第142話 新たな学園生活

 

 ――ザワザワザワ。


 昼休みになっても、教室中は柏木さんを見てザワついていた。

 当然だ、制服の上に白衣を着た美少女編入生。

 いきなり『ただの人間には興味ありません』だなんて自己紹介を始めてもなんら不思議ではない。

 そのついでの様に隣の席に座る俺はモブキャラAに違いないのだが……。


「ほら、山本。食物だ、経口摂取しろ」

「むぐっ!?」


 隣同士の机で昼食を食べる柏木さんはさも当然の行為であるかのように俺の口にお手製のブラウニーを突っ込んできた。


「柏木さん、びっくりするんでやめてくださいよ!」

「諦めろ。正直、かなり楽しい」

「はぁ、全く……非常識ですよ? 人に口にラムネやら何やら何の予告もなく……」

「元はと言えば、お前が小学生だった頃の私の口に無理やり(ラムネシガレットを)突っ込んできたんだろ?」

「ちょっ!? 変な言い方しないでくださいよ!」


 周囲に聞かれていないか冷や汗をかいていると、俺の携帯にメールが届いた。

 文芸部からだ!


『今日、山本君が帰ってきました~!

 だから、歓迎会をします!(*´꒳`*ノノ゛パチパチ

 しかも、高峰大先生も来てくれるんだって!

 という訳で、放課後文芸部の部室に来てね~!』


 新しく部長に就任した足代先輩の賑やかなメールについ頬が緩む。

 高峰先輩は無事、東京大学に進学したから部員は3人になっちゃったけど……。

 柏木さんは俺の弁当箱から勝手に卵焼きをつまんで尋ねる。


「何だ? 何か楽しいことでも書いてあったのか?」

「はい! 今日の放課後、俺が所属してる文芸部の皆さんが歓迎会をしてくれるそうなんです! 柏木さんも一緒に来ませんか?」

「せっかくの水入らずの歓迎会なんだ、私は存在することを遠慮するよ。それにしても、山本はまだスマホを持っていないんだったな」

「そうなんです。彩夏には持たせてるんですが、俺の分まではお金が――ちょっとまってください、何で無言で財布を取り出しているんですか?」

「なぜなら、ここにお金があるからだ。山本は私のことを便利な財布だとでも思って使えば良いさ」


 さらにあらぬ誤解をかけられそうな俺は何とか柏木さんを説得して財布を引っ込めさせた。

 大丈夫? 俺、クズ男に見られてない?


       ◇◇◇


 午後の授業を終えて帰りのHR。

 広瀬先生が神妙な面持ちでクラス中に告げる。


「最近、地元の不良チーマーである『アウトランダー』が周囲で悪さをしているのは知っているな? 諸君も気を付けてくれ」


 そんな注意勧告を聞いて、柏木さんが鼻で笑う。


「なんだ、日本は治安が良いと聞いていたが違うのか」

「あはは、湘南は少しだけヤンチャな人が多いんですよ」

「とはいえ、アメリカのギャングとは比較にもなるまい」


 そんな俺たちの話を聞いて、後ろの席の癖っ毛の女の子がこっそりと話しかける。


「ふ、2人とも気を付けた方が良いよ……。『アウトランダー』は人さらいもやってるって噂だし……そんなに顔が良いと何されるか……」

「君は……後田うしろださん、そうなの?」


 俺が尋ね返すと、後田さんは顔を紅潮させる。


「な、名前呼んでもらえた……」

「おい、調子に乗るなよ? 山本に手を出したら承知しないからな?」

「ひぃっ!?」

「柏木さん、後田さんは俺の事イジメないから大丈夫ですよ……多分」


 過剰すぎる柏木さんセキュリティが気弱そうな後田さんに牙を剥く。

 このせいで、今日は誰も話しかけてこなかったし。


 後田さんはしどろもどろになりながら説明してくれた。


「ウチの学校って1年位前にイジメに対して凄く厳しくなったんだ。そのせいでイジメをしてた生徒の何人かが『アウトランダー』に入っちゃったみたいで……」


 1年前……間違いなく蓮司さんが手を回した時だ。

 イジメをしていた生徒たちは学校での悪事が出来なくなったから、悪さをしてるチームに入って鬱憤を晴らしてるのだろう。


「蓮司め、爪が甘いな」

「流石にそこまでは予測できませんよ……そういえば、千絵理にもまだ会ってませんね」

「あっ、千絵理ってもしかして遠坂ちゃんの事?」

「あぁ、私たちは千絵理とは縁があってな。元気にしているか?」


 柏木さんが尋ねると、後田さんは嬉しそうに話し始めた。


「お昼休み、ピアノの音が聞こえてきたでしょ? あれって、2年E組の遠坂ちゃんがお昼休みに友達が居ない子たちを誘って音楽室で一緒にご飯を食べてるんだ~。リクエストすると色んな曲を弾いてくれるんだよ~、アニメの曲とかも!」


