13日の金曜じゃないのに彼女は真っ赤に染まったエプロン姿で現れ

 津村つむら達敏たつとしとしての人生を歩むようになってから二週間が経過した。


 別荘での宿泊中は全員の生還、更に言えば緒薔薇とのラブコメルートしか考えておらずまったく気にしていなかったが、津村達敏にも帰るべき日常があって、これが中々に苦労した。


 仕事や職場での人間関係、プライベートも含め津村達敏に関わる情報が頭に入っていたのは助かった。が、いざ振る舞うとなると難しく、おかげで『なんか人変わった?』と多くの方に怪しまれる始末。笑って誤魔化すを多用してなんとか切り抜けてきたが………………早く慣れることに越したことはない。


 ま、その辺は上手いことやっていくしかないから頑張るとして――重要なのは緒薔薇とのこれからだ。


 土曜の午後。会社が休みである今日、俺は緒薔薇が住むマンションに車で訪れていた。今日から彼女との同棲が始まる。


 各種手続きも既に済んでおり、荷物も業者に頼んで移してある。準備は万端、もちろん心の方も。


 俺は新たに契約した駐車場に車をとめ、スマホを取り出す。



「――もしもし」


『あら、おはよう達敏君。お休みの日になにかしら?』


「いや、なにかしらじゃなくて……到着したから電話したんだよ」


『そ、なら上がってきて。鍵は開けておくから』


「りょうか――――って、毎度毎度切るの早すぎだろ緒薔薇」



 言い終わる前に電話を切られてしまった俺は、車内で一人寂しくスマホにツッコミを入れるのであった。



 ――――――――――――。



「お邪魔しま―す。じゃねーか――これからお世話になりまーす」


「――いらっしゃい。ではなくて、ころからお世話してあげますかしら? ペットの達敏君」


「誰がペットッ⁉ つか、その格好はなに?」


「見てわかる通りエプロン姿だけど? お昼まだと思って今作ってあげてるのよ。感謝して」


「あ、まあそれは素直に感謝するけども……」



 彼女の言う通り確かにエプロン姿ではある……あるのだが、



「え、人殺したりしてないよね? それ」



 全身が赤い液体? まみれになって、更に右手に握られている包丁の刃にもそれは付着している。土曜の午後だっていうのに13日の金曜日みたいな装いだ。



「失礼ね。ただ料理しているだけよ」


「いや、ただ料理するだけでそうはならないだろ! 大丈夫だよね? ほんと第一発見者とか勘弁してほしいんだけど!」


「発見もなにもないから安心なさい。ところで達敏君――〝カニバリズム〟って知ってる?」


「…………………………………………」


「あらあら、フリーズしちゃったわね。ひょっとして意味知ってたのかしら? フフフフ……」

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