第148話 従妹とデート
――駅前。
山本の
(私、変なところないわよね? まぁ、アイツとのデートなんて適当で良いんだけどさ……)
そう思いつつも、手鏡で何度も自分の姿を確認する。
留美は山本がアメリカに行く前に「帰ってきたら、デートをしてあげる」と約束していた。
そして、今日がその約束の日だった。
「――あら? 留美じゃなーい! 久しぶり!」
そんなところに、留美と幼馴染の女子高生――
留美も驚きつつ、思わぬ再会に喜ぶ。
「初音!? 久しぶりね! 中学以来かしら!」
「なんだ? 美緒の知り合いか?」
「そうよ! 幼馴染なの! 最近は会えてなかったけど!」
「学校が違うと、中々会う機会がないわよねー」
初音は留美の姿をジロジロと見る。
「こんなところで何してるの? しかも、凄くお洒落な格好して! もしかして、留美もデート? 相手、見てみたいな~」
「えっ、えっと……」
留美は少し言い淀んだ後に、首を横にブンブンと振る。
(私は変わるのよ! もうアイツと距離を置いて、傷つけたりはしないわ……!)
そして、堂々と胸を張って言い放った。
「そうよ。山本って覚えてるでしょ? 私は今日、アイツとデートなの」
留美の言葉に初音は目を丸くする。
「山本って……もしかして、山本流伽?」
「えぇ、そうよ」
「ぷっ……あはは!」
初音は大笑いする。
「あのデブと!? 何かの罰ゲーム?」
「違うわ、山本は良い奴だからデートするの。貴方だって、小学生の頃は色々と面倒を見てもらってたでしょ? 挨拶くらいしていったら?」
「そりゃそうだけどさぁ、今となっては黒歴史だよ~。あんなデブ!」
初音の様子を見て、初音の彼氏は言う。
「こんなに可愛い子がそんな奴と?」
「隣を歩くのも恥ずかしいくらい酷いのよ。もっと人が居ない場所でデートした方が良いんじゃない?」
初音が彼氏に太っている頃の山本の写真をスマホで見せると、2人は大笑いした。
「何とでも言って。私は別に恥ずかしくないから」
留美は毅然とした態度を崩さない。
(アイツの尊厳を守るためだもの、私は絶対に引かないわ……!)
◇◇◇
「えっと、待ち合わせ場所は……あっ、留美ったらもう来てる!」
俺は留美の背中を見つけて、声をかけた。
「留美っ! 来るのが早いね。まだ約束の時間の30分前だよ?」
俺が駆け寄ると、留美は怒りながら振り向いた。
「遅い! 私の方が先に来たんだから遅刻よ! ちこ――」
そう言いながら留美が振り返ると、以前とはすっかり変わってしまった俺の姿を見てかたまる。
「……え? 流伽? 本当に?」
「うん、姿は変わったけど……俺だよ。あっ、美穂もいるね! 久しぶり!」
美穂とその隣にいる男の人は口をポカンと開けたまま、俺を見る。
「う、噓……この人があの山本流伽なの?」
「ぜ、全然話と違うじゃねぇか……」
そこに、見知らぬオジサンがカメラを持って声をかけてきた。
「すみません、そこの素敵なお兄さん! 写真、一枚撮らせてくれませんか? 雑誌の表紙に使いたくて――」
俺は心の中で大きくため息を吐く。
やれやれ、"また"か。
「――お断りです、俺は今から大事な予定がありますので。さぁ行こう留美!」
「え、え、え!? ちょ、ちょっと!」
「美穂もまたね!」
俺は留美の手を繋いで、急いでその場を離れる。
初音とその彼氏はポカンとした様子で取り残された。
◇◇◇
街を歩きながら俺は留美に言う。
「この辺りも詐欺師が多いね。さっきのって写真を撮ってお金を請求してくるやつだよね? 留美も気を付けてね」
「え、あの……その……」
留美のたどたどしい様子に気が付いて、俺は手を放した。
「あっ、ご、ごめん! 手、繋いだままだった!」
「あ……」
留美は何やら残念そうな顔をすると、すぐに気を取り直して俺に話しかける。
「って、そ、そんな事より! ず、随分変わったわね……」
「うん。別人だと思った?」
「……一瞬ね。でも、すぐに流伽だって分かったわ」
「どうして?」
俺が尋ねると、留美は恥ずかしそうに答えた。