 思わぬところから千絵理の情報を聞くことができた。

 今は違うクラスだけど、どうやら元気なようで安心する。

 柏木さんもしみじみと頷く。


「全く、蓮司よりも千絵理の方がしっかりしてるじゃないか」

「イジメられてた子たちや孤独な子の居場所を作ってあげているんですね。あはは、千絵理は本当に凄いなぁ」

「後は山本がその『アウトランダー』とかいうのを成敗すれば解決だな」

「俺、喧嘩なんてしたことないですよ……?」

「ダ、ダメだよ喧嘩なんて!? 『アウトランダー』は公民館の南にある廃倉庫をたまり場にしてるって噂だから近づかないようにしてね」

「うん、ありがとう後田さん」

「お、お礼なんてそんな……えへへ。最近、チーマー同士で抗争も起こってるから本当に気を付けて」

「他にもチーマーがいるのか?」

「うん、『風林火山』って新しくできたチーマーが……あっ、でもこっちは悪いことはしてないんだ。むしろ、周囲の悪いチーマーを懲らしめてるって噂で」


 正義のチーマー……。

 ジョニーさんたちの『ブレイバーズ』みたいな感じかな。

 どうやら俺がアメリカに行っていた1年の間に色々と起こっているみたいだ。


「まぁ、こっちにはアメリカの刑務所に投獄された山本が居るからな。悪さでは負けないだろう」

「あはは、何その冗談~」


 後田さんは袖を口元に当ててクスクスと笑う。

 すみません後田さん、事実なんです……。


 そんな話をしてる間に帰りのHRは終わっていた。

 周囲はみな、部活や帰路に向かう。


「勇気出して話しかけて良かった~。じゃあ、2人ともこれからもよろしくね!」

「うん、後田さんも気を付けて帰ってね」

「色々と教えてくれて感謝する」


 手を振って後田さんを見送ると、俺は柏木さんに提言した。


「柏木さん、やっぱり家まで送っていきますよ。治安も良くないみたいですし」

「心配には及ばん、私はタクシーでも呼んで帰るさ。彩夏もついでに送っておいてやる」

「すみません、助かります……」

「大したことじゃないさ、山本は文芸部員との再会をしっかりと楽しんできてくれ。じゃあ、また明日」


 そう言った柏木さんを教室から見送った。


(千絵理はもう帰っちゃっただろうな。いつもピアノの練習で真っすぐ家に帰ってたし。会うのは明日で良いか)


 そんな事を思いながら、部室に向かう途中。

 廊下で何やら慌てふためいている女子生徒がいた。

 その子は俺を見かけると、すがるように泣きついてくる。


「い、今! 廊下の窓から遠坂さんが悪そうな人たちに無理やり車に乗せられてるの見たんです! あの、い、一体どうしたら!?」


 過去のイジメっ子たちの鬱憤は、最悪の形で千絵理の身に降りかかっていた。


 ――――――――――――――

【業務連絡&お知らせ】

 投稿、遅れまして誠にすみません……。

 そして、『山本君の青春リベンジ!』のコミックが発売されましたのでご購入いただけますと嬉しいです!

 主人公無双やハーレム系が読みたいなら『ギルド追放された雑用係の下剋上~超万能な生活スキルで世界最強~』が2巻まで出ていまして、3巻も冬ごろに出ると思いますのでかなりオススメです!

 山本君の青春リベンジ!小説も好評発売中です!

 web版の方と合わせて気長にお待ちいただけますと幸いです…!

 次の投稿までお待ちの間、新作をご用意いたしましたので是非とも読みに行っていただけますと嬉しいです!

『異世界帰りの俺は現代ダンジョンで無双する~イジメられていた底辺探索者の俺が異世界から帰ってきたら最強になっていた件~』

https://kakuyomu.jp/works/16817330665815693121


 未熟な作者で申し訳ないですが、☆評価を付けに行って諸々の作品を応援していただけると嬉しいです…!

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