デスライス

 カニバリズムと聞いて全身が急速冷凍されたマグロみたくなってしまったが、食卓に人肉が並べられることはさすがになかった。



「さ、熱々のうちに召し上がれ」



 まともな料理でもなかったけれど。


 差し出された皿の上には赤い液体に包まれたおどろおどろしい固形物が乗せられていて、そいつが放つ強烈な刺激臭が鼻をつんざき、目から強制的に涙を流させてくる。とてもじゃないが口にしたくない。



「えっと、これはなに?」


「緒薔薇特製デスライスに決まってるでしょ。オムライスのオムをデスに置き換えた刺激溢れる一品よ」


「いやそんな世の常識みたいに言われても困るんだけど……というかこれ、卵一切使われてなくね?」


「当然でしょ? オムライスのオムを消しているんだから。デスライスは捻ったネーミングではなくド直球よ。盛られた白米にデスソースをかけているだけ」


「――殺す気満々じゃねーかッ!」


「大袈裟ね、人がそう簡単に死ぬわけないでしょ。ちょっと喉がただれてお腹壊してお尻の穴を痛めるだけよ」


「なにそのラーメン中〇食べた後みたいな症状は。絶対嫌なんだけど」


「……ちょっとなに言っているかわからないわ」



 訝しげな顔して首を傾げている緒薔薇は本気でわかっていない様子だ……まあゲームの世界だから仕方ないっちゃ仕方ないが。


 というか手抜き料理のくせしてなんで全身あんなに汚れていらっしゃったの? 包丁まで持ち出していたし――大袈裟なのはどっちだよ!


 おっと、そうじゃなくて。



「とにかくこれは無理、絶対無理だから。罰ゲームにしたって度を越しすぎだから。つかただの処刑だからこんなの」


「作った人を目の前にしてよくそんなことが言えるわね。一体どんな教育を受けてきたらそこまで無礼になれるの?」


「そっくりそのままお返ししたいんだけど……あのさ、贅沢は言わないからもうちょい真面なの振る舞ってくれない?」


「十分すぎるくらい真面じゃない。あなたの目は節穴なの?」


「いやただただ狂ってるでしょ…………あ」



 と、俺は手のひらの上に拳のハンコを押印し、感嘆符を頭上に浮かべた。



「そだったそだった! 緒薔薇って真面な料理作れないんだったっけ」



 そう俺が軽い調子で言うと、緒薔薇はピクリと片眉を動かす。


 が、俺は気にせず続けた。



「となれば、これから料理関係は全部俺が担うことになるのか……大変そうだけど、まあ俺から頼んだ同棲だしな! その辺は任せとけ!」


「私が料理下手だという体で話を進めないでもらえる? 殺すわよ」


「まあまあそう怒るなって。ほら、俺ってちょっぴり未来が視えちゃう能力持ってるだろ? だからわかっちゃうんだよねぇ」


「なにを視たというの?」


「そりゃあれだよ……俺の挑発に乗った緒薔薇が料理の腕を披露するんだけども、大失敗に終わって結果しょぼくれる。んで、見兼ねた俺がプロ顔負けの手さばきでさくさくっと作って、『達敏君すご~い』と緒薔薇は手を叩いて絶賛すると。そこからラブコメが始まっちゃうと……おーけー?」


「――はッ、あなたの予知能力とやらも完全ではないのね」



 席を立った緒薔薇は俺を一度見下ろし鼻で笑った後、スタスタとキッチンへ向かった。

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デスゲームものの主人公に転生した俺は本編を壊して推しである黒幕の女子とラブコメる 深谷花びら大回転 @takato1017

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