第144話 君を助けに その2


 千絵理を攫った、『アウトランダー』の活動拠点である廃倉庫。


 その前に居た厳つい風貌の男は、素早いステップを刻みながら俺に接近し、息を吐きながらの鋭いパンチを2発放つ。


「ふっ! はっ!」


(――速いっ!?)


 どうやらボクシング経験者らしいその男の拳の速さに面食らい、俺はなすすべなくアゴと鳩尾を1発ずつ殴打された。

 ジャブというやつだろう。

 明らかに喧嘩慣れしている。


「これでしばらくは動けない。そこで大人しく倒れていてくれ」


 勝負は決したとでも言うようにその男は構えを解く。

 しかし、俺は倒れない。

 直後に負けじと不格好に殴り返した。


「うおぉぉぉ!」

「――っ!?」


 その男は驚きつつも、俺の拳を躱す。


「馬鹿な!? なぜ、まだ動ける! 急所にクリーンヒットしたはずだっ!」

「まだまだっ!」

「……致し方なし、少し眠れ」


 再び俺は殴り掛かるが、男は軽く躱しつつさらに俺の鳩尾にカウンターのショートアッパーを放った。


「ガハッ!」


 鳩尾に重い一撃をもらい、俺は軽く咳き込む。

 でも、これも大したダメージじゃない。

 人一倍に頑丈なこの肉体のおかげだろう。

 それに、コイツを倒さないと千絵理は助けられないんだ。

 負けるわけにはいかない。


 俺が再び距離を取って両手を構えると、その男は驚愕の表情を浮かべていた。


「ば、馬鹿なっ!? 今ので倒れないのはいくらなんでもおかしいでござる!」


 よほど慌てているのだろうか、口調がおかしい。

 ……どこか、懐かしいような気もするけど。

 俺は戦略を練る。


(とにかく、この男は強すぎる……! 素人の俺がいくら殴り掛かっても動きを読まれて拳が当たらない……何か別の方法を……あっ!)


