第32話:戻ってきた学園生活?
「ねえ、ヒロ。昼休みバスケ付き合ってよ。ノリタカじゃ役に立たなくてさ」
「なんだと!? 俺じゃダメだってか!」
相変わらず、エマとノリタカは仲が良いようだ。
俺もここ数日ちょっとした修業をしたので、その成果も見てみたい。エマの誘いに乗って昼休みにバスケをすることにした。
昼休みの体育館は、いつの間にかバスケのコートが使いやすくなっていた。毎日という訳じゃないけれど、今日は簡単に確保できたのだ。体操服じゃないし、靴も単なる上履き。本気じゃないけど、遊びのバスケ。俺が普通にできるようになりたかった普通のバスケ。
「おーい! じゃあ、いくよー」
ルールなんて細かなことはいちいち設定しない。「お互い楽しく」くらいがルールだろうか。気持ちよくプレイすることが前提。エマがバスケットをしたいのだから、エマが先攻。彼女のボールを俺が受け取って、彼女にパスしたらスタートの合図。
(すたっ)彼女がボールを受け取ったら、すぐにゴールにドライブし始めた。通常だったら、1秒待ったらもう追いつけない。
バスケットのコートの半分の距離は約14メートル。人間が走る速さは1秒間で約8メートル。つまり、バスケのコートのセンターからゴールまでの距離を約2秒で走り切る。ドリブルしながらだと遅くなるけど、倍まではかからないだろう。そのうち1秒待っているのだから、追いかける方は追いつけるわけがない。
ところが、俺はエマがレイアップでシュートしようとしたボールを横から叩き落とすことに成功した。
「はあ~!? ヒロ速すぎじゃない!?」
全力じゃない。筋肉の使い方を覚えた。今の場合、つま先で地面を蹴る瞬間だけいつもより強く蹴った。歩数の数だけ加速する。それだけでエマに追いついた。
ただ、女の子に「速すぎる」と言われると少し傷つくのは何故だろう。
ドリブルの速さはまだ変えられない。自分が速く動くことでボールがどれくらい速く動くのかは練習と慣れが必要だからだ。それでも、この速さはディフェンスの時に役に立つ。
エマがこぼれ球を拾ってロールターンをするとき、つまりドリブルをしていて、俺が目の前にいたら、エマが俺に背中を向けてボールに触らせないようにしたとき、エマが気づく前に正面に回り込めるので、ボールはらくらく奪える。
「え⁉ ええー!?」
「いただきー!」
ダムダムとドリブルしながらゴールに向かう。当然真剣な顔をしてエマが追いかけてくる。急に速い動きをしたら人間目で追えない。それも何メートルも動いていたら消えたと思うだろうけど、ほんの20センチ予定より違う位置にいるだけで、ボールは取れないのだ。多分、10センチずれても取れないんじゃないかな?
エマが膝に手をついてぜーぜーと肩で息をしている。服装は制服なのだけど、汗だくだくだ。午後の授業は大丈夫なのだろうか。他人事ながら心配になる。
「なに……今の……ヒロ……変な……動き…」
息を切らしたままで恨みがましい目で見てくる。「なんかしたでしょう!」という意味だろうか。俺は何もずるはしていないので、しらばっくれた。ノリタカでは物足りないと言っていたので、ちょっと気合を入れてプレイしてみただけだった。
「もー!全然ストレス解消になってないじゃない!」
ストレス解消したかったらしい。俺のバスケは、全てエマから教えてもらったものだから、俺に負けると思わなかったらしい。
その後、ノリタカとエマがコンビを組んで2人対 俺は1人の1ON2というだいぶズルな試合もやってみたけど、普通に勝てた。こちらはボールを取れるし、取られることがないのですんなり勝てたのだ。
「なんだ…お前の……その動き……ぜってー……チートだろ……」
ノリタカもぜーぜー言っている。エマはもう喋られないらしい。本気すぎだろ。男バスと女バスのそれぞれレギュラー相手に帰宅部が勝ってしまった。遊びだけど。
***
そして、帰りがけが難しい。放課後になったけれど、全然プランを思いつかない。自然な感じで なごみと合流することもできないし、ヤクザに付き添われて下校もイメージがつかない。
「おい、ヒロ聞いたか? 校門のとこヤクザっぽいヤツが立ってるらしいぜ」
ああ、思い当たる節しかない。ノリタカの能天気が羨ましい。帰るのに教室で戸惑っていたからか、騒ぎになっているようだ。判断が遅くなったのがまずかった。
「ちょっと面白そうだし、見に行ってみようぜ!」
「いや、ほら、危ないかもしれないし……」
「危なかったら先生たちが既に対応してるだろ」
能天気!ノリタカは頭の中 お花畑かぁ!
