傷だらけの小雨

夏伐

還り

 いつからか、学校は学び舎ではなくなってしまった。

 宇宙から飛来したとまことしやかにニュースなどで噂される怪物たちから逃れる避難所として機能していた。


 自衛隊が派遣され、日夜問わず襲い来る怪物と戦っていた。


 最後の方は民間人も必死に銃のを撃っていた。負傷者や死者は日ごとに増えていく。


 私ははじめから避難所に向かっていたが、小さな拠点を作った人たちの方に向かったものもこちらに合流したようだ。


 怪物は日に日に増えていった。


 今日は防衛最後の日になるだろう。避難所の中から叫び声が聞こえるようになっていたからだ。きっと気づいたのだろう。

 死者が怪物に生まれ変わるということに。


 ついに防衛線が崩れ、そこから一気に怪物が流れ込む。みんな、必死なのだ。家族に会うために。


 私も子どもや夫がこの小学校に避難している。雨が降り始めていた。


 これから一緒に暮らすためには、彼らには一度『生まれ変わりの儀式』を行わなければならない。つまり一度、死ななければならない。


 外から子供たちが集められている教室を見つけた。窓から目があったのは、たしか子供の友人だった。


 怪物の体はゆっくりとしか動けない。


「助けて! お父さん! お母さん!!」


 それでもおびえる私の子供を見つけることができた。必死に叫び続ける子を、私はぎゅっと抱きしめた。周囲にも子供を迎えに来た親が子供を抱きしめている。

 いつの間にか夫も私と一緒になって子供を抱きしめた。


「ぎゃっ――」


 喚いていた子は小さく呻いて押しつぶされて死んでしまった。


 小さな体は傷だらけだ。それでも本当に死ぬわけではない。これからはまた家族で生活が出来る。


 私たちはこの神のいたずらに喜ばなくてはならない。


<また君と暮らせるなんて>


 夫が嬉しそうに言った。


<私も、またみんなで暮らせることを楽しみにしてる>


 怪物は死者が甦った存在だ。私はもう二年も前に葬儀が済んでいる。でも、もうそんなことは関係ない。

 これから私たちが家族で暮らせることが大事なのだから。


 私の腕の中で小さく、子供の死体が変異を始めた。

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