 周囲を見回した俺は倉庫の外に大量に打ち捨てられたままのドラム缶を見て思いついた。

 殴り合いは相手の土俵だ、正攻法じゃ敵わない。

 これをいくつか投げつければ少しはひるんで隙が生まれるかもしれない。


「よっと……」


 俺はドラム缶をヒョイと掴んで持ち上げる。

 男はそんな俺の姿を見て頬に汗をつたわせた。


「ほ、本当に人間でござるか!?」

「怪我をしたくないなら、降参してください。俺も手加減できませんので」

「くっ、ここで手間取っていては倉庫の中の女生徒を助け出すのに時間が……」

「――へ? ちょ、ちょっと待って!」


 俺は持ち上げたドラム缶を投げつける直前で何とか踏み止まる。


「今、『女生徒を助ける』って言いました?」


 俺の質問に、その男は風変わりな口調で答えた。


「……? さよう、おぬしら『アウトランダー』が連れ去ったのであろう? さながら戦国大名、宇喜うきた多直家なおいえの如き卑怯極まりなき所業!」


「えぇ!? 違いますよ! 俺も『アウトランダー』から千絵理を助けに来たんです! ……というか、その口調と日本史知識はもしかして――」


 俺はゴクリと唾を飲んだ。


「――吉野先輩……ですか?」

「……な、なんで拙者の真名を!?」

「俺です! 山本ですよ!」


 俺がドラム缶を置いて正体を明かすと、吉野先輩は今日一番の驚いた表情を見せた。


「や、山本殿でござるか!? なんという姿の変わりよう!」

「いやいや、吉野先輩の方こそ! 眼鏡を外して髪を後ろにまとめたら、そんなワイルドな風貌になるんですね!?」

「拙者、目つきが凄く悪いので普段はダテ眼鏡をかけているのでござるよ!」


 吉野先輩はそう言うと、ポケットから眼鏡を取り出して顔にかけて見せてくれた。

 キラリと光る大きな丸眼鏡は確かに俺が良く知る吉野先輩だった。


 そんな会話を交わした直後のことだった。

 廃倉庫のシャッターがガラガラと大きな音を立てて開いていく。

 驚いた俺と吉野先輩がその先を見ると、中には大勢の『アウトランダー』の構成員と思わしきガラの悪い男たちが集まっていた。


 その中の1人の男が声を上げる。


「なんだか外が騒がしいと思ったらよー、誰だテメェら?」


 その見覚えのある金髪の男を目の当たりにして、俺は驚く。


「……ボクシングの佐山、アイツこんな所で」

「……どうやら、変わってしまったのは拙者たちだけではなかったようでござるな」


 吉野先輩はそう言うと、佐山に語りかける。


「佐山殿、この顔に見覚えはござらんか? 拙者は文芸部の吉野でござる」

「……は? 文芸部……?」


 佐山は噴き出すように笑った。


「あぉ、お前! ションベンちびりの歴史オタクか!」


 そう言うと、周囲の同じ辻堂高校の制服を着た不良たちも嘲笑する。


「おいおい、何でこんな所にションベン野郎がきてるんだよ!」

「何かクセーと思ったらそういうことかよ!」

「もしかして、正義の味方気取りでこんな所に来たのか?」

「おい、佐山! またそいつにションベンちびらせてやれよ!」


「へっ、言われなくてもよぉ!」


 佐山がヘラヘラと笑いながら吉野先輩に近づき、ジャブを打つ。

 俺はただ、その様子を見守っていた。

 きっと、今の吉野先輩ならこの程度問題ないと思ったから。 


 ――ボスンッ!


 吉野先輩は佐山のパンチを左肩で弾きとばすと、カウンターパンチを佐山の腹部に打つ。


「ガハッ!? し、"ショルダーロール"だとっ!? テメェ、どうやって……」

「この1年間、必死にボクシングを学んだでござるよ。不甲斐ない自分を変える為に」


 吉野先輩は再び眼鏡を外すと、俺に言う。


「山本殿、ここは拙者に任せて連れ去られた女生徒を助けに行くでござる」

「えぇ!? で、でも流石に吉野先輩でもこんな滅茶苦茶な数の不良たちを相手になんてできないんじゃ……」

「ふっふっふっ、山本殿。この1年で拙者もようやく手に入れたのでござるよ――」


 吉野先輩はそう言うと、制服のポケットから鉢巻を取り出して額にギュッと巻いた。


「――心無い者たちから、誰かを守れる強さを!」


『風林火山』と書かれたそのハチマキが風にたなびくと、アウトランダーの不良たちはたじろいだ。


「お、おい! あいつ、もしかして……」

「風林火山のリーダー、『信玄』だっ!」

「近所のチーマーを潰して回っているっていう、あの!?」

「ついに、俺たちアウトランダーも直接潰しに来たのか!?」


「……拙者も有名になってしまったようでござるな。丁度、同士たちも駆けつけて来てくれたみたいでござる」


 俺たちの背後からぞくぞくとエンジンの音が聞こえてきた。

 間もなく、大量のバイクと『風林火山』の旗を掲げた厳つい男たちが集まる。

 吉野先輩は、チームリーダーの『信玄』として口調を戻して高らかに宣言した。


「おぬしらの悪事もここまでだ! 降参するなら今のうちだぞ! しないのであれば……容赦はしない!」


 しかし、『アウトランダー』の不良たちは息をまく。


「へっ、『風林火山』はいつか潰さなくちゃいけねぇと思ってたんだ!」

「こっちはホームだぜ! 負けるわけがねぇ!」

「やってやるよ! 全面抗争だ!」


 佐山も立ち上がると、拳を構えた。


 吉野先輩はため息を吐くと、俺ににっこりと笑う。


「さぁ、ここは拙者たちに任せて行くでござるよ山本殿。白馬の王子さまの役は山本殿の方が適任でござる!」

「吉野先輩……ありがとうございます!」


 足止めしようとする不良たちを蹴散らしながら、俺は千絵理を助ける為に廃倉庫の奥へと入って行った。


 ――――――――――――――

【謝罪&これからに向けて】

 皆様、大変長らくお待たせしてしまい申し訳ございません!

 本日より、『山本君の青春リベンジ!』を完結に向けて毎日投稿させていただきます!


「待ってたよ!」

「投稿頑張って!」

「最後まで見るよ!」


 という方は☆評価を入れていただけますと大変励みになります!

(すでに入れてくださっている方、本当にありがとうございます!)


 久しぶりの投稿ということで至らぬ点が多々あると思います!

 よわよわ作者なので、また心が折れてしまわぬように☆評価や暖かい励ましの言葉を頂けますと幸いです!


 これからまた、皆様が楽しんでいただける作品を沢山作っていけるよう頑張りますので、ぜひ末永く、今後ともよろしくお願いいたします!


<(_ _)>ペコッ

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