせたから向こうも合わせたのかもしれませんよ?」

 嘘っ!どんな魔術を使えばここまで符牒を揃えることができるのよ?

 奇妙すぎるでしょ?ロイヤルストレートフラッシュだよ?

 ここは、素直にあなたたちが若いからわからないだけで、ほんとは、あの方は、岩手県からきたわけではなくて、うちの近所の同級生の○○のお母さんなんじゃないの?

「そうなのかな~?私たちがわからないだけなのかしら?」

 そうよ(笑)。だって、こんなに話を作れるわけがないもの。


 ・・・・ところが、


 帰宅してやっぱりこの出来事が気になった私は、中学の同級生に電話を入れた。

「○○のお母さんに元同僚の家でばったり会ったのよ」

「かもめ?何言ってるの?○○のお母さんならもうと~っくに亡くなってるわよ?」

 へ?嘘!だって、昨日話ししたのよ?綺麗な感じの背のすらっとしたお母さんで」

「かもめ?まず自分の歳を考えようよ」

 電話の向こうの同級生はやけに落ち着き払った声で私に言った。

「うちら55歳だよ?」

 はい・・・それが?

「かもめのお母さんって60代で亡くなってるよね?」

 そうね、うちの母親は、62歳で他界している。

「うちらの親世代って今、いくつだと思う?」

 え?

「もし25歳でうちらを産んでいたら80歳だよ?」

 いや、もっと若かったよ。

「20歳で産んでいても75歳になっているはずだってば」

 そりゃ、そうだ。

「イマドキの高齢者は確かに見た目は若いよ?

 だけど、綺麗な背のすらっとした80代ってどうよ?」

 ・・・。

「あんた、いったい、誰に会ったの?」

 ・・・。

 55歳にもなると、このような出来事が増えてくるらしいです。

 楽しいです(笑)


 でもさ~、不思議だよね?

 あたし、名前呼ばれたんだよ?同級生の名前も言われて、息子の同級生が結婚したことも当たっていた。

 だけど、よくよく突き詰めていくと、その人、まるで知らない人だったんだよね。


 あ。

 待てよ。

 その人もきっと家に帰って誰かに私のことを話したと思う。

「かもめちゃんに会ったのよ」

 すると誰かが答える。

「かもめちゃんは、□□県に行っていないよ?」

 え?

 どういうこと?

 だってね、だって。

 って、説明大会が始まるんだわ。

 ミステリーサークルだわ(笑)


 ここにきてドッペルゲンガー説浮上してきたぞ?(笑)

 半世紀以上生きているとついにドッペルゲンガーを検証することができるようになるらしい。



























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歳を取ったと言うことで 和乃鴎 @kazunokamome

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