「て……手の繋ぎ方が優しかったから……」
「そういえば、昔はよく手を繋いで歩いてたね」
「る、流伽が迷子にならないように、私が繋いであげてたのよっ!」
「渓流で迷子になってたのは誰だったっけ?」
「う……私です」
そんなからかい合いをすると、2人で笑い合う。
留美は俺の顔を見て、ため息を吐いた。
「アンタの見た目が変わっちゃったのは私としては少し不本意なんだけど……」
「あっ、やっぱりそうなんだ……」
「でも、流伽は流伽のままだから良かったわ」
「留美も姿は随分変わったけど、子供の頃の留美のままだ」
そう言うと、留美は少しムッとした表情をする。
「私はもう高校生よ? 流伽とは違って子供じゃないわ」
「俺も高校生なんだけど?」
留美は得意げな表情をする。
「しょうがないわね~、私が大人のデートって奴を存分に味わわせてあげるわ!」
そう言って、留美は俺の腕を引いた。
◇◇◇
「大人のデートと言えば、やっぱりカフェよね!」
「そうなの?」
留美に言われるがまま、俺はお洒落なカフェに連れられる。
席について、注文したコーヒーを飲むと留美は顔を歪ませた。
「苦~い!」
「ほら、留美。ブラックじゃなくて俺が頼んだカフェラテを飲んで」
「わ、私は大人だから! ブラックで良いの!」
「大人ってそういうことじゃないと思うんだけど……」
多分、留美もデートなんてそんなにしたことがないんだろう。
でも、精一杯頑張っているみたいだから俺は気が付かないフリをする。
留美はこなれた様子を演じながら、俺に話をする。
「大人はいつも余裕を持ってないとダメなのよ、わがままなんて言えないわ」
「……俺は留美が飲んでるブラックが飲みたいな。留美は大人だから、俺のと交換してくれるよね?」
「あ、アンタがそう言うならしょーがないわね!」
留美は「助かった」と顔に書いているような表情で俺の飲み物と交換する。
こういうところも昔から変わらない。
俺のもう一人の可愛い妹みたいなものだ。
コーヒーを飲み終わると、気を取り直すように留美はまた俺の腕を引いて街を歩いた。
「やっ、やっぱり映画よ! 大人向けの、アート系映画があるからそれを見ましょう!」
「アート系って……結構理解するのが難しい奴だよね? 大丈夫かなぁ」
留美は得意げな表情で腕を組む。
「あのねぇ、流伽。大人は芸術にも理解があるモノなのよ?」
――2時間後。
「留美、映画終わったよ。起きて」
「……へ? あっ! 内容が難しすぎて寝ちゃってたわ……」
恥ずかしそうに口元の涎を拭いながら留美は顔を赤らめる。
「次よ、次! 次は高級フレンチに行くわよ!」
「留美、あまり無理はしなくても……」
「無理なんてしてないわ! 近くにフレンチレストランがあるらしいの!」
そうして留美が連れてきたのは――とても見覚えのある高級フレンチのお店だった。
「あの……留美?」
「何よ? あまりにオシャレ過ぎて怖気づいたかしら?」
「ここ、俺のバイト先……」
「……へ? 噓、こんなにお洒落な場所で働いてるの!?」
しかし、様子がおかしかった。
この時間のラ・フォーニュはいつもお客さんでにぎわっているはずだ。
なのに、1人の客も入っていないように見える。
(……営業中のはず。一体、何が?)
留美を連れて店内を覗くと、キッチンで一人頭を抱えている藤咲さんがいた。
――――――――――――――
【業務連絡&お知らせ】
いつも読みに来ていただき、ありがとうございます!
☆評価を入れてくださった皆さん、とても励みになりますっ!
漫画最終3巻は9月19日発売です! 最後に柏木さんからみなさんへのメッセージもありますので、気になる方は漫画をご購入ください!
あと2話で本作は完結になります!
そうしたら、新シリーズを開始予定です!
楽しみにお待ちください!
本作を最後まで、皆さんに見届けて頂きたいです!
何卒よろしくお願いいたします!
<(_ _)>ペコッ
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