ノリタカに同行されるような形で校門に向かう。俺はそのまま帰るつもりなので荷物を持っているけど、ノリタカは部活らしい。完全に興味本位。
下駄箱の辺りで なごみを発見した。
学校ではあまり交流しないルール(?)なので、目は合ったけれど挨拶はなし。
「おい! ヒロ! あれだよ! あれ!」
「どれだよ、どれ!?」
「あれが『大和撫子の君』だよ。朝 お前が話してたのってあの子だろ?」
「ああ、そうだよ。確かに『大和撫子』って感じするなぁ」
そうなのだ。同じ制服なのに なごみが着ると立ち居振る舞いのせいなのか、和服に思えるほどだ。
「あんな子が彼女だったらいいよなぁ」
ノリタカがほんわかしながら言う。
「そうだな。彼氏は幸せもんだろうな」
料理は出来るし、家事も好きみたいだし、面倒見もいいし、なにより可愛い。なごみの彼氏になるやつは絶対に幸せ者に違いない。
「ただ、俺的にはちょっと大人しそうで物足りないかもしれないって思っててさ」
「へー」
実際、なごみは大人しい方かもしれない。ズボンのポケットにティッシュを入れたまま洗濯機に入れたりしない限り怒ったりしないし。
「こう……ちょっとミステリアスな部分があるとより萌える感じ……分かる?」
「ああ……」
俺に関して言えば、なごみは身近過ぎてミステリアスな部分なんてない。ノリタカのいう事は理解はできるけれど、実感はできなさそうだ。
ちょうど、なごみが校門のところに差し掛かると、ヤクザの護衛があいさつした。
「姉さん! お勤めご苦労様でした!」
「ええ!? あ、ああ、そちらこそ、お勤めご苦労様です」
さっきまで校門で待っていたヤクザが急になごみに挨拶をしたので、なごみも周囲もめちゃくちゃ驚いてる。
それは、俺の隣のノリタカも同じで、口をパクパクして驚いてる。
あー、また変なことを考えているんだろうなぁ……
「おい、ヒロ」
「どうした?ノリタカ」
「俺……完全に惚れたわ。大和撫子の君に……なんだよ、あれ。なんで、ヤクザが彼女にあんな丁寧にあいさつするんだよ。ミステリアスすぎんだろ!」
友達がいなくなると心配していた なごみ。騒がしいやつに見初められたみたいだぞ? よかったな。
「じゃあな、ノリタカ」
「おっ、おう!またな、ヒロ」
俺が切り上げたので、ノリタカが戻って部活に行ってしまった。帰る必要があるので、しょうがないのでそのまま なごみの待つ校門に向かった。
「若! お勤めご苦労様です!」
「若はやめてください。あと、やっぱり校門はやめましょう。目立ちすぎて……」
「そこのところは、こちらでは決められない部分でして」
命は守ってもらえても、このままでは社会的に抹殺されてしまう。普通の高校生は校門までヤクザが迎えに来たりしないのだ。いくらリア充でもそれはないな。
「兄さん、やっぱり3か月どころか3日も無理そうです。何とかなりませんか?」
人間、失敗と分かってからやり直したっていいんだ。失敗のない人生なんて有り得ないのだから。
ハーレムエンドから始まるオタクボッチの俺が嘘リア充とバレるまで 猫カレーฅ^•ω•^ฅ @nekocurry
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